13:45 〜 15:15
[SCG55-P02] 傾斜データに基づく短期的スロースリップイベント検出のための機械学習手法の開発
キーワード:スロー地震、沈み込み帯、畳み込みニューラルネットワーク、地殻変動、歪蓄積過程
短期的スロースリップイベント (SSE) はスロー地震の一種であり、ゆっくりとした断層すべりが日~月のタイムスケールで継続する現象である。主として沈み込み帯のプレート境界にて発生し、傾斜計や歪計、GNSSなどの測地学的手法により観測される。プレート境界で発生する短期的SSEは、巨大地震を引き起こす固着域へのひずみ蓄積において重要な役割を果たしていると考えられている。しかしながらその検出は多くの場合データの目視によっており、未検出のSSEも多数存在すると考えられる。より完全なSSEカタログを構築することで、蓄積された歪のうちどの程度が短期的SSEによって解放されているかについての定量的な理解が進むと期待される。そこで、本研究では傾斜計データから短期的SSEの検出を行う機械学習モデルの開発を行い、最終的には人の目で見落としていたイベントの検出を目標とする。
本研究で開発した機械学習モデルは、サンプリング間隔1時間、30日間の時間長を持つ傾斜時系列データ1成分 (1チャンネル、データ点数721) を入力すると、入力データの各時刻における (1) SSE開始時刻; (2) 終了時刻; (3) ノイズ; のそれぞれの確率値を出力する(3チャンネル、データ点数721) というものである。機械学習モデルは、地震波形データからP波、S波の到達時刻のピッキングを行うPhaseNet (Zhu and Beroza, 2018)、医用画像のセマンティックセグメンテーションを行うU-Net (Ronneberger et al., 2015) を基に作成した、全層畳み込みまたは転置畳み込みの、Encoder-Decoderネットワークである。この機械学習モデルの学習データとして、SSEによる傾斜変動を模し、立ち上がり開始・停止時刻・変化量をランダムに変化させたランプ関数に、ランダムノイズを加えて作成した擬似的なデータセットを用いた。これは、傾斜計での短期的SSEの観測事例が機械学習モデルの学習には十分でないためである。さらに実データへの応用を考え、シグナル(ランプ関数)を含まないノイズのみのデータセットも用意し、これら両者の擬似傾斜データでモデルの学習を行った。その後、学習済みモデルの性能評価として、学習時と同様な擬似データで構成されるテストデータセットに対する予測精度を確かめた。その結果、SSE開始時刻(ランプ関数の立ち上がり時刻)は76%、SSE終了時刻(ランプの終了時刻)は72%の精度で検出できた。ノイズのみデータに関しては100%近い精度でノイズと判断することができた。評価指数をS/N別で見ると、S/Nが小さくなるにつれ評価指数が下がることから、シグナルの変化量がノイズの振幅にかき消されることで検出が困難になると考えられる。
この学習済みモデルが実データにどの程度適用可能か確かめるため、四国西部に設置されている防災科研Hi-net 2観測点の高感度加速度計(傾斜計)データを学習済みモデルに適用した。2003年1月1日から2012年12月31日までの10年間の傾斜時系列データを、重複を含む30日間ごとの区間に分け、順にモデルへ入力し、SSE開始・終了時刻の検知を行った。Hirose and Kimura (2020) のSSEカタログと比較したところ、同期間に報告のある短期的SSE 32イベント中20イベントの開始または終了時刻の検出に成功した。さらに、SSEの報告のない時刻にSSE開始または終了の可能性のある99個の出力が得られた。
既知イベントの検出割合が63% (=20/32) にとどまっている理由には、実データから検出を行う際に使用する観測点数が少ないことや、実データ中の異常値や欠測の処理を行っていないこと、機械学習モデルの構造、学習に用いた擬似傾斜データにはドリフトが含まれていない、S/N分布が異なるなどの実データとの性質の違いが考えられる。
本手法により人の目では見落としていたイベントの検出が可能になれば、沈み込み帯における歪蓄積の議論の発展に繋がることが期待される。
本研究で開発した機械学習モデルは、サンプリング間隔1時間、30日間の時間長を持つ傾斜時系列データ1成分 (1チャンネル、データ点数721) を入力すると、入力データの各時刻における (1) SSE開始時刻; (2) 終了時刻; (3) ノイズ; のそれぞれの確率値を出力する(3チャンネル、データ点数721) というものである。機械学習モデルは、地震波形データからP波、S波の到達時刻のピッキングを行うPhaseNet (Zhu and Beroza, 2018)、医用画像のセマンティックセグメンテーションを行うU-Net (Ronneberger et al., 2015) を基に作成した、全層畳み込みまたは転置畳み込みの、Encoder-Decoderネットワークである。この機械学習モデルの学習データとして、SSEによる傾斜変動を模し、立ち上がり開始・停止時刻・変化量をランダムに変化させたランプ関数に、ランダムノイズを加えて作成した擬似的なデータセットを用いた。これは、傾斜計での短期的SSEの観測事例が機械学習モデルの学習には十分でないためである。さらに実データへの応用を考え、シグナル(ランプ関数)を含まないノイズのみのデータセットも用意し、これら両者の擬似傾斜データでモデルの学習を行った。その後、学習済みモデルの性能評価として、学習時と同様な擬似データで構成されるテストデータセットに対する予測精度を確かめた。その結果、SSE開始時刻(ランプ関数の立ち上がり時刻)は76%、SSE終了時刻(ランプの終了時刻)は72%の精度で検出できた。ノイズのみデータに関しては100%近い精度でノイズと判断することができた。評価指数をS/N別で見ると、S/Nが小さくなるにつれ評価指数が下がることから、シグナルの変化量がノイズの振幅にかき消されることで検出が困難になると考えられる。
この学習済みモデルが実データにどの程度適用可能か確かめるため、四国西部に設置されている防災科研Hi-net 2観測点の高感度加速度計(傾斜計)データを学習済みモデルに適用した。2003年1月1日から2012年12月31日までの10年間の傾斜時系列データを、重複を含む30日間ごとの区間に分け、順にモデルへ入力し、SSE開始・終了時刻の検知を行った。Hirose and Kimura (2020) のSSEカタログと比較したところ、同期間に報告のある短期的SSE 32イベント中20イベントの開始または終了時刻の検出に成功した。さらに、SSEの報告のない時刻にSSE開始または終了の可能性のある99個の出力が得られた。
既知イベントの検出割合が63% (=20/32) にとどまっている理由には、実データから検出を行う際に使用する観測点数が少ないことや、実データ中の異常値や欠測の処理を行っていないこと、機械学習モデルの構造、学習に用いた擬似傾斜データにはドリフトが含まれていない、S/N分布が異なるなどの実データとの性質の違いが考えられる。
本手法により人の目では見落としていたイベントの検出が可能になれば、沈み込み帯における歪蓄積の議論の発展に繋がることが期待される。