日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG53] 地震動・地殻変動・津波データの即時把握・即時解析・即時予測

2023年5月23日(火) 15:30 〜 16:45 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)、太田 雄策(東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター)、近貞 直孝(防災科学技術研究所)、座長:小木曽 仁(気象庁気象研究所)、山田 真澄(京都大学防災研究所)

16:30 〜 16:45

[SCG53-05] 教師データの違いが機械学習を用いた津波到達時間予測に及ぼす影響

*有川 太郎1、郡司 滉大1、都築 樹弥1、德田 達彦1、白井 知輝1 (1.中央大学)

キーワード:機械学習、ニューラルネットワーク、津波シミュレーション、津波到達時間、平均二乗誤差

はじめに
現状の津波予測において,地震が発生してから瞬時に高精度な数値津波計算を行う事は,波源の特定の観点からだけでなく,計算機の性能の観点からも困難である.他方,ある程度の誤差を許容すれば,瞬時に津波予測を行うことが可能である手法として,機械学習による予測手法が考えられる.近年海岸分野では多くの機械学習予測モデル手法が開発されているが津波到達時間に着目する事例は少なく,畳み込み等を用いて入力変数を削減し,最適化したい重みパラメータ数を減らす前処理手法が多く検討されている.一般的に機械学習を用いた予測には多くの教師データ数が必要とされるが,教師データ数と機械学習を用いた際の津波到達時間の予測精度との関係は明らかではない.そこで本研究では機械学習による津波到達時間の予測精度について,対象地域や地震の規模,教師データ数の違いによる精度の変化を検討することを目的とした.
研究手法
 本研究は,地震発生直後の初期水位分布から津波到達時間を,機械学習を用いて予測するというものである.
はじめに,津波数値シミュレーションを実施し,初期水位分布と,津波到達時間を抽出し,機械学習の教師データとして用いた.本研究の概念図を図-1に示す.断層パラメータの作成には,Random Phase Modelを用い,モーメントマグニチュード(以下Mw)8.6からMw9.0まで等間隔に0.2ずつ,合計3つのMwで作成した.津波シミュレーションには,基礎方程式に非線形長波方程式を用いており,地理座標系(緯度・経度・高度)を採用している,津波高潮シミュレータQ-Waveを用いた.数値計算の主な計算条件について表-1に示す.また地形の特性を確認するため,本研究では対象地域を2つとした.
 次に,ニューラルネットワーク(以下NN)で,学習・予測を行った.平面分布に対して前処理を行い一次元化した初期水位分布を入力データとし,対象地域の津波到達時間を出力データとした.出力で用いた津波到達時間は用いたデータの最大浸水範囲のみを出力変数として扱った.NNの条件について表-2に示す.
精度の評価
 本研究では,教師データの数における二乗平均誤差について確認した.データ数は100から800として教師データとテストデータを7:3の割合に分割してテストデータに対する,対象地域全体の平均二乗誤差で評価した.テストデータはランダムに抽出されるため学習は3回行い,その平均値をプロットした.結果として教師データを増すことで二乗平均誤差は減少することを確認した.画像ファイル図-2に示す.また地震の規模ごとにも,対象地域の違いによっても誤差は異なることを確認した.これは,地震の規模が大きければ津波到達場所が多くなることが原因で津波到達時間のバラつきが大きくなっていることが理由の一つとして考えられる.
 次に,教師データ数を700,テスト用データを100としたときの,各Mw,対象地域ごとに予測し,各ケースの予測値と正解値の差分値を平均した図を図-2,図-3に示す.赤い場所は予測の方が津波が遅く到達するケースを示しており,危険側となる(以下過小評価と呼ぶ).B市においては沿岸域を中心に誤差が大きくなる傾向にあり,過小評価の傾向がある.一方でA町においては過大評価の傾向が強い.画像ファイル図-4のヒストグラムからも明らかである.また,Mw9.0における正解値で津波が到達している場所でのヒストグラムを図-5に示す.正解値で津波が到達している場所に限っては,予測の方が遅い傾向(過小評価)が強く,0~20分の誤差が含まれる場合が多くA町はB町より差分値のバラツキが小さい.バラツキが小さくなっているのは,A町は最大浸水範囲は広いものの,多くの教師データが沿岸部までの津波到達にとどまっており,教師データのバラつきが小さくなったことが原因であると考える.実際に用いた津波到達時間はB市はA町の約1.5倍の標準偏差であった.
まとめ
本研究は,津波シミュレーションで得られたデータを用いて初期水位分布から津波到達時間をNNで予測した.本研究で得られた主要な知見は以下である.
・教師データの数が多くなれば,どのような条件(Mwで見ても,対象地域で見ても)でも誤差は減少傾向にある.
・対象地域によって過大評価と過小評価の傾向は異なり,最大で20分の過小評価(予測結果のほうが到達が遅くなる)となった.