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[SSS09-P09] 2007年新潟県中越沖地震 (MW 6.6) の広帯域震源モデルの再検討
キーワード:アスペリティ(大すべり域)、強震動生成域、震源インバージョン、3次元グリーン関数、経験的グリーン関数、震源スケーリング則
2007年7月16日に発生した新潟県中越沖地震 (MW 6.6) では,震度6強の強い地震動が観測された.震源域に近い柏崎刈羽原子力発電所などにおいて,3つのパルスを伴う特徴的な波形が記録されている.これらの波形パルスを作り出したと考えられる3つのアスペリティに関して,震源インバージョン (e.g., Aoi et al., 2008; Miyake et al., 2010) や経験的グリーン関数法(例えば,川辺・釜江,2008;山本・竹中,2009)による震源モデルが数多く提案されてきた.しかしながら,宮腰・他 (2008) は各震源モデルによるアスペリティや強震動生成域の位置などのばらつきが大きいことを指摘している.本研究では,強震波形を用いた震源インバージョン解析 (0.05-0.5 Hz) および経験的グリーン関数法による地震動シミュレーション (0.2-10 Hz) を同一な震源断層面上で実施し,この地震の広帯域震源特性について再検討する.
まず,気象庁一元化処理の検測値を用いて,Hirata and Matsu’ura (1987) およびWaldhauser and Ellsworth (2000) のプログラムで本震・余震の震源を再決定し,再決定された震源位置を参考に長さ28 km・幅22 kmの南東傾斜落ちの断層面を設定した.マルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン法 (Hartzell and Heaton, 1983) を用いた震源インバージョンでは,新潟地域の厚い3次元堆積盆地による地震波伝播への影響を考慮した.震源域を含む新潟地域では,主に4種類(JNES, 2008;関口・他,2009;藤原・他,2012,Koketsu et al., 2012)の3次元速度構造モデルが提案されている.余震の波形時刻歴に対する3次元地震動シミュレーション (Graves, 1996; Pitarka, 1999) を用いて,これらのモデルの波形再現度を検証し,再現度がもっとも良かったKoketsu et al. (2012) のモデルの浅部堆積層の層厚をさらに試行錯誤的に調整した.調整された3次元速度構造モデルで計算されたグリーン関数を震源インバージョンに使用した.また,経験的グリーン関数法 (Irikura, 1986) を用いた地震動シミュレーションでは,伝播経路特性を適切に評価するため,本震の各強震動生成域にできるだけ近い場所で発生した余震を要素地震として使用した.
解放された地震モーメントは震源インバージョンによって7.8×1018 Nm (MW 6.53) と推定された.3ステージ震源スケーリング則の第2ステージ(Irikura and Miyake, 2011;宮腰・他,2018)に比べて,この地震のトリミング操作された断層面積はやや大きく,平均すべり量はほぼ整合的である.すべり分布に対してSomerville et al. (1999) の規範を適用したところ,観測地震動に大きく寄与する3つのアスペリティ(大すべり域)が抽出され,それらの面積合計は断層全体の17%を占める.もっとも南側に抽出されたアスペリティは他の2つのアスペリティに比べて,断層面のより浅部に位置し,平均すべり量も相対的に大きい.経験的グリーン関数法によって推定されたもっとも南側の強震動生成域も同じく断層浅部に位置しており,3つの強震動生成域ともに位置が震源インバージョンによるアスペリティと良く一致している結果が得られた.また,3つの強震動生成域の応力降下量と面積から計算された短周期レベルは1.6×1019 Nm/s2で,壇・他 (2001) のスケーリング則の1.4-1.5倍程度である.
謝辞:本研究は,原子力規制庁の委託業務「令和4年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震の特性化震源モデルに係る検討)事業」による成果の一部である.強震波形データは東京電力および防災科学技術研究所から提供されたものであり,ここに記して感謝する.
まず,気象庁一元化処理の検測値を用いて,Hirata and Matsu’ura (1987) およびWaldhauser and Ellsworth (2000) のプログラムで本震・余震の震源を再決定し,再決定された震源位置を参考に長さ28 km・幅22 kmの南東傾斜落ちの断層面を設定した.マルチタイムウィンドウ線形波形インバージョン法 (Hartzell and Heaton, 1983) を用いた震源インバージョンでは,新潟地域の厚い3次元堆積盆地による地震波伝播への影響を考慮した.震源域を含む新潟地域では,主に4種類(JNES, 2008;関口・他,2009;藤原・他,2012,Koketsu et al., 2012)の3次元速度構造モデルが提案されている.余震の波形時刻歴に対する3次元地震動シミュレーション (Graves, 1996; Pitarka, 1999) を用いて,これらのモデルの波形再現度を検証し,再現度がもっとも良かったKoketsu et al. (2012) のモデルの浅部堆積層の層厚をさらに試行錯誤的に調整した.調整された3次元速度構造モデルで計算されたグリーン関数を震源インバージョンに使用した.また,経験的グリーン関数法 (Irikura, 1986) を用いた地震動シミュレーションでは,伝播経路特性を適切に評価するため,本震の各強震動生成域にできるだけ近い場所で発生した余震を要素地震として使用した.
解放された地震モーメントは震源インバージョンによって7.8×1018 Nm (MW 6.53) と推定された.3ステージ震源スケーリング則の第2ステージ(Irikura and Miyake, 2011;宮腰・他,2018)に比べて,この地震のトリミング操作された断層面積はやや大きく,平均すべり量はほぼ整合的である.すべり分布に対してSomerville et al. (1999) の規範を適用したところ,観測地震動に大きく寄与する3つのアスペリティ(大すべり域)が抽出され,それらの面積合計は断層全体の17%を占める.もっとも南側に抽出されたアスペリティは他の2つのアスペリティに比べて,断層面のより浅部に位置し,平均すべり量も相対的に大きい.経験的グリーン関数法によって推定されたもっとも南側の強震動生成域も同じく断層浅部に位置しており,3つの強震動生成域ともに位置が震源インバージョンによるアスペリティと良く一致している結果が得られた.また,3つの強震動生成域の応力降下量と面積から計算された短周期レベルは1.6×1019 Nm/s2で,壇・他 (2001) のスケーリング則の1.4-1.5倍程度である.
謝辞:本研究は,原子力規制庁の委託業務「令和4年度原子力施設等防災対策等委託費(内陸型地震の特性化震源モデルに係る検討)事業」による成果の一部である.強震波形データは東京電力および防災科学技術研究所から提供されたものであり,ここに記して感謝する.