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[SGD02-05] 地殻変動モデリングにおけるGreen関数の比較と2011年東北地方太平洋沖地震の地震時断層すべり推定への適用
キーワード:断層すべり推定、Green関数、2011年東北地方太平洋沖地震
GNSSや海底地殻変動観測により地震時の地殻変動が捉えられている.地震時の変位は弾性体のディスロケーションによる変形でよく説明することができ,観測された変位データのインヴァージョンによる地震時断層すべりの推定が広く行われている. ディスロケーションに対する弾性変形を記述するGreen関数として均質な半無限空間を仮定したモデルがよく用いられるが,層構造を考慮した半無限モデル,球形モデルで自己重力と層構造を考慮したものなども存在する.特に巨大地震の場合,地殻変動のスケールが100 kmを超えるため,近年は球形モデルを用いたインヴァージョンの例も増えつつある.このようにいくつかのモデルが提案されているが,フォワード計算で同じすべりに対してどの程度結果が異なるのか調べた例はあるものの,インヴァージョンにおける影響を調べた例は少ない.そこで本研究では,下記の3つのモデルをインヴァージョンに用いて結果を比較した.
Okada (1985)のポアソン媒質を仮定したFlatモデル,Wang et al. (2003)のPREMの層構造を用いた半無限空間モデル(以下Flat layeredモデル),Tanaka et al. (2014)のPREMを用いた自己重力の働く球形モデル(以下Spherical layeredモデル)の3モデルを用いて,①曲率および自己重力と,②深さ方向の不均質が2011年東北地方太平洋沖地震の地震時すべり推定に及ぼす影響について評価する.変位データは,国土地理院のGNSSデータ及び海上保安庁の海底地殻変動データを用い,ABICを用いて各モデルを評価した.
各モデルのABIC最小値を比較すると,Spherical layeredモデルが最小で,次いでFlat layered,Flatモデルの順で小さく,また水平変位のRMSも同様の順で小さかった.この結果は,層構造を考慮することでABICと水平変位の再現性が有意に改善し,曲率・自己重力を考慮することでさらに改善することを示す.また遠地での観測変位に対するモデルの再現性を調べた結果,水平変位・上下変位ともに層構造を考えることで再現性が高まり,さらに曲率・自己重力を考えることで震央距離400 km以遠の変位の再現性が高まった.推定されたすべりの最大値は,Flat : 45 m,Flat layered : 40 m,Spherical layered : 39 mとなり,MwはそれぞれFlat : 8.98,Flat layered : 9.06,Spherical layered : 9.05 であった.
得られたすべり分布のちがいが生じた原因を明らかにするため,推定された主要なすべり分布領域である深さ10 km~40 kmの各深さに点震源をおき,フォワード計算を各モデルに対して行った.東北沖地震においては三陸沖にあたる震央距離200 kmでの上下変位では,Flat と Flat layered 間の差が Flat layered と Spherical layered 間の差より大きく,特に深さ40 kmの場合は顕著となる.東北沖地震では日本海側にあたる震央距離400 kmでの上下変位を比較すると,200 kmの場合のようにFlat の変位が他の2モデルと大きく差がつく傾向はなくなるのに対して,Flat layered と Spherical layered 間の差が,例えば深さ10 kmではFlat layered と Spherical layered の差の割合が200 kmの場合の2倍となるなど顕著になる.現時点ではすべり分布のちがいを説明する理由の特定までは至っていないが,これらのフォワード計算の結果から,モデルによる差が観測で有意に検出できることが分かった.以上の結果は,地震時すべり分布の不確かさを議論する際に,Green関数の差も考慮すべきことを示す.
Okada (1985)のポアソン媒質を仮定したFlatモデル,Wang et al. (2003)のPREMの層構造を用いた半無限空間モデル(以下Flat layeredモデル),Tanaka et al. (2014)のPREMを用いた自己重力の働く球形モデル(以下Spherical layeredモデル)の3モデルを用いて,①曲率および自己重力と,②深さ方向の不均質が2011年東北地方太平洋沖地震の地震時すべり推定に及ぼす影響について評価する.変位データは,国土地理院のGNSSデータ及び海上保安庁の海底地殻変動データを用い,ABICを用いて各モデルを評価した.
各モデルのABIC最小値を比較すると,Spherical layeredモデルが最小で,次いでFlat layered,Flatモデルの順で小さく,また水平変位のRMSも同様の順で小さかった.この結果は,層構造を考慮することでABICと水平変位の再現性が有意に改善し,曲率・自己重力を考慮することでさらに改善することを示す.また遠地での観測変位に対するモデルの再現性を調べた結果,水平変位・上下変位ともに層構造を考えることで再現性が高まり,さらに曲率・自己重力を考えることで震央距離400 km以遠の変位の再現性が高まった.推定されたすべりの最大値は,Flat : 45 m,Flat layered : 40 m,Spherical layered : 39 mとなり,MwはそれぞれFlat : 8.98,Flat layered : 9.06,Spherical layered : 9.05 であった.
得られたすべり分布のちがいが生じた原因を明らかにするため,推定された主要なすべり分布領域である深さ10 km~40 kmの各深さに点震源をおき,フォワード計算を各モデルに対して行った.東北沖地震においては三陸沖にあたる震央距離200 kmでの上下変位では,Flat と Flat layered 間の差が Flat layered と Spherical layered 間の差より大きく,特に深さ40 kmの場合は顕著となる.東北沖地震では日本海側にあたる震央距離400 kmでの上下変位を比較すると,200 kmの場合のようにFlat の変位が他の2モデルと大きく差がつく傾向はなくなるのに対して,Flat layered と Spherical layered 間の差が,例えば深さ10 kmではFlat layered と Spherical layered の差の割合が200 kmの場合の2倍となるなど顕著になる.現時点ではすべり分布のちがいを説明する理由の特定までは至っていないが,これらのフォワード計算の結果から,モデルによる差が観測で有意に検出できることが分かった.以上の結果は,地震時すべり分布の不確かさを議論する際に,Green関数の差も考慮すべきことを示す.