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[SCG52-P01] 南海トラフ軸および南西諸島海溝軸付近のプレート間固着状態
キーワード:海底地殻変動、南海トラフ、南西諸島海溝、プレート間固着
海溝型地震やそれによる津波の想定のためには,プレート境界の固着状態の現状把握が重要であり,想定震源域の直上での海底地殻変動観測は,そのための非常に有効なツールである.南海トラフでは,内閣府によってトラフ軸からプレート深度約10kmまでの領域を津波地震を検討する領域とするモデルが出されているが,この海域における海底地殻変動の観測結果は未だ不十分である.また,南西諸島海溝では,2022年に地震活動の長期評価が改訂されたが,長期評価に資するデータの不足から,地震発生確率の算出は見送られた.一方,海底地殻変動観測からは,沖縄本島南方および南東方の南西諸島海溝沿いに強い固着域があることが明らかになっており[Tadokoro et al., 2018],この固着域は1791年の津波イベントの波源域[Nakamura and Kinjou, 2013]と一致するとともに,短期的スロースリップが活発な領域[Nishimura,2014]のすぐup-dip側に位置している.しかし,この観測結果のみでは固着域の横方向の広がりは制約できない.
そこで,南海トラフおよび南西諸島海溝沿いの海溝(トラフ)軸付近におけるプレート境界の固着状態を明らかにするために,プレート深度10km弱の地点に観測点を設置し,海底地殻変動観測を実施している.なお,南海トラフでは,陸側(TCA)のほかに沈み込む海洋プレート上(TOA)でも観測を行っており,南西諸島海溝では上記の固着域の南西側にあたる沖縄本島から宮古島の間(RKC, RKD)での観測のほかに,沖縄本島南東方(RKB)での観測も継続している.
これまでに,TCAでは9回(2013〜2022年),TOAでは7回(2013〜2021年),RKBでは11回(2011〜2022年),RKCでは3回(2016〜2021年),RKDでは3回(2016〜2022年)の観測を実施した.観測の結果,南海トラフでは,アムールプレート(MORVEL[DeMets et al., 2010; 2011]を採用)に対する変位速度ベクトルの方向と大きさは,以下の通りであった:
TCA:N75±25°W,36±15 mm/yr
TOA:N70±26°W,50±21 mm/yr
TOAの変位速度ベクトルは、MORVELから推定される理論的な変位速度ベクトル(N60°W,58 mm/yr)と概ね一致している.TCAにおける変位速度ベクトルの大きさは,現段階までの観測結果によると,MORVELによるアムールプレートに対するフィリピン海プレートの相対運動の大きさの6割程度である.Okada[1985, 1992]のコードを用いて行ったdislocation modelによるフォワードフィッティングによると,TCAにおける海底地殻変動観測結果から,この海域での固着率は70%程度であることが明らかになった.
南西諸島海溝では,沖縄本島―宮古島間を固定した場合の変位速度ベクトルの方向と大きさは,以下の通りであった:
RKB:N18±7°W,21±7mm/yr
RKC:N127°W,21mm/yr(暫定値)
RKD:N88°W,10mm/yr(暫定値)
RKBでの変位速度ベクトルは,Tadokoro et al. [2018]で報告した結果と同様であり,沖縄本島南東方に固着域が存在することを示唆している.RKCおよびRKDでは精度の高い変位速度を得られるほど観測回数が多くないが,これまでの観測で得られた海底局位置座標の時系列から推定される変位速度ベクトル(暫定値)は,ともにプレートの沈み込み方向を向いておらず,沖縄本島南東方の固着域は当該海域(南西方向)には広がっていないようである.
謝辞:解析には国土地理院GEONET F3解とF5解を使用しました.本研究は,一部,本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けました.記して感謝の意を表します.
そこで,南海トラフおよび南西諸島海溝沿いの海溝(トラフ)軸付近におけるプレート境界の固着状態を明らかにするために,プレート深度10km弱の地点に観測点を設置し,海底地殻変動観測を実施している.なお,南海トラフでは,陸側(TCA)のほかに沈み込む海洋プレート上(TOA)でも観測を行っており,南西諸島海溝では上記の固着域の南西側にあたる沖縄本島から宮古島の間(RKC, RKD)での観測のほかに,沖縄本島南東方(RKB)での観測も継続している.
これまでに,TCAでは9回(2013〜2022年),TOAでは7回(2013〜2021年),RKBでは11回(2011〜2022年),RKCでは3回(2016〜2021年),RKDでは3回(2016〜2022年)の観測を実施した.観測の結果,南海トラフでは,アムールプレート(MORVEL[DeMets et al., 2010; 2011]を採用)に対する変位速度ベクトルの方向と大きさは,以下の通りであった:
TCA:N75±25°W,36±15 mm/yr
TOA:N70±26°W,50±21 mm/yr
TOAの変位速度ベクトルは、MORVELから推定される理論的な変位速度ベクトル(N60°W,58 mm/yr)と概ね一致している.TCAにおける変位速度ベクトルの大きさは,現段階までの観測結果によると,MORVELによるアムールプレートに対するフィリピン海プレートの相対運動の大きさの6割程度である.Okada[1985, 1992]のコードを用いて行ったdislocation modelによるフォワードフィッティングによると,TCAにおける海底地殻変動観測結果から,この海域での固着率は70%程度であることが明らかになった.
南西諸島海溝では,沖縄本島―宮古島間を固定した場合の変位速度ベクトルの方向と大きさは,以下の通りであった:
RKB:N18±7°W,21±7mm/yr
RKC:N127°W,21mm/yr(暫定値)
RKD:N88°W,10mm/yr(暫定値)
RKBでの変位速度ベクトルは,Tadokoro et al. [2018]で報告した結果と同様であり,沖縄本島南東方に固着域が存在することを示唆している.RKCおよびRKDでは精度の高い変位速度を得られるほど観測回数が多くないが,これまでの観測で得られた海底局位置座標の時系列から推定される変位速度ベクトル(暫定値)は,ともにプレートの沈み込み方向を向いておらず,沖縄本島南東方の固着域は当該海域(南西方向)には広がっていないようである.
謝辞:解析には国土地理院GEONET F3解とF5解を使用しました.本研究は,一部,本研究は文部科学省による「災害の軽減に貢献するための地震火山観測研究計画(第2次)」の支援を受けました.記して感謝の意を表します.