14:00 〜 14:15
[SSS13-07] 相模湾の三浦海丘西側斜面における断層変位と湧水活動
★招待講演
キーワード:活断層、関東地震、冷湧水
相模トラフでは巨大地震が繰り返し発生し,1703年元禄地震,1923年大正地震など関東南部に甚大な被害をもたらしている.大正関東地震の震源域である相模湾の東側は北西-南東方向に海丘が並び,その麓を繋げた相模構造線(木村, 1973, 科学)に活断層が推定されている(大河内, 1990, 地学雑誌).反射法地震探査によると深部のプレート境界断層(佐藤ほか,2010,科学)と,そこから派生した断層の比較的浅部の構造が捉えられている(Yamashita et al.,2013, JAMSTEC-R; No et al., 2014,EPS).しかし,最近の断層活動を議論するに足る,海底ごく浅部の構造と試料にもとづく年代データは得られていない.海底浅部構造は一般に高周波を用いた船舶のサブボトムプロファイラー(以下SBP)で探査されるが,複雑な地形の所では音波が散乱して構造を捉えることが困難である.そこで無人探査機NSSに音源と受信機を搭載し,深海曳航のSBP探査をKH-10-3次航海で行い,三浦海丘の西側斜面基部で海底面に達する断層を発見した(Misawa et al., 2020, GeoMarine Letters).また,KH-16-5次航海ではSBPで断層位置を特定し断層上盤の斜面においてピストンコア試料の採取に成功した.同試料には泥岩の細礫からなる粗粒層がシルト層中に6層認められる.その最上位層は貝殻片に富み,合弁のシロウリガイの貝殻を含むことから断層沿いのメタン湧水に伴う生物コロニーがかつて存在したことを示す.また,KH-19-5次航海では無人探査機NSSの海底ビデオ観察で,斜面基部に沿ったシロウリガイコロニーの分布の確認に加えて,シンカイヒバリガイの生息を発見した.ピストンコア試料に見られた貝殻を含む層(以下,貝殻層)はこのような斜面基部で堆積し,断層活動により現在は上盤斜面に位置するものと解釈できる.さらに,貝殻層の下位には現在の急斜面域では堆積しにくい細粒タービダイトの薄層が複数見られ,断層活動により隆起する以前に堆積した地層とみられる.同様の細粒タービダイトは断層の下盤側の緩斜面で採取したピストンコア試料にも多数認められるが,対比できる年代の深度までの試料は得られていない.そこで,貝殻層の下位の細粒タービダイトと同じ年代(約1.65万年前)の地層の深度を浮遊性有孔虫の放射性炭素年代から外挿して求めたところ,両者は断層を境に垂直方向で約15メートル変位していることが推定できた.貝殻層の上下の地層の年代(約1.1万年前と約1.5万年前)をもとに,貝殻層が堆積が終わって以降現在までに変位が累積したと仮定すると断層の活動度はA級の可能性がある.