日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS06] 地震発生の物理・断層のレオロジー

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:澤井 みち代(千葉大学)、金木 俊也(産業技術総合研究所)、奥脇 亮(筑波大学)、浦田 優美(産業技術総合研究所)、座長:金木 俊也(京都大学防災研究所)、浦田 優美(産業技術総合研究所)


11:00 〜 11:15

[SSS06-07] 1929年ニュージーランドBuller地震(Mw 7.3)のその4つの大規模余震(Mw > 6)に対する影響

*田上 綾香1松野 弥愛1岡田 知己1Savage Martha2Townend John2松本 聡3河村 優太3飯尾 能久4佐藤 将1平原 聡1、木村 洲徳1、Bannister Stephen5、Ristau John5、Sibson Richard6 (1.東北大学大学院理学研究科附属地震・噴火予知研究観測センター、2.Victoria University of Wellington, New Zealand.、3.九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター、4.京都大学防災研究所、5.GNS Science, New Zealand.、6.University of Otago, New Zealand.)

キーワード:反転テクトニクス断層、応力場、ニュージーランド、スリップテンデンシー、内陸型地震、断層

目的
ニュージーランドでは、北島から南島北部にかけてオーストラリアプレートに太平洋プレートが沈み込み、南島北部ではおよそESE-WNW方向の圧縮応力場が分布する(Townend et al., 2012)。また、アルパイン断層より北西側の地域では過去の引張応力場により発達した古い正断層が分布し、この弱面を利用し逆断層として運動する反転テクトニクスが確認されている(Ghisetti et al., 2014)。
1929年Buller地震(Mw 7.3; B1)は反転テクトニクス断層であるWhite Creek断層で発生したことが確認されている(e.g., Doser et al., 1999)。Buller地震は6月16日に発生し、その後7月15日までに4つのMw 6を超える大規模な余震が発生している。これらの余震(B2~B5)は地表面まで破壊が到達せず、どのような断層面で生じたか詳細に分かっていない。
これまでに、我々はSlip Tendency法を用いて、Buller地震とその後の一連の活動の応力場に対する断層面のすべりやすさを評価した(田上・他, JpGU Meeting 2022)。しかし、断層面の選択に任意性が残った。
そこで、今回はB1とB2~B5について、正しい断層面が選択できていれば、応力場から推定されるすべり角と実際のすべり角は一致するとの仮説に基づき、実際のすべり角(rake)と応力場から推定されるすべり角(最大剪断方向)の比較を用いて、断層面の選択を試みた。
Coulomb Stress Change (CSC)、Slip Tendencyも含め、これまでに得られた結果や断層分布図と比較し、Buller地震とその後の一連の地震の活動面およびB1の影響の可能性について論じる。

手法
応力場の推定には臨時観測データ(Okada et al., 2019)のP波初動極性から決定したメカニズム解と定常観測(GeoNet)データを用いたGNS Scienceのモーメントテンソル解を使用し、応力テンソルインバージョン法(Michael, 1984; Michael, 1987)を用いて推定した。与えられた応力場で想定されるrakeの算出にはNeves et al. (2009)のSynthetic Slipのプログラムを用いた。また、Coulomb program (Toda et al., 2005; Lin and Stein, 2004)を用いてCSCの検討をした。各地震の断層モデルにはDoser et al. (1999)で推定されたメカニズム解の節面を用いた。

結果
rake差
断層モデルのrake(λobs)と応力場により計算されたrake(λcal)の差をrake差(λdif = λcal- λobs)と定義し、算出した。
B2のλdifはどちらの面も10より小さかった。B3では東に傾斜する面、B4・ B5では西に傾斜する面のλdif が10より小さい値を示した。

Coulomb Stress Change
Source faultをBuller本震(B1)の断層面、receiver faultをB2~B5の節面とし、B2~B5が発生した位置が正の値になるか(B1の影響で破壊が促進された可能性があるか)を検討した。B1の断層面についてはB1のメカニズム解の節面、White Creek断層の傾斜方向、Buller地震時のすべり量、スケーリング則(Wells & Coppersmith, 1994)を参考にして決定した。
B2ではどちらの面も正の値を示した。B3は東に傾斜する面が負の値, 西に傾斜する面がほぼ0であった。B4は西に傾斜する面では正の値であり、B5ではどちらの面も正の値であった。

Discussion
rake差、CSC、Slip Tendencyの3つの評価基準(Table 1)と断層分布図を比較し、活動面の考察を行う。
B2
断層分布図では西に傾斜する断層と東に傾斜する断層の間に存在する。3つの評価基準からも明確に区別がつかない。どちらの面もCSCは正の値を示したため、いずれにせよB1の影響で生じた可能性が考えられる。
B3
ST値とその誤差範囲の大きさやrake差から東に傾斜する面が活動した可能性が考えられる。しかし、どちらの面もCSCは負の値であり、B1の影響が考えられにくい。
B4
rake差とCSCの結果から、西に傾斜する面が活動した可能性が考えられる。ST値は小さいが、B1の影響ですべることができた可能性がある。
B5
rake差から西に傾斜する面が活動した可能性が考えられる。また、B5は西に傾斜する面の付近で発生している。CSCでは正の値であり、B1の影響で滑りにくい面で活動した可能性が考えられる。