日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS10] 地震活動とその物理

2023年5月22日(月) 10:45 〜 12:00 302 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:楠城 一嘉(静岡県立大学)、直井 誠(京都大学)、座長:勝俣 啓(北海道大学大学院理学研究院附属地震火山研究観測センター)、福田 孔達(東京大学地震研究所)

11:30 〜 11:45

[SSS10-08] 離散セルオートマトンモデルによる現実的不均質構造を代替する離散サイズの定量的評価

*福田 孔達1望月 公廣1 (1.東京大学地震研究所 )

キーワード:GR則、スケーリング則、セルオートマトンモデル

GR則の形成メカニズムの解明に向けた理論研究は、連続体理論に基づくアプローチと、統計物理学に基づいた離散モデルによるアプローチの2つに分類することができる。前者は、観測により得られる地質学的特徴と実験室で得られる摩擦則をもとに、連続体力学をベースとした数値計算を行うものである。このような連続体理論に基づいたアプローチでは、現実的な空間不均質構造をどのように定式化していくかという課題とともに、何桁にも及ぶ時空間スケールの計算を行うための、計算コストの問題が存在する。一方、後者の統計物理学的アプローチである離散モデル研究では、地質学的な不均質を含む現実的な不均質構造を離散性により代替するという立場を取ることで(Ben-Zion and Rice, 1993:1995)、上述した問題を回避し、比較的容易にGR則の再現が行われる(Carlson and Langer,1989:Ben-Zion and Rice, 1993:1995:Olami et al., 1992)。しかし、現実的な不均質構造を離散性により代替可能とする根拠として、連続体理論の観点から演繹的な説明が行われている訳ではないという問題が存在する。従来の離散モデル研究において、仮定されている本質的な離散サイズに対する定量的な議論さえ行うことができていないのが現状である。

そこで、本研究は、GR則に加えて、震源特徴を再現する新たな離散モデルを作成する事で、この問題に取り組んだ。従来の離散モデルではあまり扱われてこなかった震源特徴を、再現する新たなモデル作成を行う事で、従来の離散モデル研究以上に現実との対応を豊富に議論することが可能である。

GR則を再現するシンプルなセルオートマトンモデルであるOlami-Feder-Christensenモデル(OFCモデル)に対し、有限な破壊伝播速度を与える拡張を行う事で、震源過程を記述する離散モデルを作成することができる(Fukuda et al., 2022)。このモデルに対し、有限な強度回復効果を記述する拡張を行うことで、GR則を再現しつつ、自己相似的なクラック破壊描像を再現する離散モデルを作成することができる(以下、Dynamic OFCモデル)。本研究では、このDynamic OFCモデル上でGR則と自己相似的クラック破壊描像の両方を再現するパラメータ条件を定量的に明らかにした。また、これらの条件式から、GR則が再現され、クラック破壊描像を実現する為に必要な離散サイズの範囲を定量的に求めることができた。

現状の離散モデルでは、イベントの待ち時間分布や余震分布(大森宇津則)に関する観測再現は実現していない。したがって、推定した離散サイズ範囲にはまだまだ不確定性が含まれている。しかし、将来的に、これらの観測再現についても実現する離散モデルを作成することができれば、現実的な不均質構造を代替する離散サイズに関する推定を、より定量的に精度良く行うことが可能となるかもしれない。この実現は、GR則を形成する離散性と連続体理論の論理ギャップを埋めるために重要な指標を与える可能性がある。