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[SMP27-P01] 含水マグネシウムケイ酸塩A相におけるOH伸縮振動の相関場分裂
キーワード:高圧含水マグネシウムケイ酸塩、A相、相関場分裂、OH伸縮振動、振動カップリング
高圧含水マグネシウムケイ酸塩のphase A(Mg7Si2O8(OH)6)はRingwood and Major (1967)によりphase B, phase C(=superhydrous B)と共に発見された。これらの相においては、2種のOHが存在し、それらは共通の酸素と水素結合するという共通の水素結合局所構造を持っている。phase AについてはLiu et al. (1997)が高圧その場ラマン測定を行い、OH伸縮振動について圧力と共に2つのOHバンドが接近するが交差はせず、18 GPa以上で逆に離れていくことを報告している。彼らはこの振る舞いを相転移として解釈したが、このような振る舞いは圧力でチューニングされたフェルミ共鳴に見られる現象と酷似している。phase Aでフェルミ共鳴は生じないが、相関場分裂(correlation field splitting or Davydov splitting)により生じた可能性がある。本研究ではphase Aの振動計算を行い、相関場分裂の可能性を検討した。
振動計算にはQunatum Espressoのphコードを使った。実験的には相関場分裂の影響を調べるために同位体で希釈して振動カップリングを無効にすることが行われる。それを模倣するためにH席をDで置き換えた計算も行なった。使ったDの擬ポテンシャルはHと全く同じだが、質量を2倍としている。計算としてはDなし、H1またはH2または両方をDで置き換えた系についての4種を1 GPa毎に25 GPaまで行なった。
phase Aでは2つのOH伸縮バンドがラマンスペクトルに現れるが、振動計算からは実際はそれぞれA, E1, E2モードからなる。ラマン強度に関してはAモードの寄与が大きい。それらの振動モードの原子変位を見ると、常圧では低周波数側のバンドはOH1、高周波数側のバンドはOH2の水素の変位が大きく、それらのバンドをOH1とOH2に帰属する従来の報告と一致する。しかし13 GPaにおいては一変し、どちらのバンドもOH1, OH2の水素変位の寄与がほぼ同程度となった。これはOH間のカップリングにより、2つのバンドが混合していることを意味している。2つのバンドの違いはOH1とOH2の伸縮が同位相か逆位相かであり、振動数が同じにはならないのは相関場分裂が生じているためである。25 GPaでは常圧とは逆転して、低周波数側バンドはOH2の水素変位が主であり、高周波数側バンドはOH1の水素変位が主となった。つまりOH1とOH2が常圧と入れ替わっている。得られたOH伸縮振動数の圧力による変化をFigure(a)に示している。見てわかるように、Liu et al. (1997)の結果を定性的に再現することに成功した。一方、Dで部分的にHを置換した計算からはOH同士のカップリングを外したOHの振動数が得られる。こちらの振動数変化はFigure(b)に示しているが、2つのOHバンドは単調に変化し、13 GPaくらいで交差する。つまり本来は交差すべきであるが、振動数が近づくと相関場分裂により2つのバンドに分裂していることがFig. aとbを見比べると明らかである。同様なことはOD伸縮振動についても行うことができ、振動数は異なるが、全く同じ振る舞いが得られた。さらにこれらで得られた振動数の解析から振動のカップリングが圧力とともに増加することも分かった。これはOH同士が圧縮で接近するためである。
phase Cも似たOHの局所構造を持つが、2種のOHがphase Aのように大きく異なっていないために、最初から非常に似た振動数を持つ。そのために常圧において既に上で見たphase Aの13 GPaのような状態にあり、相関場分裂の強い影響を受けていることが振動計算から分かった。ラマン測定からは2つのOHバンドが常圧で60 cm-1ほど離れていることが観察されているが(Liu et al., 2002)、これ自体が相関場分裂により生じていることになる。2つのOHバンドは圧力によりゆっくり離れていくが、これもphase A同様に振動のカップリングが圧力により増加しているためであろう。phase Bについては計算してないが、構造の類似性と観察されているラマンバンドの類似性からphase Cと同様に振る舞うと予想される。
相関場分裂は従来見過ごされてきたが、実際には重要であり、振動分光法の解析では考慮する必要がある。相関場分裂が働いているかどうかは同位体で希釈することで判断できる。今回示したように振動計算でも同位体希釈を模倣することが可能である。
References:
Liu et al. (1997) J. Phys. Chem. Solids, 58, 2023-2030
Liu et al. (2002) Eur. J. Min., 14, 15-23
Ringwood & Major (1967) Earth Planet. Sci. Lett., 2, 130-133.
振動計算にはQunatum Espressoのphコードを使った。実験的には相関場分裂の影響を調べるために同位体で希釈して振動カップリングを無効にすることが行われる。それを模倣するためにH席をDで置き換えた計算も行なった。使ったDの擬ポテンシャルはHと全く同じだが、質量を2倍としている。計算としてはDなし、H1またはH2または両方をDで置き換えた系についての4種を1 GPa毎に25 GPaまで行なった。
phase Aでは2つのOH伸縮バンドがラマンスペクトルに現れるが、振動計算からは実際はそれぞれA, E1, E2モードからなる。ラマン強度に関してはAモードの寄与が大きい。それらの振動モードの原子変位を見ると、常圧では低周波数側のバンドはOH1、高周波数側のバンドはOH2の水素の変位が大きく、それらのバンドをOH1とOH2に帰属する従来の報告と一致する。しかし13 GPaにおいては一変し、どちらのバンドもOH1, OH2の水素変位の寄与がほぼ同程度となった。これはOH間のカップリングにより、2つのバンドが混合していることを意味している。2つのバンドの違いはOH1とOH2の伸縮が同位相か逆位相かであり、振動数が同じにはならないのは相関場分裂が生じているためである。25 GPaでは常圧とは逆転して、低周波数側バンドはOH2の水素変位が主であり、高周波数側バンドはOH1の水素変位が主となった。つまりOH1とOH2が常圧と入れ替わっている。得られたOH伸縮振動数の圧力による変化をFigure(a)に示している。見てわかるように、Liu et al. (1997)の結果を定性的に再現することに成功した。一方、Dで部分的にHを置換した計算からはOH同士のカップリングを外したOHの振動数が得られる。こちらの振動数変化はFigure(b)に示しているが、2つのOHバンドは単調に変化し、13 GPaくらいで交差する。つまり本来は交差すべきであるが、振動数が近づくと相関場分裂により2つのバンドに分裂していることがFig. aとbを見比べると明らかである。同様なことはOD伸縮振動についても行うことができ、振動数は異なるが、全く同じ振る舞いが得られた。さらにこれらで得られた振動数の解析から振動のカップリングが圧力とともに増加することも分かった。これはOH同士が圧縮で接近するためである。
phase Cも似たOHの局所構造を持つが、2種のOHがphase Aのように大きく異なっていないために、最初から非常に似た振動数を持つ。そのために常圧において既に上で見たphase Aの13 GPaのような状態にあり、相関場分裂の強い影響を受けていることが振動計算から分かった。ラマン測定からは2つのOHバンドが常圧で60 cm-1ほど離れていることが観察されているが(Liu et al., 2002)、これ自体が相関場分裂により生じていることになる。2つのOHバンドは圧力によりゆっくり離れていくが、これもphase A同様に振動のカップリングが圧力により増加しているためであろう。phase Bについては計算してないが、構造の類似性と観察されているラマンバンドの類似性からphase Cと同様に振る舞うと予想される。
相関場分裂は従来見過ごされてきたが、実際には重要であり、振動分光法の解析では考慮する必要がある。相関場分裂が働いているかどうかは同位体で希釈することで判断できる。今回示したように振動計算でも同位体希釈を模倣することが可能である。
References:
Liu et al. (1997) J. Phys. Chem. Solids, 58, 2023-2030
Liu et al. (2002) Eur. J. Min., 14, 15-23
Ringwood & Major (1967) Earth Planet. Sci. Lett., 2, 130-133.