日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG55] 機械学習による固体地球科学の牽引

2023年5月22日(月) 13:45 〜 15:15 オンラインポスターZoom会場 (6) (オンラインポスター)

コンビーナ:久保 久彦(国立研究開発法人防災科学技術研究所)、小寺 祐貴(気象庁気象研究所)、直井 誠(京都大学)、矢野 恵佑(統計数理研究所)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

13:45 〜 15:15

[SCG55-P14] 物理情報ニューラルネットワーク(PINN)を用いた津波伝播評価

*古村 孝志1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:機械学習、物理情報ニューラルネットワーク、津波

1.物理情報ネットワーク(PINN)による津波伝播予測
深層学習による津波伝播予測の可能性を探るために、津波シミュレーションデータを用いた予測実験の性能評価を行った。畳み込みニューラルネットワーク(CNN)を用いて、水深と初期波源モデルに基づく津波シミュレーション結果を学習して、任意の地点と時刻における津波高を予測するモデルを作成した。多様な波源に対する津波伝播の学習により、沖合観測データから沿岸の津波波形を即時予測するシステム構築が目標である。一般的な深層学習では、津波の入力データと出力(予測)データをセットとする訓練データセットを用意し、予測と正解との残差を最小化する方向に強化される。一般的に、訓練データの範囲外の予測(外挿予測)は精度が低くなる。本研究では、CNN学習における残差の評価、予測結果と津波方程式の一致度を追加した物理情報ニューラルネットワーク(PINN; Raissi et al. 2019)を利用して、物理的に妥当なCNNを構築して外挿予測の精度向上を目指す。また、津波方程式における物性値(水深)を未知数としてPINN学習を進めることで、物性値のインバージョンも原理的に可能である。Rashet-Behesht et al. (2022)は、PINNを用いたスカラー波(P波)伝播予測と速度構造インバージョンの有効性を示し、Waheed et al. (2021)は、表面波のEikonal travel-time inversionの実問題への適用に成功している。本研究では、これら既往研究を参考に、PINNの津波予測問題への適用可能性を検討した。

2.データと手法
津波の予測実験に用いる学習データセットは、線形長波モデルに基づく津波方程式の差分法計算により作成した。256 km x 192 kmの領域を0.5 km間隔で離散化し、ガウス分布を持つ初期波源からの津波伝播を800秒間計算した(Fig.1)。計算結果を2 km 間隔(128x96)点に間引いた200枚の津波伝播スナップショットを用意し、最初の30枚(120秒間)をPINNで学習し、以降(240、360、480秒後)の津波伝播を予測した。PINNは、深層学習ライブラリKerasのWrapperであるSciANN(Haghighat and Juanes 2021)を用いてニューロン数40の4層モデルを構築した。活性化関数にはtanhを用い、津波の予測結果(波高)と正解との残差、及び予測結果(波高、流速)と津波方程式との残差のrmsを最小化する方向に学習を進めた。ここで、津波方程式に含まれる波高と流速の時・空間微分値は、PINNの学習過程の誤差逆伝播で用いられる自動微分機能により求められる。バッチサイズ500で2000エポック数の学習は、東大情報基盤センターのWisteriaスパコンのGPU計算で30分を要した。

3.津波伝播の予測結果
学習済みのPINNを用いた津波伝播予測は、CPU計算により1点あたり0.05秒で実行可能である。予測結果は、学習データ外の時刻(240、360、 480秒)まで津波伝播の特徴を良く再現できることがわかる(Fig.2a)。一方、津波方程式を学習の拘束条件に用いない、通常のCNNによる予測では、学習データ外の時刻の予測結果が大きくずれていく(Fig.2b)。次に、津波方程式の水深を未知数とするPINNにより長時間(720 s)の津波伝播スナップショットを学習し、水深分布のインバージョンを行った(Fig.3)。PINNにより、学習データ内の予測(内挿予測)は差分法計算と同等の精度で実行可能である(Fig.3a)。一つの津波源に対する学習で、すでにモデル中心部の浅い水深の特徴(Fig.1a)が見え初めてきており、さらに津波源を増やして学習を進めることで解像度の向上が期待できる。差分法等に基づく津波予測では、全格子点の波動伝播の時間発展計算が必要でありコストが大きい。一方、CNN(PINN)では特定の地点と時間の津波予測を少ない計算で実行可能である。数値結果にはモデル端からの反射波などノイズが含まれるが、津波方程式を満たさないノイズは積極的に学習しない利点もある。