16:15 〜 16:30
[SCG55-13] 畳み込みニューラルネットワークによる長周期地震動予測

キーワード:長周期地震動、機械学習、即時予測
1.はじめに
本研究では、大地震の際に平野部で生成される長周期地震動(LP; 2-10 s)を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて予測する。LP地震動は震源から数百キロメートル伝わり、高層ビルと共振することで強い揺れをもたらす。そのため早期予測することは都市防災に役立つ。2004年新潟県中越地震(Mw6.6)では震源から200 km離れた関東平野においてLP地震動が生成し、高層ビルのエレベーターケーブルが一部損傷するなど被害が生じた。M8-9クラスの南海トラフで将来発生する地震ではさらに大きな被害が生じることが危惧される。そこで、本研究ではCNNモデルを用いて震源近傍の観測点で記録された地震波形データから、遠地の関東平野にある評価地点におけるLP地震動の速度応答スペクトルを予測する。さらに、3D FDM計算により求めた合成波形も活用することで、多様な場所と規模の地震に対応可能なLP予測モデルを開発した。
2. データ・手法
本研究では、新潟県周辺地域で発生した地震を対象として関東平野のHi-net富岡観測点(横浜)での速度応答スペクトルの予測を、約150 km離れた5カ所のHi-net観測点での波形記録を入力データとして行った。入力地点から予測地点まで、表面波(LP地震動)の到来には1分間の猶予時間がある。CNNの学習には、2004〜2010年に新潟県周辺で発生したMw4.5以上の地震56個(図1)において、データ長5分間の水平2成分のHi-netデータを用いた。速度波形データには、地震計特性補正フィルタ(Maeda et al., 2011)をかけて広帯域化し、0.05〜2 Hzのバンドパスフィルターをかけた後に20 Hzにリサンプリングした。また、予測地点における周期0.1〜20秒の速度応答スペクトルを求め、入力波形データとペアとなる教師データセットを用意した。さらに、OpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いた3-D FDMシミュレーションにより、45個の仮想地震(図1、×印)の学習データを用意した。震源メカニズムは、地域の応力場に対応した横ずれ断層及び逆断層型のものを用い、深さは8km、震源時間関数はM7地震に対応する6.5秒に設定した。地下構造モデルには、JIVSM(Koketsu et al. 2012)を用いた。
学習の効率化のために、入力波形データは最大速度(PGV)値で規格化を行った後に、log(PGV)を乗じて振幅情報を一部残した。速度応答スペクトル値も対数化して、振幅を1/10にすることで0〜1の範囲に収めた。CNNモデルは、先行研究(Jozinović et al. 2020)を参考に構築した。5観測点2成分×6000ポイントの波形データ(10, 6000)を7段の畳み込み層に入力し、結果を平滑化したのち全結合層を通して200ポイントの速度応答スペクトルを出力させた。活性化関数にはRelu関数を用い、最後の全結合層にはtanh関数を用いて出力を飽和させた。損失関数は、観測と予測応答スペクトルの二乗誤差で評価し、バッチサイズ32で50エポック数の学習を行い損失率の収束を確認した。
3. 結果
学習済みCNNモデルを用いて、2011年以降に発生したMw4.5以上の11個の地震に対してLP地震動の予測性能を確認した。予測結果に対し周期1〜10秒の速度応答スペクトルの予測/観測平均比(PF値)を用いてモデルの性能評価を行った。まず、自然地震のみを用いた学習では、2021年9月の能登半島の地震(Mw5.1)については良い予測結果が得られたが(PF値=1.0)、2019年山形県沖地震(Mw6.7)ではPF値は0.4と悪く、特に周期2秒以上の長周期側で過小評価となった。これに対して、FDMシミュレーションによる仮想地震で追加学習を進めたCNNモデルでは、二つの地震ともに予測性能が向上し、特に山形県沖地震では長周期(>2秒)における予測性能の向上が確認された。予測を行った11個の地震についてPF値の四分位数分布を調べると、自然地震のみの学習結果(PF値:0.3〜7)と比較して、FDMシミュレーションの合成波形の追加学習による大きな効果(PF値:0.5〜5.5)が確認できた(図3)。
4. まとめ
機械学習モデルの予測性能は、一般に学習データの質に強く依存するが、自然地震を用いて学習データセットを用意する場合には、地震活動の偏りや規模の問題があり、将来発生する多様な地震を対象とする汎用性のある予測モデルの構築は難しい。地震波伝播シミュレーションによる多様な地震に対する合成波形を学習に加えることが有効である。ただし、地震波伝播計算に用いる地下構造モデルの不確定性の限界も考えられ、自然地震とシミュレーションの併用が有効であろう。
本研究では、大地震の際に平野部で生成される長周期地震動(LP; 2-10 s)を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて予測する。LP地震動は震源から数百キロメートル伝わり、高層ビルと共振することで強い揺れをもたらす。そのため早期予測することは都市防災に役立つ。2004年新潟県中越地震(Mw6.6)では震源から200 km離れた関東平野においてLP地震動が生成し、高層ビルのエレベーターケーブルが一部損傷するなど被害が生じた。M8-9クラスの南海トラフで将来発生する地震ではさらに大きな被害が生じることが危惧される。そこで、本研究ではCNNモデルを用いて震源近傍の観測点で記録された地震波形データから、遠地の関東平野にある評価地点におけるLP地震動の速度応答スペクトルを予測する。さらに、3D FDM計算により求めた合成波形も活用することで、多様な場所と規模の地震に対応可能なLP予測モデルを開発した。
2. データ・手法
本研究では、新潟県周辺地域で発生した地震を対象として関東平野のHi-net富岡観測点(横浜)での速度応答スペクトルの予測を、約150 km離れた5カ所のHi-net観測点での波形記録を入力データとして行った。入力地点から予測地点まで、表面波(LP地震動)の到来には1分間の猶予時間がある。CNNの学習には、2004〜2010年に新潟県周辺で発生したMw4.5以上の地震56個(図1)において、データ長5分間の水平2成分のHi-netデータを用いた。速度波形データには、地震計特性補正フィルタ(Maeda et al., 2011)をかけて広帯域化し、0.05〜2 Hzのバンドパスフィルターをかけた後に20 Hzにリサンプリングした。また、予測地点における周期0.1〜20秒の速度応答スペクトルを求め、入力波形データとペアとなる教師データセットを用意した。さらに、OpenSWPC(Maeda et al., 2017)を用いた3-D FDMシミュレーションにより、45個の仮想地震(図1、×印)の学習データを用意した。震源メカニズムは、地域の応力場に対応した横ずれ断層及び逆断層型のものを用い、深さは8km、震源時間関数はM7地震に対応する6.5秒に設定した。地下構造モデルには、JIVSM(Koketsu et al. 2012)を用いた。
学習の効率化のために、入力波形データは最大速度(PGV)値で規格化を行った後に、log(PGV)を乗じて振幅情報を一部残した。速度応答スペクトル値も対数化して、振幅を1/10にすることで0〜1の範囲に収めた。CNNモデルは、先行研究(Jozinović et al. 2020)を参考に構築した。5観測点2成分×6000ポイントの波形データ(10, 6000)を7段の畳み込み層に入力し、結果を平滑化したのち全結合層を通して200ポイントの速度応答スペクトルを出力させた。活性化関数にはRelu関数を用い、最後の全結合層にはtanh関数を用いて出力を飽和させた。損失関数は、観測と予測応答スペクトルの二乗誤差で評価し、バッチサイズ32で50エポック数の学習を行い損失率の収束を確認した。
3. 結果
学習済みCNNモデルを用いて、2011年以降に発生したMw4.5以上の11個の地震に対してLP地震動の予測性能を確認した。予測結果に対し周期1〜10秒の速度応答スペクトルの予測/観測平均比(PF値)を用いてモデルの性能評価を行った。まず、自然地震のみを用いた学習では、2021年9月の能登半島の地震(Mw5.1)については良い予測結果が得られたが(PF値=1.0)、2019年山形県沖地震(Mw6.7)ではPF値は0.4と悪く、特に周期2秒以上の長周期側で過小評価となった。これに対して、FDMシミュレーションによる仮想地震で追加学習を進めたCNNモデルでは、二つの地震ともに予測性能が向上し、特に山形県沖地震では長周期(>2秒)における予測性能の向上が確認された。予測を行った11個の地震についてPF値の四分位数分布を調べると、自然地震のみの学習結果(PF値:0.3〜7)と比較して、FDMシミュレーションの合成波形の追加学習による大きな効果(PF値:0.5〜5.5)が確認できた(図3)。
4. まとめ
機械学習モデルの予測性能は、一般に学習データの質に強く依存するが、自然地震を用いて学習データセットを用意する場合には、地震活動の偏りや規模の問題があり、将来発生する多様な地震を対象とする汎用性のある予測モデルの構築は難しい。地震波伝播シミュレーションによる多様な地震に対する合成波形を学習に加えることが有効である。ただし、地震波伝播計算に用いる地下構造モデルの不確定性の限界も考えられ、自然地震とシミュレーションの併用が有効であろう。