日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG58] 岩石―流体相互作用の新展開:表層から沈み込み帯深部まで

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (3) (オンラインポスター)

コンビーナ:岡本 敦(東北大学大学院環境科学研究科)、武藤 潤(東北大学大学院理学研究科地学専攻)、片山 郁夫(広島大学大学院先進理工系科学研究科地球惑星システム学プログラム)、中島 淳一(東京工業大学理学院地球惑星科学系)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/21 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SCG58-P03] 蛇紋岩中のロジン岩脈の分布に基づいたフィールドスケールでの変質マントルの地震波速度・電気比抵抗

*坂本 玄弥1谷本 和優1赤松 祐哉1片山 郁夫1 (1.広島大学)


キーワード:地震波速度、電気比抵抗、クラック特性、蛇紋岩

かんらん岩が水の影響を受けると蛇紋岩化が起こると同時にクラックが形成され、そのようなクラックは地震波速度や電気比抵抗を低下させる特徴を持つ。蛇紋岩の物理特性を実験室で測定する場合と地球物理探査で測定する場合では、周波数の違いから数桁を超えるスケールのギャップが存在する。そのため、地球物理観測からマントルの蛇紋岩化度を推定するには実験室スケールの結果だけでなく、フィールドスケールでの割れ目の観察が必要である。そこで本研究では、蛇紋岩露頭にみられるロジン岩脈の分布や形状を調べ、それらを実験室内で測定した蛇紋岩の弾性波速度と電気比抵抗と合わせることでフィールドスケールでの地震波速度と電気比抵抗を推定した。
調査は長崎県川原木場に分布する長崎変成帯の蛇紋岩体で行い、流体の通り道とされるロジン岩脈の密度分布、アスペクト比、走行・傾斜を海岸線の連続路頭に沿って約1 kmにわたり測定した。これらの測定値からフィールドスケールでの岩脈による空隙率とアスペクト比を求めた。一方で、室内実験は同所で採取した蛇紋岩を用いて、地震波速度・電気比抵抗の測定を含水条件下で行った。実験で使用する間隙流体は海水を模擬した0.5 mol/LのNaCl溶液を使用し、間隙水圧は1 MPaで一定にして、封圧を5 MPaから200 MPaまで段階的に上げて実験を行った。電気比抵抗は2端子法により試料の両端に取り付けた電極から得られたインピーダンスと位相差から求め、地震波速度はパルス透過法で得られた波形を解析し、P波速度とS波速度を求めた。
調査地域のロジン岩脈の密度分布は場所によるばらつきがあるものも、平均すると14本/100mであった。アスペクト比については平均するとα = 0.01程度であったが、測定したロジン岩脈には両端が見えていないものもあるため、このアスペクト比は下限値と考えられる。ロジン岩脈の密度とアスペクト比から求められる空隙率の平均値は1.3 %となった。走行・傾斜は全体を通してばらつきがあり、垂直方向と水平方向の密度分布もほぼ変わらないため、調査地域のロジン岩脈の方向はほぼランダムであったと考えられる。一方、室内実験では加圧とともに蛇紋岩の地震波速度(Vp = 6.3 km/s, Vs = 3.6 km/s)はやや増加するが、電気比抵抗(ρ = 4.3 × 104 Ω m)に変化は見られなかった。地震波速度の変化はアスペクト比の小さいクラック状の空隙が閉鎖したものと考えられるが、電気比抵抗はクラックの連結性が弱いために変化しなかったと考えられる。割れ目を含む岩体の地震波速度と電気比抵抗を有効媒質理論とパーコレーションモデルを用いて、割れ目の割合とアスペクト比で表すことが可能である。今回、フィールドで得られたロジン岩脈の空間分布と形状、そして実験室で得られたマトリックスの値から本地域でのフィールドスケールでの地震波速度と電気比抵抗を推定するとVp = 5.9 km/s、Vs = 3.4 km/s、ρ = 7 × 103 Ω mとなった。