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[SCG58-P11] 流体包有物が記録する西アルプスピエモンテ帯に位置するかつての海洋コアコンプレックス中のオフィカーボネート形成流体の化学組成
キーワード:オフィカーボネート、蛇紋岩、流体包有物、塩濃度、沈み込み帯、海洋コアコンプレックス
<背景>
海嶺ではCO2が溶け込んだ海水が、沈み込み帯では有機炭素を取り込んだ堆積物がマントルへ炭素を供給し、炭酸塩鉱物を形成する。この過程で年間10~27MtCの炭素がマントルへ供給され、マントルは炭素の重要なリザーバーである(Callow et al., 2018, Int. J. Greenhouse Gas Control)。この炭酸塩化については、スロー地震との関連や二酸化炭素地中貯留の実現のため、現在研究が進められている(Okamoto et al., 2021, Comm. Earth Environ.; Kelemen et al., 2011, Earth Planet. Sci. Lett.)。低速拡大海嶺ではデタッチメント断層に沿ってマントルが海洋底に露出する海洋コアコンプレックスにおいても炭酸塩化は進行する。これまで海洋コアコンプレックスで形成された炭酸塩鉱物について調べられている(Cannaò et al., 2020, Chem. Geol.; Kendrick et al., 2022, Earth Planet. Sci. Lett.)が、炭酸塩化をもたらした流体の化学組成に注目した研究は少ない(Scambelluri et al., 2016, Earth Planet. Sci. Lett.; Piccoli et al., 2018, Lithos)。本研究は西アルプスのオフィオライトで観察される炭酸塩化した蛇紋岩(オフィカーボネート)中の流体包有物を分析し、流体の化学組成(塩濃度)と形成温度を明らかにすることを目指す。
<サンプル>
サンプルは西アルプス・ピエモンテ帯の近接する2地域のオフィオライトから採取した。この地域は低速拡大であった古テチス海で形成された海洋コアコンプレックスを含む海洋リソスフェアが衝上したものである(Manatschal et al., 2010, Lithos)。この地域では、ほとんど沈み込みの変成作用を受けていない岩体からエクロジャイト相の変成を受けた岩体まで連続的にみられることが特徴的である。本研究ではほとんど沈み込んでいないシュナイエオフィオライトとグリーンシスト相の変成を受けたラゴネロオフィオライトの2地点のオフィカーボネートを研究対象とした。
<手法>
薄片を用いた微細構造観察や化学分析には電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を、鉱物種や流体包有物の化学種の同定にはラマン顕微鏡を用いた。流体包有物の塩濃度および均質化温度の算出はマイクロサーモメトリー法を利用し加熱冷却ステージを用いて行った。
<結果・議論>
シュナイエオフィオライトのオフィカーボネートは蛇紋石の角礫を炭酸塩鉱物が充填しており、一部球状の炭酸塩鉱物が蛇紋石の角礫を置き換えている構造も見られる。一方、ラゴネロオフィオライトのオフィカーボネートでは枝状に分岐する炭酸塩脈が発達しており、シュナイエとは構造が異なる。どちらのオフィオライトも炭酸塩鉱物はすべてカルサイトであった。ラマン顕微鏡によると流体包有物の成分としては水しか確認できなかったが、冷却加熱実験中に一部CO2を含むクラスレートと考えられる相を観察した。各サンプルの流体包有物のマイクロサーモメトリーの結果は表1の通りである。塩濃度はどのサンプルも5 wt.% NaCl eq.程度であり、これは海水の塩濃度より1.5 wt%程高い。蛇紋岩化が起きる際には水が吸収され、水に溶存していた塩類は取り残される (Debure et al., 2019, Sci. Rep.)ので、炭酸塩化をもたらした流体は蛇紋岩化後に残った流体だろう。あるいは、海水起源の熱水が蒸気と濃い塩水へ分離した可能性もある(Kelley and Delaney, 1987, Earth Planet. Sci. Lett.)。シュナイエオフィオライトのマトリックスを構成する炭酸塩と球状炭酸塩の均質化温度はともに140-150℃程度である。一方、ラゴネロオフィオライトの炭酸塩脈の均質化温度は220℃程度とシュナイエオフィオライトより高い温度を記録する。両者の均質化温度の違いが、沈み込み帯での変成作用によるかどうかは現時点で不明である。
海嶺ではCO2が溶け込んだ海水が、沈み込み帯では有機炭素を取り込んだ堆積物がマントルへ炭素を供給し、炭酸塩鉱物を形成する。この過程で年間10~27MtCの炭素がマントルへ供給され、マントルは炭素の重要なリザーバーである(Callow et al., 2018, Int. J. Greenhouse Gas Control)。この炭酸塩化については、スロー地震との関連や二酸化炭素地中貯留の実現のため、現在研究が進められている(Okamoto et al., 2021, Comm. Earth Environ.; Kelemen et al., 2011, Earth Planet. Sci. Lett.)。低速拡大海嶺ではデタッチメント断層に沿ってマントルが海洋底に露出する海洋コアコンプレックスにおいても炭酸塩化は進行する。これまで海洋コアコンプレックスで形成された炭酸塩鉱物について調べられている(Cannaò et al., 2020, Chem. Geol.; Kendrick et al., 2022, Earth Planet. Sci. Lett.)が、炭酸塩化をもたらした流体の化学組成に注目した研究は少ない(Scambelluri et al., 2016, Earth Planet. Sci. Lett.; Piccoli et al., 2018, Lithos)。本研究は西アルプスのオフィオライトで観察される炭酸塩化した蛇紋岩(オフィカーボネート)中の流体包有物を分析し、流体の化学組成(塩濃度)と形成温度を明らかにすることを目指す。
<サンプル>
サンプルは西アルプス・ピエモンテ帯の近接する2地域のオフィオライトから採取した。この地域は低速拡大であった古テチス海で形成された海洋コアコンプレックスを含む海洋リソスフェアが衝上したものである(Manatschal et al., 2010, Lithos)。この地域では、ほとんど沈み込みの変成作用を受けていない岩体からエクロジャイト相の変成を受けた岩体まで連続的にみられることが特徴的である。本研究ではほとんど沈み込んでいないシュナイエオフィオライトとグリーンシスト相の変成を受けたラゴネロオフィオライトの2地点のオフィカーボネートを研究対象とした。
<手法>
薄片を用いた微細構造観察や化学分析には電界放出型走査電子顕微鏡(FE-SEM)を、鉱物種や流体包有物の化学種の同定にはラマン顕微鏡を用いた。流体包有物の塩濃度および均質化温度の算出はマイクロサーモメトリー法を利用し加熱冷却ステージを用いて行った。
<結果・議論>
シュナイエオフィオライトのオフィカーボネートは蛇紋石の角礫を炭酸塩鉱物が充填しており、一部球状の炭酸塩鉱物が蛇紋石の角礫を置き換えている構造も見られる。一方、ラゴネロオフィオライトのオフィカーボネートでは枝状に分岐する炭酸塩脈が発達しており、シュナイエとは構造が異なる。どちらのオフィオライトも炭酸塩鉱物はすべてカルサイトであった。ラマン顕微鏡によると流体包有物の成分としては水しか確認できなかったが、冷却加熱実験中に一部CO2を含むクラスレートと考えられる相を観察した。各サンプルの流体包有物のマイクロサーモメトリーの結果は表1の通りである。塩濃度はどのサンプルも5 wt.% NaCl eq.程度であり、これは海水の塩濃度より1.5 wt%程高い。蛇紋岩化が起きる際には水が吸収され、水に溶存していた塩類は取り残される (Debure et al., 2019, Sci. Rep.)ので、炭酸塩化をもたらした流体は蛇紋岩化後に残った流体だろう。あるいは、海水起源の熱水が蒸気と濃い塩水へ分離した可能性もある(Kelley and Delaney, 1987, Earth Planet. Sci. Lett.)。シュナイエオフィオライトのマトリックスを構成する炭酸塩と球状炭酸塩の均質化温度はともに140-150℃程度である。一方、ラゴネロオフィオライトの炭酸塩脈の均質化温度は220℃程度とシュナイエオフィオライトより高い温度を記録する。両者の均質化温度の違いが、沈み込み帯での変成作用によるかどうかは現時点で不明である。