日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG48] 岩石・鉱物・資源

2023年5月26日(金) 10:45 〜 12:15 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、福士 圭介(金沢大学環日本海域環境研究センター)、野崎 達生(国立研究開発法人 海洋研究開発機構 海洋機能利用部門 海底資源センター)、纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)、座長:纐纈 佑衣(名古屋大学大学院 環境学研究科)、西原 遊(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)

11:15 〜 11:30

[SCG48-03] 茨城県岩船閃緑岩のマグマ過程と成因

*山崎 陽生1江島 輝美2昆 慶明3 (1.信州大学大学院総合医理工学研究科、2.信州大学理学部、3.国立研究開発法人産業技術総合研究所)


キーワード:全岩化学組成、閃緑岩、岩船地域、筑波山地、マグマ過程

茨城県城里町に位置する岩船閃緑岩は,64.5 ± 1.1 Maおよび64.4 ± 1.0 Ma(山崎ほか,2021)のジルコンU–Pb年代を持つ,八溝層群の堆積岩類に貫入する小岩体である。岩船閃緑岩は,北部に位置する前期白亜紀の八溝山地の閃緑岩および斑れい岩(109–102 Ma; Ejima et al., 2018; 江島ほか, 2019)と,南部に位置する後期白亜紀–古第三紀暁新世の筑波山地の花崗岩および斑れい岩(66–61 Ma; 小池・堤, 2017; Koike and Tsutsumi, 2018; Wang et al., 2021)の分布域の間に位置する。したがって,岩船閃緑岩のマグマ過程と成因を明らかにすることは,それぞれの年代および場所による深成岩類の火成活動の変遷を理解する上で重要である。しかし,岩船閃緑岩の全岩化学組成は報告されておらず,岩船閃緑岩のマグマ過程と成因は明らかになっていない。
本研究では,岩船閃緑岩のマグマ過程および成因を考察するために,蛍光X 線分析装置およびレーザーアブレーション誘導結合プラズマ質量分析装置を用いた全岩化学組成分析をおこなった。加えて,筑波山地の閃緑岩および斑れい岩の全岩化学組成分析もおこない,岩船閃緑岩の全岩化学組成との比較をおこなった。
岩船閃緑岩のマグマ過程は,岩船閃緑岩の全岩化学組成とMELTS for Excel (Gualda and Ghiorso, 2015)の計算結果を比較して考察した。最も苦鉄質な閃緑岩の全岩学組成を初生メルトの組成だと推定して計算をおこなった。計算結果から,初生メルトから斜長石が18.2 %,単斜輝石が22.8 %分別した際に,最も珪長質な岩船閃緑岩の組成に類似することが明らかになった。また,メルトから分別した鉱物量比とそれぞれの鉱物–メルト間の分配係数(Rollinson and Pease, 2021)から,レイリ–分別モデルを用いて計算したメルトの微量元素組成は,重希土類元素を除いて最も珪長質な岩船閃緑岩の組成に類似する。これらの結果から,岩船閃緑岩は斜長石と単斜輝石による結晶分化作用によって形成されたと結論付けられる。
岩船閃緑岩の主成分元素(MgO, CaO, Na2O, K2OおよびP2O5)と微量元素(Sr, Rb, Ba, Nb, Ta, Zr, Hf, Y, U, Th, コンドライト(Boynton, 1984)で規格化した[Eu] N/[Eu] N*および [La]N/[Yb]N)の組成変化トレンドは,筑波山地の閃緑岩および斑れい岩(Wang et al., 2021)のものと類似している。一方,岩船閃緑岩のSr,NbおよびYの組成変化トレンドは八溝山地の閃緑岩および斑れい岩(Takahashi et al., 2005; 小泉ほか, 2006; 江島ほか, 2019)のものとは異なっている。また,岩船閃緑岩のΣREEとREEパターンの傾き(ΣREE = 88.4–136 ppm,[La]N/[Yb]N = 5.10–5.94)は,筑波山地の閃緑岩(ΣREE = 120–137 ppm, [La]N/[Yb]N = 5.94–6.10)と類似している。したがって,全岩化学組成の比較およびジルコンU–Pb年代は,岩船閃緑岩は筑波山地の閃緑岩および斑れい岩に帰属することを示唆している。この結果から,岩船閃緑岩の起源物質は,筑波山地の閃緑岩および斑れい岩の起源物質(Wang et al., 2021)と同様のものであったと考えられる。したがって,岩船閃緑岩はマントルかんらん岩の部分溶融で生じたメルトに由来する可能性がある。
以上の結果より,岩船閃緑岩はマントルかんらん岩の部分溶融で生じたメルトに由来し,65.6–63.4 Maに八溝層群の堆積岩に貫入し,斜長石および単斜輝石の結晶分化作用によって形成したと考えられる。