日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-CG 固体地球科学複合領域・一般

[S-CG63] 沈み込み帯へのインプット:海洋プレートの進化と不均質

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤江 剛(海洋研究開発機構)、平野 直人(東北大学東北アジア研究センター)、鹿児島 渉悟(富山大学)、赤松 祐哉(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:鹿児島 渉悟(富山大学)、藤江 剛(海洋研究開発機構)

11:30 〜 11:45

[SCG63-09] プチスポットマグマの希ガス・CO2組成

★招待講演

*小長谷 智哉1,2角野 浩史2、町田 嗣樹3平野 直人4 (1.北海道大学、2.東京大学、3.千葉工業大学、4.東北大学)

キーワード:プチスポット火山、希ガス同位体、CO2、マントル、海洋プレート、沈み込み帯

上部マントルの希ガス同位体組成は,過去の脱ガス履歴・大気希ガスのリサイクル・プルーム源マントルの影響などを反映してある程度の不均質性を示す [e.g., 1, 2].これまでに行われた上部マントル希ガス研究のほとんどは中央海嶺玄武岩(MORB)の急冷ガラスを用いており,それ以外の地域の組成については理解が進んでいない.プチスポット火山は沈み込む海洋プレートの屈曲場付近で形成される火山である.そのマグマはアセノスフェアに由来すると考えられ,非常に高濃度の揮発性成分(CO2: >5 wt% [3])を含む.このためプチスポット火山の溶岩はMORBマントルから遠く離れた地域のマントル希ガス組成解明のカギとなる可能性がある.太平洋プレート西端に位置する南鳥島付近の海底で採取されたプチスポット溶岩の玄武岩質急冷ガラス試料(6k#1466 R3-003)は内部に多量の気泡を含む.本研究では,プチスポットマグマとその起源マントルの希ガス・CO2組成を明らかにするために本試料の希ガス同位体分析を行った.
気泡に含まれる気体の抽出は希ガス質量分析計(VG-5400/MS-IV, 東京大学)に接続された真空の破砕装置内で試料を段階的に破砕して行った.各段階で抽出された気体は隔膜真空計によって全圧を測定した後,加熱したTi-Zrゲッター等で活性ガスを除去して希ガスの精製を行った.その後,希ガス(He, Ne, Ar, Kr, Xe)を質量分析計に導入して同位体分析を行った.CO2量は抽出気体の大半が CO2であると仮定して全圧から求めた.
気泡中のNe同位体組成は20Ne/22Ne-21Ne/22Ne図において大気(20Ne/22Ne = 9.8)を端成分とする直線上に分布した.測定された 20Ne/22Ne(9.8–12.5)の最大値がマントルの推定値(~12.5 [4])に匹敵することからプチスポットマグマの希ガスはマントルに由来することが分かった.また,Ne同位体組成の回帰直線に対しマントルの20Ne/22Ne = 12.5を用いて起源マントルの21Ne/22Ne = 0.054±0.001を推定した.同様にして20Ne/22Neと40Ar/36Arの相関から起源マントルの40Ar/36Ar = 25500+2800-2200を推定した.これらの値はMORBマントルの値(21Ne/22Ne = 0.055–0.068,40Ar/36Ar = 20000–50000 [1, 2])と誤差の範囲で一致し,一方でプルームの影響を強く受けたOIBマントルの値(21Ne/22Ne = 0.034–0.048,40Ar/36Ar = 9400–17000 [2, 5])とは異なっている.この結果からプチスポットマグマの起源マントルのNe・Ar同位体組成がMORB的であることが明らかになった.
(36Ar, 84Kr, 130Xe, CO2)/22Neと20Ne/22Neの相関からマグマの20Ne/22Ne = 12.5を仮定してプチスポットマグマの希ガス元素比とCO2/22Neを求めた.得られた希ガス元素比は同様にして求められたMORBマグマの値[4]によく似ていた.またCO2/22NeについてもMORBマグマ組成の範囲内であった.プチスポットマグマの一部は地表まで到達せず海洋プレートの組成に影響を与えていることが示唆されているが[6, 7],本研究結果は沈み込む海洋プレートの屈曲場付近ではMORBマグマ的な希ガス・CO2組成を持つ揮発性成分のインプットが起きていることを示唆する.またCO2/希ガス比がMORB的であることからプチスポットマグマに含まれる高濃度CO2はマントルの微小部分溶融に起因する可能性が高い.


References
[1] Moreira M. (2013) Geochem. Perspect. 2, 229–403. [2] Parai R. et al. (2019) Lithos 346–347, 105153. [3] Okumura S. and Hirano N. (2013) Geology 41(11), 1167–1170. [4] Moreira M. et al. (1998) Science 279, 1178–1181. [5] Péron S. et al. (2016) Earth Planet. Sci. Lett. 449, 145–154. [6] Hirano N. and Machida S. (2022) Commun. Earth Environ. 3, 110. [7] Mikuni K. et al. (2022) Prog. Earth Planet. Sci. 9, 62.