日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 機械学習による固体地球科学の牽引

2023年5月21日(日) 15:30 〜 16:45 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(京都大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、座長:金 亜伊(横浜市立大学ナノシステム研究科)、久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

16:30 〜 16:45

[SCG55-14] 深層学習を用いたリアルタイム震度予測モデルの構築:模擬データによるデータ拡張の有効性の検証

*金 亜伊1、中村 桃子1、太田 杏樹1矢崎 友貴乃1、久保 久彦2 (1.横浜市立大学、2.防災科学技術研究所)

キーワード:リアルタイム震度、深層学習、LSTM、データ拡張、緊急地震速報

地震発生時や直後の詳細な震度分布情報を迅速に得ることは, 被害状況の把握, 救助活動や緊復旧計画などに重要な役割を果たす. これらの空間的な解像度を上げるには観測点を増やすことが一番であるが, コスト面から困難であり現在は様々な情報を用いた補完によって実現している. しかしそれらは地質情報の量や質に大きく依存し, すべての場所で精度良く決定できているわけではない. そのような背景から地質情報を用いない深層学習を用いた震度予測が提案されその有用性が示されている. 本研究では先行研究と比べて格段に学習データの少ない横浜市周辺において, 深層学習の一種であるLong-short term memory(LSTM)を用いてリアルタイム震度(Ir)の予測モデルの構築を試みた.
ここでは予測ターゲットとその周辺の4つの観測点のデータと共に学習し, 学習に用いていないターゲットのIrの立ち上がりから最大震度に達するまでの形状を予測する. 予測ターゲットと入力観測点には既存の防災科学技術研究所強震観測網K-NETの観測点を使用し, ターゲット観測点をKNG002, 入力観測点4つにはKNG004, KNG012, TKY007, TKY021を用いた. データは1996年から2020年までに発生した地震のうち, 上記五観測点すべてにおいて観測記録があるもの(252イベント)を選び, そのうちの10 %をテストデータ, 残りのデータの90 %を訓練データ, 10 %を検証データとして用いた. 本研究では先行研究と同じようにある時刻から現在までの時系列データを用いてターゲット観測点の現在のIrを予測するモデル(0秒先モデル)に加えて, 緊急地震速報への応用も考え, ターゲット観測点のIrの将来予測の可能性についても検証した. 具体的には入力観測点とターゲット観測点の距離が約30 kmであるので, S波速度を4 km/sと仮定して8秒先を予測するモデル(8秒先モデル)を構築した. 予測結果の評価指標はMAEとRMSEを用いた. 8秒先モデルの予測結果を入力観測点の距離で重み付けした時間ごとの加重平均値, PLUM法を模した入力観測点の最大値と比較したところ, MAE, RMSEの値は加重平均値よりは低く, 最大値よりには高くなった. また, Irのおおまかな形状は再現できているものの詳細を見てみると大きな外れ値も散見された. 上記の予測誤差の大きな原因の一つは訓練データ不足と考えられるので, その検証のために模擬データを作成してデータ拡張を試みた. ここでは上記期間のデータのうち欠損しているものを久保, 功刀(2022)によるIrの立ち上がりから最大震度に達するまでの形状の予測式と司, 翠川(1999)及び翠川他(1999)の強震動予測式を組み合わせて合成し, 訓練データとした. これにより訓練に用いたIrのデータ数は1026から1655に増加した. 1655個のデータの内訳は観測データ:模擬データ=1241:414で約3:1となる. このモデルの予測結果では加重平均や最大値よりも誤差が小さくデータ拡張による予測精度の向上が認められた. また, 上記訓練データのすべてを模擬データで置き換えたところ, 観測データと混ぜ合わせた時よりもやや予測精度が向上するという結果になった. この結果は訓練に大量の模擬データがあれば観測データの少ない地域でもIrの予測が可能であると言うことを示唆している. 今後は多数のシナリオ地震についての模擬データを作成し, 訓練データを増やすことで予測精度が向上するか否かを検証をすると共に, 過去に教師データの無い地点においても模擬データを用いてIrの予測が可能であるか検証する.