日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[E] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-IT 地球内部科学・地球惑星テクトニクス

[S-IT16] 地球深部科学

2023年5月26日(金) 09:00 〜 10:30 オンラインポスターZoom会場 (2) (オンラインポスター)

コンビーナ:土屋 旬(愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)、太田 健二(東京工業大学理学院地球惑星科学系)、河合 研志(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、飯塚 毅(東京大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/25 17:15-18:45)

09:00 〜 10:30

[SIT16-P17] 第一原理計算から予測される 含鉄ケイ酸塩メルトにおける鉄の電荷不均化反応

*北口 一志1土屋 卓久1 (1.愛媛大学地球深部ダイナミクス研究センター)


キーワード:電荷不均化反応、マグマオーシャン、熱力学積分法

1. はじめに
 原始地球の成長過程において、微惑星の衝突によって大規模な融解が発生し、マグマオーシャン(MO)が形成された[1]。このMO中で核とマントルの分離に伴う地球の化学進化が進んだ。核形成過程やその際の化学進化についてこれまで様々な研究が行われてきた。その結果、親鉄元素の鉄-ケイ酸塩間分配から30~40 GPaでの核形成圧力条件が予測されている一方[2]、Basal MOモデルでは135 GPaの核-マントル境界条件での鉄-ケイ酸塩間平衡が示唆されている[3]。また、MO内部における鉄液滴形成メカニズムとしては、衝突した微惑星の核を起源とする説[4]が有力であるが、ケイ酸塩メルト中での鉄の電荷不均化反応(3Fe²⁺⇆2Fe³⁺+Fe⁰ )に伴う金属鉄生成の可能性も指摘されている[5]。最近になり、実際にケイ酸塩メルト中での電荷不均化反応が高圧実験により報告された[6]。一方、理論研究では、含鉄ケイ酸塩メルトの熱力学モデルからMOの酸化還元度を調べた例があるが[7]、液体中の鉄の電荷不均化反応の安定性について直接第一原理計算等を行った例は今のところ無い。
2. 計算方法
 本研究では熱力学積分法に基づく液体の第一原理自由エネルギー計算[8]を実行し、電荷不均化反応の安定性を求めた。これを行うために、以下の反応モデル
Mg₁₂Fe²⁺₄Si₁₆O₄₈⇆Mg₁₂Fe²⁺Fe³⁺₂Si₁₆O₄₈+Fe⁰
を設定し、各項の自由エネルギーを求め、反応自由エネルギー(ΔG)を計算した。その際、ケイ酸塩メルト組成は輝石組成とし、温度圧力条件は0~135 GPa, 3000~5000 Kとした。
 熱力学積分法では、解析的に自由エネルギーが計算可能である参照系のポテンシャルエネルギーと第一原理系のポテンシャルエネルギーを結合させ、参照系と第一原理系のヘルムホルツ自由エネルギー差を数値積分によって求める。本研究では、参照系に理想気体を適用し、数値積分にはガウス求積法を用いた。また、液体状態を再現するために定温第一原理分子動力学法を用い、原子に働く力は密度汎関数理論に基づき計算した。
3. 結果と考察
 本研究で計算されたΔGは4000 Kまでは負であり、電荷不均化反応による金属鉄の生成が確認された。一方、ΔGは圧力による影響よりも温度による影響を大きく受け、5000 Kでは2価鉄が大きく安定化することが分かった。
 本計算結果から、金属鉄はMOの温度が4000 K程度までであれば生成されるが、それ以上高温の場合は徐々に生成されなくなると考えられる。従って、MO深部では逆反応により金属鉄が減少し、2価鉄が増加すると考えられる。これらの結果について理解を深めるために、電子構造や原子構造の解析を現在進めている。
参考文献
[1] T. Kleine: Nature, 477, 168 (2011).
[2] B. J. Wood, M. J. Walter, and J. Wade: Nature, 441, 825 (2006).
[3] S. Labrosse, J. W. Hernlund, and N. Coltice: Nature, 450, 866 (2007).
[4] D. C. Rubie, et al.: Earth and Planetary Science Letters, 301, 31 (2011).
[5] J. Wade and B. J. Wood: Earth and Planetary Science Letters, 236, 78 (2005).
[6] K. Armstrong, et al.: Science, 365, 903 (2019).
[7] J. Deng, et al.: Nature Communications, 11, 1 (2020).
[8] Z. Xiong, T. Tsuchiya, and T. Taniuchi: Journal of Geophysical Research: Solid Earth, 123, 6451 (2018).