13:45 〜 15:15
[SSS06-P04] スメクタイトのイライト化が及ぼす南海トラフ浅部での断層挙動への影響
キーワード:浅部スロー地震、地震発生帯、南海トラフ、摩擦実験、スメクタイトのイライト化、堆積物
スメクタイトのイライト化は沈み込み帯における主要な続成プロセスの一つであり、地震発生帯の上限を規定している可能性が指摘されてきた(e.g., Oleskevich et al., 1999)。しかし、これまでのスメクタイトとイライトの混合物(S-I混合物)の摩擦実験では、イライト化の進行に伴う摩擦の不安定化((a−b)が負になること)は報告されていない(Saffer & Marone, 2003; Saffer et al., 2012; Tembe et al., 2010)。そのため、沈み込み帯においてスメクタイトのイライト化が地震発生プロセスに及ぼす影響は依然として不明瞭であり、また、摩擦特性に大きく影響を及ぼすような高温条件では未だ評価されていない。
そこで本研究では南海トラフの熊野沖を対象とし、スメクタイトのイライト化による摩擦特性の変化を摩擦実験により調べた。沈み込み帯におけるS-I混合物中のイライト量の空間分布は、スメクタイトのイライト化の反応速度論(Pytte & Reynolds, 1989)、付加体の形成モデル(Screaton et al., 1990)、温度構造(Sugihara et al., 2014)を用いてモデル化できる(Hüpers et al., 2019)。沈み込む堆積物の最下部をプレート境界とみなし、S-I混合物中のイライト量の空間分布モデルから、プレート境界においてS-I混合物中のイライトの量が30-50-70-90-95%である地点を選択し、S-I混合物(60%)、石英(20%)、曹長石(10%)、正長石(10%)で構成される模擬断層ガウジを調製した。軸に対し30度傾いた剪断面を持つ2つの多孔質アルミナスペーサーでガウジを挟み、各地点の原位置静水圧および原位置温度条件下で、軸方向の荷重速度 0.01-100 μm/sでせん断変形を与えた。摩擦実験は産業技術総合研究所 地質調査総合センターのガス圧式高温高圧三軸変形装置で行った。
摩擦係数は、イライト含有量の増加に伴って増加する傾向を示した。摩擦係数の増加は各鉱物の摩擦係数のReuss平均でよく説明された。(a−b)は、150℃(S-I混合物中のイライトの量=90%)までは常に正であったが、171℃かつ0.1-10 μm/sの条件(S-I混合物中のイライトの量=95%)では負になった。
南海トラフにおける浅部スロー地震(VLFEやSSE)は、海溝から10-30 km陸側の、温度が150℃以下(S-I混合物中のイライトの量 < 90%)である領域に位置している。この領域でイライト化はほぼ完了し、また全ての速度条件で(a−b)は正であることから、本研究結果はスメクタイトのイライト化が(a−b)に影響しないことを示す。一方で、171℃(海溝から約40 km)の地点における(a−b)の正から負へ変化するが、これはイライトの摩擦特性の温度依存性に関連していると考えられる(den Hartog et al., 2012)。2016年の三重県南東沖での地震の震源は海溝から約40-50 kmに位置することから、地震発生帯の上限は、スメクタイトのイライト化ではなく、イライトの摩擦特性の温度依存性に起因する(a−b)の変化が規定している可能性がある。
そこで本研究では南海トラフの熊野沖を対象とし、スメクタイトのイライト化による摩擦特性の変化を摩擦実験により調べた。沈み込み帯におけるS-I混合物中のイライト量の空間分布は、スメクタイトのイライト化の反応速度論(Pytte & Reynolds, 1989)、付加体の形成モデル(Screaton et al., 1990)、温度構造(Sugihara et al., 2014)を用いてモデル化できる(Hüpers et al., 2019)。沈み込む堆積物の最下部をプレート境界とみなし、S-I混合物中のイライト量の空間分布モデルから、プレート境界においてS-I混合物中のイライトの量が30-50-70-90-95%である地点を選択し、S-I混合物(60%)、石英(20%)、曹長石(10%)、正長石(10%)で構成される模擬断層ガウジを調製した。軸に対し30度傾いた剪断面を持つ2つの多孔質アルミナスペーサーでガウジを挟み、各地点の原位置静水圧および原位置温度条件下で、軸方向の荷重速度 0.01-100 μm/sでせん断変形を与えた。摩擦実験は産業技術総合研究所 地質調査総合センターのガス圧式高温高圧三軸変形装置で行った。
摩擦係数は、イライト含有量の増加に伴って増加する傾向を示した。摩擦係数の増加は各鉱物の摩擦係数のReuss平均でよく説明された。(a−b)は、150℃(S-I混合物中のイライトの量=90%)までは常に正であったが、171℃かつ0.1-10 μm/sの条件(S-I混合物中のイライトの量=95%)では負になった。
南海トラフにおける浅部スロー地震(VLFEやSSE)は、海溝から10-30 km陸側の、温度が150℃以下(S-I混合物中のイライトの量 < 90%)である領域に位置している。この領域でイライト化はほぼ完了し、また全ての速度条件で(a−b)は正であることから、本研究結果はスメクタイトのイライト化が(a−b)に影響しないことを示す。一方で、171℃(海溝から約40 km)の地点における(a−b)の正から負へ変化するが、これはイライトの摩擦特性の温度依存性に関連していると考えられる(den Hartog et al., 2012)。2016年の三重県南東沖での地震の震源は海溝から約40-50 kmに位置することから、地震発生帯の上限は、スメクタイトのイライト化ではなく、イライトの摩擦特性の温度依存性に起因する(a−b)の変化が規定している可能性がある。