日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-MP 岩石学・鉱物学

[S-MP26] 変形岩・変成岩とテクトニクス

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:針金 由美子(産業技術総合研究所)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、永冶 方敬(東京学芸大学)、座長:宇野 正起(東北大学大学院環境科学研究科)、中村 佳博(国立研究開発法人産業技術総合研究所 地質調査総合センター)、針金 由美子(産業技術総合研究所)

15:30 〜 15:45

[SMP26-06] コース石のラマンシフト:超高圧変成岩の包有物鉱物学再訪
〜ドラマイラ白色片岩の例〜

*武田 菜実1辻森 樹1板谷 徹丸2 (1.東北大学、2.NPO法人地球年代学ネットワーク)

キーワード:コース石、ラマン分光法、超高圧変成作用、白色片岩

変成岩において、構成鉱物中の鉱物包有物はそのホスト鉱物との間の熱膨張率、体積弾性率の差による生じる残留応力を保持することがあり、その大きさはラマンスペクトルのピークのずれ(ラマンシフト)によっても観察される。例えば、ざくろ石に包有された石英が保持する残留応力は地質圧力計として利用することが可能である。その一方で、石英の高圧相であるコース石包有物については、超高圧変成作用を被ったか否かの認定のための記載目的が主で、これまでラマンスペクトルの研究があまり行われてこなかった。コース石は大陸地殻物質が大陸衝突帯で約100 km以深に沈み込んだ後、地殻浅所まで上昇した広域超高圧変成岩を特徴づける。広域超高圧変成岩に見つかるコース石は、主にざくろ石やジルコンなどの鉱物中に微小な包有物として産する。マトリクスの間粒状(インターグラニュラー)コース石は被超高圧変成岩体の上昇過程でほぼ石英に相転移してしまうために残存することは極めてまれである。しかしながら、西アルプス・ドラマイラ岩体の白色片岩など、例外的にコース石がマトリクスに残存する例も知られている(西アルプス、ドラマイラ岩体の白色片岩及び、チニャナ湖超高圧変成ユニットのエクロジャイト、蘇魯超高圧変成帯のエクロジャイト)。我々は地上に露出した超高圧変成岩のなかで粗粒なコース石がマトリクスに最も良く残存することで知られるドラマイラ岩体の白色片岩試料を粉砕し、パイロープざくろ石(~400粒)、藍晶石(88粒)、ジルコン(40粒)、ルチル(~400粒)を分離し、それらに包有されたコース石約120個について、ラマンシフトの特徴と傾向を調べた。今回、我々が得たいくつかの新知見について紹介する。
 コース石のラマンシフトはホスト鉱物によって異なる。とりわけ、藍晶石に包有されたコース石(大きさ~4–58 µm)において、Si–O–Si対称伸縮振動に起因する~521 cm-1 のピークが残留圧力に依存したシフトを示し、その最大値は524.4 cm-1であった。なお、~176 cm-1 のピークもシフトし、その程度から1.74 GPaの最大の残留応力が推定された。コース石包有物のリムに厚さ2 µm以下の石英が部分的に存在する場合もあったが、ラマンシフトの大きさと石英殻の厚さに相関はなかった。また藍晶石中のコース石は結晶の表面(研磨面)付近であっても高い残留応力を保持し、その観察事実は既存の報告と矛盾する。一連の観察事実は藍晶石の残留応力保持能力の高さを示すものである。藍晶石に包有されたコース石は、円形、擬六方晶、不定形の3つの形状に分類され、それらのうち擬六方晶と不定形の包有物は円形のものよりも高いラマンシフトを示す(図に擬六方晶のコース石包有物の光学顕微鏡写真を示した)。
 一般に、包有物はホストとなる鉱物に包有された後の塑性変形により球状またはホスト鉱物の負晶の形をとるが、擬六方晶コース石や不定形コース石は円形のコース石に比べて表面エネルギーの高い状態を保持している可能性がある。もし、その仮説が正しいなら、擬六方晶コース石と不定形コース石は藍晶石に包有された後の形状変化を経験していないことで高い残留応力を保持している公算が大きい。また、コース石包有物のでき方の違いとそれによる双晶の形態の違いが包有物の形状や包有後の形状変化のしやすさに影響を及ぼすことが示唆される。