日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 海洋底地球科学

2023年5月22日(月) 15:30 〜 16:45 301A (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)、座長:生田 領野(静岡大学理学部)、富田 史章(東北大学災害科学国際研究所)

16:00 〜 16:15

[SCG52-03] 東北沖におけるウェーブグライダーを活用したGNSS音響海底地殻変動観測と成果

*富田 史章1飯沼 卓史2木戸 元之1太田 雄策3福田 達也2日野 亮太3 (1.東北大学災害科学国際研究所、2.海洋研究開発機構、3.東北大学大学院理学研究科)

キーワード:GNSS音響観測、ウェーブグライダー、海底測地観測、余効変動、2011年東北地方太平洋沖地震

GNSS音響測距結合方式による海底地殻変動観測(以下,GNSS-A観測)により,これまで地震サイクルに伴う海域での地殻変動の計測成果が数多く報告されてきている [e.g., Honsho et al., 2019, JGR].GNSS-A観測では,海上でのGNSS測位及び海上-海底間の音響測距の実施のため,海上プラットフォーム(海上局)が必要となる.一般的には,船舶を海上局として活用した観測が行われるが,人的・金銭的な運用コストが高く,多数の観測点での高頻度なGNSS-A観測を実施する上でそのコストの高さが障害となっている.そこで,海洋研究開発機構と東北大学では,波の力により無人で航行可能なウェーブグライダーを海上局として活用することで,長期自律的なGNSS-A観測の技術開発に取り組んでいる.ウェーブグライダーを用いた取り組みは,2019年7月に実施した試験観測において海底地殻変動の検出に成功し [Iinuma et al., 2021, Front. Earth Sci.],2020年以降は複数の観測点を網羅的に計測する長期的なキャンペーン観測を繰り返し実施している.こうしたウェーブグライダーを用いたGNSS-A観測の技術開発の進捗状況については,飯沼・他 [本学会,海域地震津波地殻変動観測の最前線]にて報告される.本発表では,2022年5–7月及び10月に実施したウェーブグライダーによる海底地殻変動観測の概要とその成果を主として,GNSS-A測位解析と観測成果の解釈について報告する.
2022年5–7月の観測では,5月11日に根室沖のG22観測点でウェーブグライダーを投入し,宮城沖以北を中心として55日間19観測点でのGNSS-A観測を経て,7月5日に宮城県沖のG14観測点で回収した.ウェーブグライダーの船速が遅いため海底局アレイ中心直上での定点観測を主体として実施したが,音速勾配や上下成分の変位の検出のため,海底局アレイの広がり程度の直径の円周に沿った航走観測も実施した.
2022年10月の観測では,10月7日に青森県沖のG25観測点でウェーブグライダーを投入し,三陸沖北部を中心として13日間7観測点でのGNSS-A観測を経て,傭船を用いた航海にて11月12日に宮城県沖にて回収した.予定では10月下旬に東京海洋大学の練習船「汐路丸」によりウェーブグライダーを回収する予定であったが,海況不良のため回収ができず,別の傭船を立てて11月12日の回収となった.ウェーブグライダーの電力を保持するため,10月下旬に回収を断念して以降は観測を実施していない.
ウェーブグライダーによって取得した観測データをTomita & Kido [2022, EPS]の手法に基づき,海中音速の水平勾配構造を仮定してMCMC法により海底局アレイ変位の推定を行った.この手法では,音速浅部勾配を求めるために航走観測データを必要とするが,ウェーブグライダーを用いた観測ではウェーブグライダーが海流に流され,十分な航走観測データが得られない場合がある.そこで,本研究ではTomita & Kido [2022]の手法を改良し,音速勾配を規定するパラメータを拘束する事前分布を新たに与えることで,解析結果の安定化を図った.得られた結果は,概ね2020年以前の船舶を用いて行った観測の結果から期待されるトレンドに沿うものであり,2011年東北地方太平洋沖地震後の余効変動を示す成果が得られたと考えられる.2022年10月のデータの解析結果は予察的なものであり,今後の精査を踏まえ,本発表では東北沖での海底地殻変動の現状を報告する.

謝辞:本発表で扱うGNSS-A観測データの一部は,海洋研究開発機構・海底広域研究船「かいめい」(海洋研究開発機構・野研究員による協力),学術研究船「新青丸」(研究船共同利用),及び東京海洋大学・練習船「汐路丸」(東京大学地震研究所共同利用 2021-KOBO19の援助)により得られました.記して感謝申し上げます.また,本研究はJSPS科研費 JP19H05596の助成を受けました.