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[SSS07-11] ランダム弾性媒質を伝播するベクトル波:スペクトル分割を用いたモンテカルロ法の提案(理論)
キーワード:地震波動、実体波、ランダム媒質、散乱、速度構造、モンテカルロ法
固体地球のランダムな不均質弾性構造の解明には、小地震による地震波の主要動のエンベロープの拡大とコーダ波の励起の測定が役立つ。 その解析には輻射伝達理論(RTT)が有効であるが、この理論ではボルン近似による散乱係数が重要な構成要素である。本講演では、フォンカルマン型のランダムな弾性係数のゆらぎを考え、その中を伝播する波束の中心波数がコーナー波数より高い場合を考察する。波束の中心波数が大きくなり、さらにゆらぎの相関長を伝わる波の位相ずれが大きくなると、Born近似理論は摂動法の適用範囲を超えるような極めて大きな前方散乱を引き起こす。このような場合、アイコナール近似が適用できて波束の拡大を導くことができるものの、コーダ波の励起を説明することは難しい。我々は、この困難を克服する方法として、スペクトル分割を用いたモンテカルロ・シミュレーション法を提案する。波束の中心波数を基準としてゆらぎのスペクトル密度を高波数成分と低波数成分に分割し、それぞれにボルン近似とアイコナール近似を適用して、ランダム弾性媒質による広角散乱と狭角の波線屈折を統計的に求める。P波とS波速度及び密度のゆらぎが互いに線形相関を持つと仮定すると、散乱過程を経てもベクトル波の線形偏波は維持される。2種類の散乱過程を取り入れたモンテカルロ・シミュレーションにより、モーメントテンソル型震源によって励起された3成分RMS速度振幅波形を合成する。並行して、ランダム不均質弾性構造における波束の伝播を差分計算で求め、これを基準として提案するモンテカルロ・シミュレーションの有効性を確認する。本講演では、その理論構築を示し、続く講演で差分法による評価を紹介する。