10:45 〜 12:15
[SSS12-P02] 海底間音響測距観測による岩手県沖浅部プレート境界のすべり挙動について
キーワード:海底間音響測距、スロースリップイベント、岩手県沖、プレート境界浅部
日本海溝は南海トラフと比べ陸から離れていることもあり、スロースリップイベント(SSE)を陸上観測点からの測地学的手法で直接検出することが困難である。しかし、東北地方太平洋沖地震の後、陸上での高感度観測と海底ケーブル式を用いたS-netによる海域の地震観測の格段の増加が相まって、宮城県沖の大すべり域を囲むように、低周波微動や超低周波地震が多発していることが明瞭にわかってきた。これらの活動のタイミングは近傍のやや大きな地震の発生と関連していることも指摘されている。また、繰り返し地震によるすべりを積算することでプレート境界の非地震的なすべりの量を定量評価する手法により、SSEの発生も示唆されるようになった。一方で、海域での測地観測であるGNSS-Aでは、観測頻度が極めて高い南海トラフの特定の観測点ではSSEの検出に成功した例があるものの、観測頻度が低い日本海溝ではSSEの時間発展が確実性をもって検出された実績はない。しかし、高精度な連続データが得られる海底間音響測距観測を適用すれば、SSE等の時間変化する現象を検出できる可能性がある。そこで我々は、繰り返し地震により、定期的なSSEの発生が示唆されている岩手県沖のプレート境界浅部で海底間音響測距観測を実施したので、その成果を報告する。
海底間音響測距は、海底に設置した複数の機器間で音響通信を行い、その音波の往復走時から機器間の相対距離変化をモニターするものである。KS19-12航海で2019年7月に4台の装置を海溝軸をまたいで設置し観測を開始した。さらに気象庁の凌風丸で同年11月に深層係留型の装置も設置し、翌2020年6月に回収した。転倒したと見られる1台をKS20-16航海で2020年10月に回収し、残りの3台は凌風丸で2021年4月に回収した。本研究では岩手県沖の海溝軸をまたぐ2本の基線および基準としての太平洋プレート上の1本の基線の、2019年7月から約2年間の基線長変化を解析した。同時に計測した海水温、圧力、機器の姿勢角を用いて、走時を距離に換算する際の音速、および機器の傾きの変化による見かけの距離変化を補正し、最終的な3つの基線長の時系列を得た。これらに対し線形回帰した結果、3基線とも0.5cm/yrの短縮となり、プレート運動モデルによる収束速度である~8cm/yrとくらべ比べ非常に小さな変位速度となった。一方で基線長変化には両振幅で2cm程度の、1年を超えるような長い時定数の変化も見られた。この時定数が長い変化は基準とした太平洋プレート上の基線にも見られ、しかも3基線とも似た動きをしていたことから、音速補正に起因する共通の誤差の可能性が高いと判断される。2年間の観測期間への2cm振幅のゆらぎの重畳から今回の基線長変化速度の精度は1cm/yrと見積もられ、結論として、上記の観測期間中に計測精度を超えるような基線の短縮・伸張は見られなかった。
岩手県沖のプレート境界浅部では、2015年に平均すべり量27cmに達する大きなSSEが発生したと繰り返し地震の活動から指摘されている。今回の観測期間中にも繰り返し地震の活動の活発化が見られたが、2015年のものと比べればかなり小規模なものであった。本研究の基線長変化からは、SSEが発生していたとしても規模が小さすぎたか、あるいはすべりが海溝軸まで達してなかったものと解釈される。同海域のSSEは約3年程度の周期で発生するとされており、もし今後2015年規模のものが発生したタイミングで海底間音響測距観測を実施する機会があれば、測地学的にSSEの規模や、すべり上端の挙動に関する情報が得られると期待される。
本研究は科研費(19H05596)の支援を受けている。
海底間音響測距は、海底に設置した複数の機器間で音響通信を行い、その音波の往復走時から機器間の相対距離変化をモニターするものである。KS19-12航海で2019年7月に4台の装置を海溝軸をまたいで設置し観測を開始した。さらに気象庁の凌風丸で同年11月に深層係留型の装置も設置し、翌2020年6月に回収した。転倒したと見られる1台をKS20-16航海で2020年10月に回収し、残りの3台は凌風丸で2021年4月に回収した。本研究では岩手県沖の海溝軸をまたぐ2本の基線および基準としての太平洋プレート上の1本の基線の、2019年7月から約2年間の基線長変化を解析した。同時に計測した海水温、圧力、機器の姿勢角を用いて、走時を距離に換算する際の音速、および機器の傾きの変化による見かけの距離変化を補正し、最終的な3つの基線長の時系列を得た。これらに対し線形回帰した結果、3基線とも0.5cm/yrの短縮となり、プレート運動モデルによる収束速度である~8cm/yrとくらべ比べ非常に小さな変位速度となった。一方で基線長変化には両振幅で2cm程度の、1年を超えるような長い時定数の変化も見られた。この時定数が長い変化は基準とした太平洋プレート上の基線にも見られ、しかも3基線とも似た動きをしていたことから、音速補正に起因する共通の誤差の可能性が高いと判断される。2年間の観測期間への2cm振幅のゆらぎの重畳から今回の基線長変化速度の精度は1cm/yrと見積もられ、結論として、上記の観測期間中に計測精度を超えるような基線の短縮・伸張は見られなかった。
岩手県沖のプレート境界浅部では、2015年に平均すべり量27cmに達する大きなSSEが発生したと繰り返し地震の活動から指摘されている。今回の観測期間中にも繰り返し地震の活動の活発化が見られたが、2015年のものと比べればかなり小規模なものであった。本研究の基線長変化からは、SSEが発生していたとしても規模が小さすぎたか、あるいはすべりが海溝軸まで達してなかったものと解釈される。同海域のSSEは約3年程度の周期で発生するとされており、もし今後2015年規模のものが発生したタイミングで海底間音響測距観測を実施する機会があれば、測地学的にSSEの規模や、すべり上端の挙動に関する情報が得られると期待される。
本研究は科研費(19H05596)の支援を受けている。