日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG57] 破局噴火:メカニズムと地球表層へのインパクト

2023年5月25日(木) 13:45 〜 15:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、前野 深(東京大学地震研究所)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、座長:奥村 聡(東北大学大学院理学研究科地学専攻地球惑星物質科学講座)、鈴木 雄治郎(東京大学地震研究所)、前野 深(東京大学地震研究所)

14:15 〜 14:30

[SCG57-03] 津波堆積物とK-Ah火山灰の層序関係から推察される7.3 ka鬼界カルデラ形成噴火による巨大津波の発生要因

*山田 昌樹1山口 佳歩1金子 稜2石村 大輔3藤野 滋弘4 (1.信州大学理学部理学科地球学コース、2.信州大学大学院総合理工学研究科、3.東京都立大学大学院都市環境科学研究科地理学教室、4.筑波大学生命環境系)

キーワード:火山ガラス含有率、津波数値シミュレーション

約7300年前,東シナ海において完新世最大規模の鬼界アカホヤ噴火が発生した.この噴火では,巨大津波が発生したと考えられているが,その発生要因については,①カルデラの崩壊,②火砕流の海域への流入,③噴火と同時に発生した巨大地震など複数の説が提案されており,未だに議論が続いている(例えば,Geshi et al., 2017;Nanayama and Maeno, 2018;小林,2022).本研究では,大分県と徳島県,和歌山県の沿岸低地で掘削された堆積物コアに含まれる鬼界アカホヤ(K-Ah)火山灰とアカホヤ津波堆積物の層序関係から,噴火プロセスの中での津波発生の要因を推定することを目的とした.先行研究が行われているカルデラ近傍では,複数回の津波による侵食と堆積に加えて,各ステージでの火山噴出物が複雑な地質記録として残されているため,それらから主要な津波の発生要因を推定することは容易ではない.一方,カルデラから離れた地域には,主要な津波とK-Ah火山灰のみが到達したと考えられるため,比較的容易に津波発生の要因を推定できるはずである.また,本研究では,それぞれ最大クラスの①カルデラ崩壊,②火砕流流入,③南海トラフでの巨大地震(九州沖に大すべり域を設定した2つのモデル;Mulia et al., 2017)を想定した津波の数値計算も実施し,堆積物の層序関係と合わせて津波発生の要因を考察した.

K-Ah火山灰と津波の到達の前後関係を明らかにするため,堆積物コアの3〜4 phi粒子に含まれる火山ガラスの上位方向への変化を調べた.全ての地域の堆積物コアにおいて,泥層の直上に存在する砂質の津波堆積物層は,K-Ah火山灰から構成される砂質シルト層に覆われている.全ての調査地において,津波堆積物中にも火山ガラスが最大で67%含まれており,このことは少なくとも津波の到達中にはK-Ah火山灰の降灰が始まっていたことを示唆している.また,和歌山県で採取された堆積物コアでは,津波堆積物層の直下に層厚0.5 cm程度のK-Ah火山灰層が肉眼で認められた.このことから,和歌山県の沿岸低地では,津波の到達前にK-Ah火山灰が堆積していたことが明らかになった.火山灰の移動速度は津波の伝播速度よりも遅いと考えられるため,K-Ah火山灰が津波よりも前あるいは同時に到達していたことから,主要な津波が噴火プロセスの終盤に発生したと推察することができる.鬼界アカホヤ噴火のプロセスは,大規模な幸屋火砕流のco-ignimbrite ash(K-Ah火山灰)が発生した後に,カルデラが崩壊したと推定されているため(Maeno and Taniguchi, 2007),火砕流流入によって主要な津波が発生した場合,遠方地域には津波が先に到達することになる.そのため,この噴火で発生した主要な津波は,カルデラの崩壊が要因である可能性が高いと考えられる.

津波の数値計算では,各調査地への到達時間と波高を出力した.①カルデラ崩壊モデルでは,30分かけてカルデラが崩壊するパターンが最大規模であり,カルデラ崩壊開始から150〜165分後に各調査地に2.0〜4.3 mの波高の津波が到達した.②火砕流流入モデルでは,火砕流の発生から105〜130分後に0.6〜1.2 mと比較的規模の小さい津波が到達した.③巨大地震モデルでは,波高4.2〜10.2 mという比較的規模の大きい津波が到達する結果となった.噴火と同時に発生したとされている巨大地震の規模や破壊域は不明であるため,巨大地震説の可能性を検証するのは困難であるが,海溝軸から離れた長崎県の橘湾でもアカホヤ津波堆積物が認められていることを考慮すると(岡村ほか,2005),広範囲に分布するアカホヤ津波堆積物を巨大地震のみで説明することは難しいと考えられる.一方で,カルデラ崩壊の場合,九州地方西部にも津波は伝播し,橘湾では8.8 mの波高が認められた.本研究の数値計算には,現在の地形および海水準を用いているため,津波の波高自体は参考程度に取り扱うべきであるが,カルデラの遠方地域に残されたアカホヤ津波堆積物の分布を説明するためには,カルデラ崩壊による津波の発生が必要不可欠であると結論づけられ,この結果は堆積物コアの層序関係に基づく推察を支持するものとなった.