日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GD 測地学

[S-GD01] 測地学・GGOS

2023年5月24日(水) 09:00 〜 10:30 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:横田 裕輔(東京大学生産技術研究所)、三井 雄太(静岡大学理学部地球科学科)、松尾 功二(国土交通省 国土地理院)、座長:大坪 俊通(一橋大学)、風間 卓仁(京都大学理学研究科)

10:00 〜 10:15

[SGD01-15] ラコスト型相対重力計の分解

*風間 卓仁1、吉川 慎2、岡田 和見3若林 環2西山 竜一4大柳 諒1今西 祐一4 (1.京都大学理学研究科、2.京都大学火山研究センター、3.北海道大学地震火山研究観測センター、4.東京大学地震研究所)

キーワード:ラコスト型相対重力計、ゼロ長ばね、器械高、スケールファクター、火山性重力変化

LaCoste & Romberg型相対重力計(ラコスト重力計)は内部にゼロ長ばねを有する可搬型の相対重力計である。日本では1960年代から主に火山地域で使用され、それ以降現在に至るまで相対重力のキャンペーン観測や連続観測に使用されてきた。ラコスト重力計を使用するにあたり、操作方法や検定方法については主に研究者間の個別指導によって伝承されてきたものの、その内部構造についてはマニュアル以外に十分な資料が残されていない。ラコスト重力計を適切に使用するためには、重力計の内部構造を使用者自身が事前に理解しておく必要がある。そうすることで、ラコスト重力計で取得された重力データを正しく解析し、かつ微小な重力シグナルを抽出することにもつながると期待される。

そこで、我々は2台のラコスト重力計を分解し、ラコスト重力計の内部構造を観察した。分解作業は2022年11月2日~3日に京都大学の阿蘇火山研究センターで実施し、一連の作業工程は動画や写真として記録した。ラコスト重力計は外側から筐体、恒温槽、メーター主要部によって構成されている。筐体と恒温槽の間の空間は綿で埋められており、これが断熱の役割を担っている。恒温槽は密閉されており、ラコスト重力計のマニュアルによると恒温槽内部は不活性ガスで充填されている。メーター主要部にはゼロ長ばねが斜めに吊られていて、その下端には薄い直方体形の錘(マニュアルにはmassと記載されている)が接続されている。ただし、この錘は水平方向に伸びる金属板(ビーム)と一体となっており、実質的にはビーム全体を錘とみなすことができる。

この重力計分解に関連し、我々は錘~筐体上面の高さ(= H1)を測定した。というのも、ラコスト重力計でキャンペーン観測を行う際、通常は金属標~筐体上面の高さ(= H2)が器械高として扱われている。しかし、重力を感じている錘は重力計の下方に位置しているため、H2を器械高と仮定すると器械高補正量を過大評価してしまう。そのような事態を避けるには、H1を把握しておき、この値をH2から差し引くことで正しい器械高(= H2 - H1)を算出する必要があるのである。今回の測定では、ビーム全体を錘とみなした上でビーム中央部~筐体上面の高さ(= H1)を測定したところ、H1 = 14.4 cmと得られた。この高さは約44.4 microGalの鉛直重力差に相当し(フリーエア勾配3.086 microGal/cmを用いて算出)、数microGal程度の高精度な重力観測を実現する際には無視できない大きさである。

なお、本研究で分解した2台の重力計のうち、1台の重力計についてはゼロ長ばねを取り出すことに成功した。今後我々は、このばねの伸びと復元力の関係を実測することで、ラコスト重力計のゼロ長ばねの特性を明らかにしていく予定である。