日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 P (宇宙惑星科学) » P-PS 惑星科学

[P-PS08] 太陽系物質進化

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:30 展示場特設会場 (3) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:日比谷 由紀(東京大学 先端科学技術研究センター)、川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)、橋口 未奈子(名古屋大学)、座長:川崎 教行(北海道大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)、松本 徹(京都大学白眉センター)


09:30 〜 09:45

[PPS08-13] 月ソイル71501イルメナイトに記録されたコロナ質量放出由来の4Heと20Ne

*大槻 悠太1馬上 謙一1、Wieler Rainer2圦本 尚義1 (1.北海道大学大学院理学院、2.ETHチューリッヒ)


キーワード:月レゴリス、太陽風、コロナ質量放出

Introduction
太陽型星は形成初期ほど活発に活動することが知られている[e.g., 1].一方で,太陽自身の活動の歴史は良くわかっていない.太陽は,定常的な太陽風に加え,突発的なコロナ質量放出(CME)によって惑星間空間にプラズマを放出している.これらのプラズマが月のレゴリス表面に到達すると,レゴリス粒子中に注入される.このとき,プラズマ粒子が注入される深さは,太陽風やCMEの運動エネルギーに依存する.このため,月レゴリス粒子に注入された太陽風成分の深さ方向分布を解析すれば,過去の太陽風のエネルギー分布を推定することができる[2].本研究では1億年前の太陽風に着目する.
Samples and Methods
試料は,アポロ17号が採集した月71501ソイルから分離したイルメナイト粒子(71501#1,71501#3)を使用した.71501ソイルは1億年ほど前に太陽風照射を受けたとされている[3, 4].
希ガス深さ方向分析には同位体ナノスコープLIMASを用いた[2, 5].深さ方向分析は[2]と同様の手法で行った.測定イオンは希ガスイオン4He+, 20Ne+と,イルメナイトの主要元素のイオン56Fe2+ (or 3+), 48Ti4+, 16O2+とした.希ガス濃度の較正には4He (3 × 1015 cm-2, 20 keV) と20Ne (1 × 1014 cm-2, 100 keV) を共注入した南アフリカ産イルメナイトを用いた.
希ガス深さ方向分布の解析には,ACE探査機/SWICSによって観測された2001–2004年の2.3年間の太陽風エネルギー分布[6]を用いたSRIM[7]によるイオン注入シミュレーションを使用した.[6]のエネルギー分布のうち900 km/s未満のものを定常的な太陽風による分布,それ以上のものをハロウィン太陽嵐に伴うCME(Halloween-CME;H-CME)による分布とした.それぞれ速度分布についてイオン注入シミュレーションを行い,2.3年間の定常的な太陽風と,1回のH-CMEによって形成される深さ方向分布を見積もった.
Results and Discussion
2粒子の4He,20Ne深さ方向分布は共に,表面から~15–30 nmの深さにピークを持ち,深さ100 nm以深は緩やかに減衰した.このピーク深さは2.3年の定常的な太陽風による分布と一致した.71501#1と#3の20Neのピーク濃度はそれぞれ2 × 1019,6 × 1019 cm-3であった.この濃度は,それぞれ1200年と3000年の太陽風照射に相当する.
100 nm以深の緩やかな減衰はH-CME級の高エネルギー粒子の注入によって形成されたと考えられる.この減衰曲線をH-CMEから推定されたSRIMによる深さ方向分布と比較した.その結果,71501#1と#3はH-CME級の高エネルギー粒子がそれぞれ170回と1000回分蓄積した分布を示した.
以上の結果から,1億年前の太陽でH-CME級の高エネルギー現象が起こった頻度を見積もった.71501#1と#3から得られた頻度はそれぞれ100年あたり15回と30回と見積もられた.現在の太陽ではハロウィン太陽嵐級の高エネルギー現象は100年あたり10回程度の頻度で起こっている[8].1億年前の太陽は現在と比較して同程度か,あるいは少し活発にハロウィン太陽嵐級の爆発現象を起こしていたことが判明した.

References: [1] Feigelson E. D. et al. (2002) ApJ. 572, 335–349. [2] Bajo K. et al. (2015) Geochem. J. 49, 559–566. [3] Benkert J. -P. et al. (1993) J. Geophys. Res. 98, 13147–13162. [4] Eugster O. et al. (2001) Meteorit. Planet. Sci. 36, 1097–1115. [5] Yurimoto H. et al. (2016) Surf. and Interf. Anal. 48, 1181–1184. [6] Reisenfeld D. B. et al. (2013) Space Sci. Rev. 175, 125–164. [7] Ziegler J. F. et al. (2010) Nucl. Instrum. Methods Phys. Res. B. 268, 1818–1823. [8] Gopalswamy N. (2018) In Extreme Events in Geospace, 37–63.