日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-GL 地質学

[S-GL23] 日本列島および東アジアの地質と構造発達史

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (15) (オンラインポスター)

コンビーナ:大坪 誠(産業技術総合研究所 活断層・火山研究部門)、細井 淳(産業技術総合研究所地質調査総合センター地質情報研究部門)、羽地 俊樹(産業技術総合研究所 地質調査総合センター 地質情報研究部門)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/23 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SGL23-P07] 九州北部・筑前前原周辺における阿蘇4火砕流堆積物の分布と屈折率

*佐藤 善輝1水野 清秀1 (1.産業技術総合研究所 地質情報研究部門)

キーワード:阿蘇4火砕流、糸島半島、阿蘇火山、第四系、広域テフラ

阿蘇4噴火(Aso-4,約85~90 ka)は阿蘇火山で発生した最大規模の噴火である.阿蘇4火砕流堆積物(Aso-4 pfl)は九州中部~北部を広く覆っており,複数のサブユニットに区分されている.なかでも八女軽石流と鳥栖橙色軽石流の2層は広範囲に分布し(Watanabe, 1978;松尾・堀川2009),阿蘇火山北西側でも報告例がある(下山1989など).
 筑前前原地域では,Aso-4 pflの微高地が断片的に分布しているとされている(下山ほか1984など).しかし,既存研究では鉱物組成に基づいてテフラ対比を行っており,火山ガラスや重鉱物の屈折率のデータを欠いている.当該地域のAso-4 pfl微高地は,沖積低地との比高が1mに満たないものも多く,地表形態のみからは自然堤防と混同するおそれがある.さらに,八女軽石流,鳥栖橙色軽石流の差異のひとつとして火山ガラスの屈折率の範囲があり(松尾・堀川2009),両火砕流堆積物の識別や流入過程が検討できる可能性がある.そこで,本研究では筑前前原地域におけるAso-4 pflの分布調査とその屈折率測定を実施した.
 当該地域周辺ではこれまでに計6箇所でAso-4 pflが確認された.これらはいずれも沖積低地内に分布する微高地あるいは中位段丘下位面上に分布し,それより高位の中位段丘上位面と高位段丘上には分布しない.Aso-4 pflから成る微高地は,糸島低地帯の西部と長野川流域に分布する.いずれの地点でも下限に到達しておらず層厚は不明であるが,最大で層厚1.5 m以上に達する.全ての地点で重鉱物として普通角閃石と直方輝石が含まれ,その屈折率はそれぞれn2=1.685~1.690前後,γ=1.699~1.701前後を示す.火山ガラスは風化して残存していないことが多いが,一部の地点ではバブルウォール型あるいは平行型(岸・宮脇,1996)の火山ガラスが認められ,その屈折率n=1.505~1.510を示す.これらの鉱物組成および屈折率が既報の特徴とよく一致することから,Aso-4噴火に伴う堆積物であることが示唆される.また,径1.5 cm程度の軽石を含んでおり,降下軽石ではなく火砕流による堆積物の可能性が高い.こうしたAso-4 pflの分布はおおむね下山(1984)を支持する.
 糸島低地帯西部の糸島市志登地区で確認されたAso-4 pflは,白色~乳白色の極細粒砂からなり,大部分が火山ガラスからなる.次いで直方輝石が多く,わずかに普通角閃石が混じる.火山ガラスの屈折率を細かくみると,1.506-1.507と1.509-1.511付近に2つのピークを持つ特徴を示す.また,糸島市多久では褐色を呈する火山灰質粘土からなり,同様の屈折率を示す.これらの特徴は松尾・堀川(2009)が示した阿蘇火山北方の八女軽石堆積物の特徴とよく一致しており,糸島半島周辺に八女軽石流が流下した可能性を示している.
 糸島半島と阿蘇火山の間には標高800~1,000 mの脊振山地が分布し,障壁を成す.更新世段丘面上にAso-4 pflが分布しないことから,火砕流が脊振山地を全面的に乗り越えたとは考えにくい.供給ルートとして,①糸島半島東側(福岡平野側)からのルート,②脊振山地の一部の峠を乗り越えるルートの2つが考えられる.福岡平野では北西~西北西方向にAso-4 pflが断続的に分布し,西北西方向に火砕流が流下したとされる(下山1994).糸島低地帯はその延長線上にあたり,東側から流入したとしてもおかしくない.他方,脊振山地南方の佐賀平野では火砕流が西側に流下し(下山1994),その西方の富士町杉山では標高600 m前後の地点でAso-4 pflが報告されている(長岡2001).長野川流域は谷の最上流部が脊振山地の鞍部(長野峠)になっており,その標高は約600 mである.長野峠は富士町杉山から約9 kmに位置しており,火砕流が峠を乗り越えた可能性もある.糸島半島における阿蘇4火砕流の流入経路の特定には,周辺地域における堆積物分布や岩石学的特徴についてさらにデータを蓄積していく必要がある.

引用文献
松尾征二・堀川義之(2009)日本地質学会学術大会講演要旨. P-123
下山正一(1989)九大理研報(地質), 16, 37–58.
下山正一ほか(1984)北九大文紀要B, 17, 39–58.
下山正一ほか(1994)第四紀研究, 33, 107–112.
岸 清・宮脇理一郎(1996)地学雑誌, 105, 88–112.
長岡信治(2001)佐賀県富士町編「巨木は語る-佐賀県富士町における縄文の埋没巨木群と現存巨木群―」, 47–48.
Watanabe, K. (1978) 熊本大学教育学部紀要. 自然科学,27,97-120.