12:00 〜 12:15
[SCG55-06] 深層学習モデルに基づくS波後続波の網羅的検出―森吉山地域の群発地震への適用―

キーワード:地震波、S波後続波、機械学習、群発地震
近年,機械学習を活用した地震波の自動処理技術の開発が精力的に行われ,高精度かつ網羅的な地震の検出・検測が可能になってきた(e.g., Zhu & Beroza, 2019).一方,後続波(地下の顕著な速度コントラストに起因する反射波など)への適用はあまり進んでいない(Ding et al., 2022).後続波からはその発生源である地下の不均質構造に関する情報を抽出できる.ゆえに,後続波の検出や検測を自動化することで,膨大な地震波形記録に蓄積された後続波の情報を活用し,地下の不均質構造を詳細かつ網羅的に解析することが可能となる.
我々は,後続波の自動処理の実現を念頭に,明瞭なS波後続波の観測報告がある東北地方北部の森吉山地域における群発地震の地震波形記録を用い,畳み込みニューラルネットワークによるS波後続波の自動検出モデルを構築した(雨澤・他,地震学会2022年秋季大会).対象地域では2011年3月以降,空間サイズが5 km程の震源クラスタ内で群発的な地震活動が10年以上継続している.また,近傍にHi-net観測点が設置されているため,後続波の特徴を長期間にわたって解析することができる.これは,後続波発生源の詳細な描像を得るために重要である.そこで本研究では,構築した検出モデルを用いて本地域におけるS波後続波を網羅的に検出し,震源分布とともに検出結果を考察した.
群発地震クラスタの南西約10 kmに位置するHi-net阿仁観測点(N.ANIH)で,2011年3月から2022年9月までに記録された9,779地震(M>=0)の地震波形記録とS波の手動検測値を解析に用いた.前報では,2015年1月までの地震についてN.ANIHで観測された地震波形記録(5,000記録)をモデルの学習およびテストに用いた.今回は,2015年2月以降に観測された地震波形記録からS波後続波を自動検出した.モデルへ入力する地震波形記録は,Transverse成分を6–24 Hzでフィルタリングし,S波検測時刻の0.2秒前から5.12秒間の波形とした.震源分布は気象庁一元化震源を初期震源とし,気象庁検測値を用いて Double Difference法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000) で再決定した.
モデルの出力値が0.5以上で「S波後続波あり」として検出を行った結果,新たに3,666地震でS波後続波が検出された.手動検出の期間と合わせると,7,601地震についてS波後続波が検出されたこととなる.震源クラスタの北東側で非検出の震源が特に多くなる空間的特徴を確認した(Figure 1 (a)).一方,全解析期間を通して,S波後続波は概ね安定して検出されており,数ヶ月や数年間の長期間にわたって検出されなくなるといった時間的特徴はみられなかった(Figure 1 (b)).
地震のマグニチュードと検出結果の間に明瞭な関係性はみられなかった.この観測事実から,S波後続波の有無は主に震源分布とS波後続波発生源の位置関係を反映していると考えられる.このことは,S波後続波発生源の空間分布にS波後続波が発生しづらい特定の幾何があることを示唆する.一方で,S波後続波が検出されている震源は特に局在せず,クラスタ北東側にも分布する.震源クラスタ北東側で検出・非検出の震源が混在している要因として,S波後続波発生源の反射特性の短期間内の時空間変化(流体の移動などによる)や震源メカニズム解の僅かな違いによるS波放射方向の違いが考えられる.
謝辞:本研究では,防災科学技術研究所Hi-netによる地震波形記録,気象庁一元化震源カタログ,気象庁による手動検測値を使用しました.文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト) [JPJ010217]の支援をいただきました.記して感謝いたします
我々は,後続波の自動処理の実現を念頭に,明瞭なS波後続波の観測報告がある東北地方北部の森吉山地域における群発地震の地震波形記録を用い,畳み込みニューラルネットワークによるS波後続波の自動検出モデルを構築した(雨澤・他,地震学会2022年秋季大会).対象地域では2011年3月以降,空間サイズが5 km程の震源クラスタ内で群発的な地震活動が10年以上継続している.また,近傍にHi-net観測点が設置されているため,後続波の特徴を長期間にわたって解析することができる.これは,後続波発生源の詳細な描像を得るために重要である.そこで本研究では,構築した検出モデルを用いて本地域におけるS波後続波を網羅的に検出し,震源分布とともに検出結果を考察した.
群発地震クラスタの南西約10 kmに位置するHi-net阿仁観測点(N.ANIH)で,2011年3月から2022年9月までに記録された9,779地震(M>=0)の地震波形記録とS波の手動検測値を解析に用いた.前報では,2015年1月までの地震についてN.ANIHで観測された地震波形記録(5,000記録)をモデルの学習およびテストに用いた.今回は,2015年2月以降に観測された地震波形記録からS波後続波を自動検出した.モデルへ入力する地震波形記録は,Transverse成分を6–24 Hzでフィルタリングし,S波検測時刻の0.2秒前から5.12秒間の波形とした.震源分布は気象庁一元化震源を初期震源とし,気象庁検測値を用いて Double Difference法 (Waldhauser & Ellsworth, 2000) で再決定した.
モデルの出力値が0.5以上で「S波後続波あり」として検出を行った結果,新たに3,666地震でS波後続波が検出された.手動検出の期間と合わせると,7,601地震についてS波後続波が検出されたこととなる.震源クラスタの北東側で非検出の震源が特に多くなる空間的特徴を確認した(Figure 1 (a)).一方,全解析期間を通して,S波後続波は概ね安定して検出されており,数ヶ月や数年間の長期間にわたって検出されなくなるといった時間的特徴はみられなかった(Figure 1 (b)).
地震のマグニチュードと検出結果の間に明瞭な関係性はみられなかった.この観測事実から,S波後続波の有無は主に震源分布とS波後続波発生源の位置関係を反映していると考えられる.このことは,S波後続波発生源の空間分布にS波後続波が発生しづらい特定の幾何があることを示唆する.一方で,S波後続波が検出されている震源は特に局在せず,クラスタ北東側にも分布する.震源クラスタ北東側で検出・非検出の震源が混在している要因として,S波後続波発生源の反射特性の短期間内の時空間変化(流体の移動などによる)や震源メカニズム解の僅かな違いによるS波放射方向の違いが考えられる.
謝辞:本研究では,防災科学技術研究所Hi-netによる地震波形記録,気象庁一元化震源カタログ,気象庁による手動検測値を使用しました.文部科学省の情報科学を活用した地震調査研究プロジェクト(STAR-Eプロジェクト) [JPJ010217]の支援をいただきました.記して感謝いたします