日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG54] 地殻表層の変動・発達と地球年代学/熱年代学の応用

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、末岡 茂(日本原子力研究開発機構)、伊藤 久敏(財団法人電力中央研究所)、田上 高広(京都大学大学院理学研究科)、座長:長谷部 徳子(金沢大学環日本海域環境研究センター)、末岡 茂(日本原子力研究開発機構)

13:45 〜 14:00

[SCG54-01] 地熱資源と年代学: 第四紀花崗岩が意味するもの

*伊藤 久敏1 (1.電力中央研究所)

キーワード:地熱資源、第四紀花崗岩、U-Pb年代測定

日本は地熱資源大国とされるが,地熱発電量は2021年3月時点で61万kWと少なく,米国のガイザース地熱地域1ヵ所の半分程度でしかない.今後,日本で大規模な地熱発電を実施する上で,著者が重要と考える3地域(葛根田,雄勝,黒部)について,年代学に基づく大規模地熱発電の可能性検討を行った.
葛根田地熱フィールドには約0.1 Maの葛根田花崗岩(深度3700m以深で500℃以上)が地下に伏在し(Ito et al., 2013a),当地域の熱源となっている.葛根田地熱フィールドを含む八幡平地熱地域(もしくは仙岩地熱地域)には,その他にも1 Ma前後もしくはそれよりも若い花崗岩類が地下で確認されており(Ito et al., 2013a;荒井ほか,2019),地下2 kmで300℃以上の高温域が広範囲に分布する(Tamanyu, 2000;Akatsuka et al., 2022).地下に伏在する第四紀プルトンの年代と規模から判断して,八幡平地熱地域はガイザース地熱地域よりも有望な地熱地域であると考えられる(伊藤,2016).
電力中央研究所が1990年代に高温岩体発電実験を実施した雄勝地点(Ito, 2003)は,三途川カルデラ内にあり,同カルデラ内には広範囲に活発な地熱兆候が見られる.同カルデラ形成時に噴出したとされる虎毛山層の火山礫凝灰岩のジルコンFT年代は約1 Maを示した(伊藤,2000)が,K-Ar法の6~3 Ma(竹野,1988)が広く受け入れられてきた.最近,著者はジルコンのU-Pb年代測定法を虎毛山層に適用し,FT年代も加味し,三途川カルデラの西半分は約1.5 Maに形成されたとした(Ito, 2023).三途川カルデラは第四紀の若いカルデラであり,カルデラ形成後も中央部が隆起するなど,再生マグマ(resurgent magma)の存在が示唆される.すなわち,三途川カルデラの地下にも葛根田花崗岩のような若いプルトンの存在が予想され,大規模な地熱開発が可能と思われる.
黒四ダムのある北アルプスは水力発電量の多い地域であるが,同地域には世界で最も若い地表に露出した花崗岩(黒部川花崗岩)が存在する(Ito et al., 2013b).同花崗岩のジルコンU-Pb年代は岩体南部で約1.2 Maを示し,岩体中部~北部の主に西側で約0.8 Maを示す箇所がある(Ito et al., 2021).約1.2 Maの岩体南部の破砕帯には低温の地下水が賦存し,約0.8 Maの岩体中部~北部には地熱兆候が見られる.このことは,ガイザース地熱地域には1.8~1.1 Maのプルトンが存在する(Schmitt et al., 2003)が,このプルトンが熱源ではあり得ないことを示していると思われる.また,再生プルトンである黒部川花崗岩の地下には,葛根田や雄勝と同様に,地下浅部に0.8 Maよりも若い高温のプルトンが存在すること,それは現在地表で約0.8 Maを示す地域の直下に位置し,まさにここが有望な地熱開発地点であることを示すと思われる(伊藤,2013).

文献:
Akatsuka, T., Saito, S., Kajiwara, T., Osada, K., Nagaso, M., Watanabe, N., Tsuchiya, N., Asanuma, H. and Kanetsuki, T., 2022. Geothermal geology and comprehensive temperature model based on surface and borehole geology, and temperature loggings of geothermal wells in Sengan, Northeast Japan. Geothermics, 105, 102485.
荒井文明,宍倉美里,赤塚貴史,梶原竜哉,高橋昌宏,2019.松尾八幡平地熱地域に伏在する第四紀花崗岩類の貫入年代.日本地熱学会令和元年学術講演会講演要旨,A20.
伊藤久敏,2000.フィッション・トラック法による秋田県秋ノ宮地熱地域の虎毛山層の堆積年代の推定.日本地熱学会誌,22,9–21.
伊藤久敏,2013.黒部川花崗岩と涵養地熱系発電.日本地熱学会平成25年学術講演会講演要旨,A05.
伊藤久敏,2016.ジルコンのU-Pb年代から推定される八幡平地熱地域とガイザース地熱地域の熱源の比較.日本地熱学会誌,38,53–60.
Ito, H., 2003. Inferred role of natural fractures, veins, and breccias in development of the artificial geothermal reservoir at the Ogachi Hot Dry Rock site, Japan. Journal of Geophysical Research, 108(B9), 2426, doi:10.1029/2001JB001671.
Ito, H., 2023. Quaternary caldera-forming eruptions at the Sanzugawa caldera, NE Japan, revealed by zircon U-Pb geochronology. Frontiers in Earth Science, 10:964773.
Ito, H., Tamura, A., Morishita, T., Arai, S., Arai, F. and Kato, O., 2013a. Quaternary plutonic magma activities in the southern Hachimantai geothermal area (Japan) inferred from zircon LA-ICP-MS U–Th–Pb dating method. Journal of Volcanology and Geothermal Research, 265, 1–8.
Ito, H., Yamada, R., Tamura, A., Arai, S., Horie, K. and Hokada, T., 2013b. Earth’s youngest exposed granite and its tectonic implications: the 10–0.8 Ma Kurobegawa Granite. Scientific Reports, 3, 1306.
Ito, H., Adachi, Y., Cambeses, A., Bea, F., Fukuyama, M., Fukuma, K., Yamada, R., Kubo, T., Takehara, M. and Horie, K., 2021. The Quaternary Kurobegawa Granite: an example of a deeply dissected resurgent pluton. Scientific Reports, 11, 22059.
Schmitt A. K., Grove M., Harrison T. M., Lovera O., Hulen J. and Walters M., 2003. The Geysers-Cobb Mountain Magma System, California. (Part 2): Timescales of pluton emplacement and implications for its thermal history. Geochimica et Cosmochimica Acta, 67, 3443–3458.
竹野直人,1988.栗駒北部地熱地域の地質.地質調査所報告,268号,191–210.
Tamanyu, S., 2000. Quaternary granitic pluton inferred from subsurface temperature distribution at the Sengan (Hachimantai) geothermal area, Japan. Proceedings of the World Geothermal Congress 2000, 1823–1828.