日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG52] 海洋底地球科学

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:沖野 郷子(東京大学大気海洋研究所)、田所 敬一(名古屋大学地震火山研究センター)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SCG52-P26] 駿河湾・石花海南堆から採取された深成岩礫の起源について

*伊藤 光平1坂本 泉1、八束 翔 (1.東海大学)

キーワード:石花海南堆、深成岩礫、甲府複合深成岩体

駿河湾は湾口幅約56 km,奥行き約60 km,表面積は約2,300 m2と非常に広大な湾である.駿河湾は,中央に走る駿河トラフより東側のフィリピン海プレートが西側のユーラシアプレートに沈み込むことによって形成された構造谷である.湾口西部には石花海と呼ばれる二つの浅瀬があり,最浅部でそれぞれ水深約45 mと水深約70 mである.この二つの地形的な高まりは,北側の浅瀬を北堆,南側の浅瀬を南堆とよぶ.この石花海の東側斜面には,急崖が発達し,部分的に階段状地形が発達している(Sakamoto et al., 2019).本地域には石花海層群が分布しており,大部分が更新統に堆積したと考えられている(岡村ほか,1999).駿河湾に分布する石花海層群のうち、特に南堆から産する円礫の9割は破断礫(一部が破損)で構成されており,なんらかの力がかかることで形成されたと推定されている(Sakamoto et al., 2019).
本発表では,東海大学調査船望星丸で行った2022年度海洋実習において、石花海南堆(BO-22-1航海)で行った調査のうち,D01(水深約2,400 m~1,600 m)及びD02(水深約2,200 m~1,400 m)から採取された深成岩礫の岩石記載や全岩化学分析などの特徴を報告する.
BO-22-1 D01及びD02で得られた試料のうち,200個の試料をそれぞれ堆積岩・火山岩・深成岩に区別した結果, D01は堆積岩が61 %,火山岩は37 %,深成岩は2 %であった.一方,D02は堆積岩が76.5 %,火山岩は21 %,深成岩が2.5 %であった.そのうちの多くは、一部に円礫を思わせる形状を残した破断礫であった。
石花海南堆から採取された試料のうち,深成岩起源と考えられる試料計20個の鏡下記載を行った結果,以下の深成岩類が確認された.D01では黒雲母花崗岩,黒雲母角閃石花崗閃緑岩,黒雲母角閃石トーナル岩が2個,黒雲母モンゾ花崗岩,斜方輝石角閃石斑糲岩,アプライト,花崗斑岩が3個であった.一方D02では,角閃石黒雲母単斜輝石トーナル岩,黒雲母斜方輝石単斜輝石角閃石閃緑岩,黒雲母単斜輝石石英閃緑岩,文象斑岩,アプライトであった.
全岩化学分析では岩石記載を行った20試料のうち,計7試料の分析を行った.それぞれのSiO2含有量は,48.51~76.81 wt.%と非常に組成範囲が広く,①SiO2含有量が50 wt.%前後の塩基性岩,②SiO2含有量が65 wt.%前後の中性岩,③SiO2含有量が75 wt.%を超える酸性岩の3つに大分された.これらの試料を駿河湾周辺に分布する花崗岩体(領家帯花崗岩類,甲斐駒ヶ岳花崗岩類,甲府複合深成岩体,丹沢トーナル岩体)と比較した.
①SiO2含有量が50 wt.%前後の塩基性岩に分類される試料は低カリウム系列と中カリウム系列の境界に属する.甲府盆地周辺に分布するトーナル岩は,低カリウム系列と中カリウム系列に分布するものの,どれもSiO2含有量が55 wt.%以上であるため,起源ではないと推定される.高橋ほか(2004)では,丹沢トーナル岩体において,SiO2含有量が50 wt.%以下のトーナル岩が報告されており, Fe2O3・Na2O・CaO含有量も丹沢トーナル岩体と類似する.
②SiO2含有量が65 wt.%前後の試料は高カリウム系列に属し,この範囲に分布する特徴を持つのは甲府複合深成岩体の広瀬花崗閃緑岩体である.その他に,甲府複合深成岩体のうち,三宝花崗閃緑岩体や,塩平トーナル岩体も比較的近い組成範囲を示すものの,どちらも中カリウム系列に属するため,本試料は広瀬花崗閃緑岩体が起源であると推定される.
③SiO2含有量が75 wt.%を超える酸性岩のグループに属する4試料中1試料は中カリウム系列と高カリウム系列の境界に,残りの3試料は高カリウム系列に属する.高カリウム系列の特徴を持つ岩体は甲府複合深成岩体のうち,瑞牆花崗岩体と昇仙峡花崗岩体である.両岩体は主要元素と微量元素ともに大きな違いはないが,Zr含有量が瑞牆花崗岩体は80~100 ppm前後であるのに対し,昇仙峡花崗岩体は70 ppm以下である.③のグループに関してはすべてZr含有量が90 ppm以上であることから,瑞牆花崗岩体を起源とする礫であると推定される.

【参考文献】
岡村ほか (1999):地質調査所, 海洋地質図, 52. 柴 (2016) 化石研究会会誌, 49(1), 3-12. 高橋ほか:(2004) 日本大学文理学部自然科学研究所研究紀要, 39, 259-284. Sakamoto(2019):2019 Rock Dynamics Summit in Okinawa, 260-263.