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[PPS08-P05] 炭素質コンドライト母天体の形成位置の制約に向けた有機物形成実験
キーワード:炭素質コンドライト、小天体、不溶性有機物、アンモニア、ヘキサメチレンテトラミン、水質変質
惑星形成過程を解明する上で小天体の形成位置は重要であるが、小天体の現在の位置と集積した位置は異なっている可能性がある[1]。小天体の集積位置を推定するための指標には、例えば隕石に含まれる物質の同位体比があるが、これには天体内での変成によって変化する場合があるという問題がある。そこで本研究では、地球外物質中の不溶性有機物の化学構造を小天体の集積位置の指標とすることを検討した。隕石などに含まれる不溶性有機物は母天体で単純な分子から水質変質によって生成した可能性が考えられている[2]。この場合、変質前の出発物質は、母天体の集積位置によって異なると考えられる。本研究では、地球外物質中の不溶性有機物を模擬した物質を様々な組成の出発物質から合成し、生成物の分子構造に差異が生じるかを調べた。これによって、地球外物質中の有機物を小天体の集積位置の指標とすることができないか検討した。
本研究ではまず、アンモニアスノーラインの内側と外側を想定して、不溶性有機物が生成される際の出発物質中の窒素源の違いに着目した。アンモニアスノーラインの外側では窒素源としてアンモニアを,内側ではヘキサメチレンテトラミン(C6H12N4, HMT)を含むものとし,出発物質の組成がH2O:HCHO:CH3OH:NH3:HMT:グリコールアルデヒド(GA) = (1)100:4:2:1.5:0:0.5、(2)100:4:2:0:0:0.5、(3)100:4:2:0:0.375:0.5、(4)100:0:2:0:0.375:0.5の溶液を調整した。これらの試料の組成は彗星で観測された分子の組成を参考にして決めた。これらの試料に触媒としてCa(OH)2を加えた溶液を500 µLずつガラス管内に真空封管し、150℃で72 h加熱実験を行った。加熱終了後、遠心分離により生成物を固体と液体に分け、固体生成物は塩酸・純水・CH3OH・CH2Cl2で洗い、乾燥させた。乾燥した固体生成物は、顕微FT-IRを用いて赤外スペクトルを測定した。触媒のCa(OH)2を加えない条件と、出発物質にGAを加えない条件でも同様に実験を行った。
模擬実験で合成された固体有機物の赤外スペクトルについて、脂肪族CH2、脂肪族CH3、C=O、C=Cのピーク高さを求めた。それらの値から(CH3+CH2)/C=C、C=O/C=C、CH2/CH3の値を計算した。GAありCa(OH)2あり、GAありCa(OH)2なし、GAなしCa(OH)2ありのどの条件においても、出発物質に窒素源が含まれない試料(2)のC=O/C=Cの値と、窒素源が含まれる試料(1)、(3)、(4)のC=O/C=Cの値との間には明らかな差が見られた。このことから、出発物質における窒素源の有無により生成物がもつ特徴に違いが生じることがわかった。一方で、 出発物質における窒素源がNH3の試料(1) の(CH3+CH2)/C=C、C=O/C=C、CH2/CH3の値と、窒素源がHMTでHCHOを含む試料(3)の(CH3+CH2)/C=C、C=O/C=C、CH2/CH3の値は比較的近く、試料(1)と(3)との間に明らかな差は見られなかった。よって、出発物質におけるNH3とHMTの違いによる生成物の特徴の違いは、赤外分光分析によって確認できなかった。元素分析やXANES(X線吸収端近傍構造)の分析といった他の手法を用いて生成物を分析することで、赤外分光分析では確認できなかった特徴の違いを見ることができるかもしれない。また、窒素源として出発物質に含まれる可能性がある物質はNH3とHMT以外にもあると考えられるので、窒素源となり得る他の含窒素化合物を用いて同様の実験を行うことで、新たな知見が得られるかもしれない。
今回の実験では、出発物質におけるNH3とHMTによる生成物の違いは確認できなかったが、出発物質における窒素源の有無により生成物に違いが生じることがわかった。本結果を踏まえて、窒素源として出発物質に含まれる可能性があるNH3とHMT以外の化合物を用いて実験を行うことや、他の方法で実験生成物を分析することを検討している。
参考文献
[1] H. F. Levison et al., Nature 2009, 460, 7253.
[2] G. D. Cody et al., PNAS 2011, 108, 48.
本研究ではまず、アンモニアスノーラインの内側と外側を想定して、不溶性有機物が生成される際の出発物質中の窒素源の違いに着目した。アンモニアスノーラインの外側では窒素源としてアンモニアを,内側ではヘキサメチレンテトラミン(C6H12N4, HMT)を含むものとし,出発物質の組成がH2O:HCHO:CH3OH:NH3:HMT:グリコールアルデヒド(GA) = (1)100:4:2:1.5:0:0.5、(2)100:4:2:0:0:0.5、(3)100:4:2:0:0.375:0.5、(4)100:0:2:0:0.375:0.5の溶液を調整した。これらの試料の組成は彗星で観測された分子の組成を参考にして決めた。これらの試料に触媒としてCa(OH)2を加えた溶液を500 µLずつガラス管内に真空封管し、150℃で72 h加熱実験を行った。加熱終了後、遠心分離により生成物を固体と液体に分け、固体生成物は塩酸・純水・CH3OH・CH2Cl2で洗い、乾燥させた。乾燥した固体生成物は、顕微FT-IRを用いて赤外スペクトルを測定した。触媒のCa(OH)2を加えない条件と、出発物質にGAを加えない条件でも同様に実験を行った。
模擬実験で合成された固体有機物の赤外スペクトルについて、脂肪族CH2、脂肪族CH3、C=O、C=Cのピーク高さを求めた。それらの値から(CH3+CH2)/C=C、C=O/C=C、CH2/CH3の値を計算した。GAありCa(OH)2あり、GAありCa(OH)2なし、GAなしCa(OH)2ありのどの条件においても、出発物質に窒素源が含まれない試料(2)のC=O/C=Cの値と、窒素源が含まれる試料(1)、(3)、(4)のC=O/C=Cの値との間には明らかな差が見られた。このことから、出発物質における窒素源の有無により生成物がもつ特徴に違いが生じることがわかった。一方で、 出発物質における窒素源がNH3の試料(1) の(CH3+CH2)/C=C、C=O/C=C、CH2/CH3の値と、窒素源がHMTでHCHOを含む試料(3)の(CH3+CH2)/C=C、C=O/C=C、CH2/CH3の値は比較的近く、試料(1)と(3)との間に明らかな差は見られなかった。よって、出発物質におけるNH3とHMTの違いによる生成物の特徴の違いは、赤外分光分析によって確認できなかった。元素分析やXANES(X線吸収端近傍構造)の分析といった他の手法を用いて生成物を分析することで、赤外分光分析では確認できなかった特徴の違いを見ることができるかもしれない。また、窒素源として出発物質に含まれる可能性がある物質はNH3とHMT以外にもあると考えられるので、窒素源となり得る他の含窒素化合物を用いて同様の実験を行うことで、新たな知見が得られるかもしれない。
今回の実験では、出発物質におけるNH3とHMTによる生成物の違いは確認できなかったが、出発物質における窒素源の有無により生成物に違いが生じることがわかった。本結果を踏まえて、窒素源として出発物質に含まれる可能性があるNH3とHMT以外の化合物を用いて実験を行うことや、他の方法で実験生成物を分析することを検討している。
参考文献
[1] H. F. Levison et al., Nature 2009, 460, 7253.
[2] G. D. Cody et al., PNAS 2011, 108, 48.