日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL22] 年代層序単元境界の研究最前線

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:15 国際会議室 (IC) (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:星 博幸(愛知教育大学自然科学系理科教育講座地学領域)、高嶋 礼詩(東北大学総合学術博物館)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、岡田 誠(茨城大学理学部理学科)、座長:星 博幸(愛知教育大学自然科学系理科教育講座地学領域)、高嶋 礼詩(東北大学総合学術博物館)、黒田 潤一郎(東京大学大気海洋研究所 海洋底科学部門)、岡田 誠(茨城大学理学部理学科)、尾上 哲治(九州大学 大学院理学研究院 地球惑星科学部門)

09:30 〜 09:45

[SGL22-03] 福島県相馬中村層群から見出されたWeissert Event層準とその放射年代

*都丸 大河1高嶋 礼詩2折橋 裕二3山中 寿朗4西 弘嗣5黒柳 あずみ2淺原 良浩6 (1.東北大学院理学研究科地学専攻、2.東北大学学術資源研究公開センター 東北大学総合学術博物館、3.弘前大学大学院理工学研究科、4.東京海洋大学海洋環境科学部門、5.福井県立大学恐竜研究所、6.名古屋大学院環境学研究科地球環境科学専攻)

キーワード:白亜紀前期、相馬中村層群、炭素同位体比層序

白亜紀には海洋に広く無酸素水塊が発達する海洋無酸素事変(Oceanic Anoxic Events : OAEs)が複数回発生したことが知られている.大規模な海洋無酸素事変の多くは巨大火成岩岩石区(Large Ignous Provinces : LIPs)の形成によって発生したことが指摘されており,広域な黒色頁岩の分布と炭素同位体比の顕著な正のエクスカーションで特徴づけられている.Weissert Eventは,Valanginian後期からHautervianにかけて,当時の炭素循環に大きな影響を与えたイベントであり,Parana-Etendeka洪水玄武岩の噴出時期と一致し,δ13Cの顕著な正のエクスカーションによって特徴づけられることから,以前は白亜紀に起きた最初の大規模な海洋無酸素事変(OAEs)と考えられていた.しかし近年,OAEの特徴とされる黒色頁岩が広範囲に分布しないことから,海洋無酸素事変ではなく別の要因で引き起こされたと考えられており,いまだその時の環境変動の全容は明らかになっていない(Westermann et al., 2010).さらに,Weissert Eventに関する層序学的研究や古環境変動ついては主にテチス海~大西洋地域で盛んに検討されているが,日本を含めた太平洋北西部ではまだ報告例がない.Wissert Eventの炭素同位体比の正のピークは国際対比を行う上で重要な化学層序的鍵層となるが,日本をはじめとした環太平洋地域からの報告はない.下部白亜系は国際的に対比可能な化石種が少なく,生層序によるグローバルな年代対比の精度が低い.また,下部白亜系の研究が盛んな欧米地域の地層からは凝灰岩が挟まらないために,Weissert Eventを含めた白亜紀前期のステージ境界や古環境イベントの数値年代についても議論が続いている.
そこで,本研究では北西太平洋地域でWeissert event層準を発見し,その数値年代を明らかにすることを目的とし,福島県南相馬市相馬中村地域に分布する上部ジュラ系~下部白亜系の相馬中村層群において炭素同位体比層序と凝灰岩の放射年代を検討した.その結果,放散虫化石やアンモナイト化石によってValanginianに対比される小山田層最上部において,炭素同位体比の2‰の顕著な正のピークを見出すことができた.また,小山田層下部に挟まる凝灰岩からは135.59±0.77 Ma,正のピークの上位に相当する小山田層最上部の凝灰岩からは133.9±1.2 Maと133.22±0.60 MaのジルコンU-Pb年代を得ることができた.これらの結果をもとに,Valanginian/Hauterivian境界のGSSPであるフランス南東部Vocontian basinの炭素同位体比層序と国際対比を行ったところ,詳細に炭素同位体比変動のピークを対比することができ,その年代値も最新の天文年代によって得られたWeissert Eventの年代値とおおむね一致することが明らかとなった.

引用文献
Aguirre-Urreta et al., 2017, Cretaceous Research, 75, 193-204.
Gradstein et al., The Geologic Time Scale 2020, Elsevier, 1028-1030.
Weissert et al., 1998, Palaeogeogr. Palaeoclimatol. Palaeoecol, 137, 189-203.