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[SSS13-P02] 最終間氷期海成粘土層を基準面とする海陸境界域の活構造評価-伊勢湾周辺の事例-
キーワード:変位基準、活構造、最終間氷期、海成粘土、伊勢湾、熱田層
1. はじめに
産業技術総合研究所では2008年度以来、海陸境界域の地質体と活構造の連続性と活断層の活動性評価に関する基礎研究を行ってきた。このうち伊勢湾周辺の調査(沿岸域の地質・活断層調査)によって、この2つの問題解決について一定の知見が得られたので報告する。
2. 伊勢湾周辺の最終間氷期の堆積物の特徴
調査対象の伊勢湾周辺には、地殻変動に伴い沈降傾向しつつある内湾と隆起傾向をもつ段丘、および湾に流入する土砂供給量の大きな河川(木曽三川など)、が発達する。このような地質条件を反映して、調査地域には広範囲に最終間氷期の河口段丘と堆積物(熱田層とその相当層)が分布する。これらは、海成粘土層(熱田層下部)とそれを整合的に覆う三角州成の砂質層(熱田層上部)からなり、両者の境界層準(海成粘土層上面)は広範囲に追跡できる。濃尾平野地下から津市沖海底にかけての熱田層上部層の最下部には、約10万年前のMIS5cに降下した(町田・新井、2003)On-Pm-1が含まれる。このテフラと層準の関係から内陸~木曽三川河口付近では地盤調査ボーリングにより層準を確定することが可能である。
3. 熱田層下部層上面を基準とする活構造の評価
熱田層下部層上面は、内湾底に堆積したプロデルタの海成粘土層と、それを大きな堆積間隙なく覆ったデルタフロントの砂質層の境界面と見なされることから、初生的には一連でほぼ平坦な海底面をなしていたと考えられる。伊勢湾における現在の最大水深は40m、デルタ前面の水深は概ね5~25m)であり、少なくとも濃尾平野から津市沖までその直上にOn-Pm-1が産出することから、初生的に約20m(最大40m)の標高差と、最大2.5万年程度の時間幅をもって形成されたと推定される。当地域は建設事業に伴う地盤調査ボーリングデータが集積されているという条件もあって、海域の音波探査と陸域のボーリングデータの整理によって、この面を基準として、活構造の変位速度や連続性を議論することができる。
この面の標高分布から、①白子-野間断層の西端はほぼ伊勢湾の西端と一致していること(海域の音探で捉えられる白子-野間断層は陸上まで延長しないこと)、②四日市港断層は陸域の阿倉川背斜に連続し、その西端は桑名断層に接していること、③伊勢湾断層の海成泥層上面形成以降の変位量は70m(平均変位速度は0.5~0.7m/千年)に達し、これまで考えられていたよりかなり大きいこと、などが明らかになった。
4. 他地域への適用性と今後の課題
最終間氷期前期最盛期の海面高度は現海水面+5m程度に達すると考えられており(町田洋ほか編、2003)、日本各地で河口成の中位段丘下で海成粘土層上面が確認されている。このため、特に土砂供給量の多いい河川が流入する内湾の周辺では現在の海陸境界を越えて海成粘土層上面を連続的に追跡することができ、その高度分布から活構造の連続性や変位速度を評価できる可能性が高い。また、貝形虫などの底棲生物化石を指標として海成粘土層上面形成時の古水深を推定することによって、より正確に地殻変動量を求めることが可能となると考えられる。今後、古水深の推定に加え(クリプト)テフラや光ルミネッセンス年代などによる時間面を正確に把握することを通じて、堆積速度の速い内湾周辺の活構造の連続性と活動性が把握されることを期待する。
文献
・町田洋・新井房雄(2003)新編火山灰アトラス。東大出版会。
・町田洋ほか編著(2003)第四紀学。朝倉書店。
産業技術総合研究所では2008年度以来、海陸境界域の地質体と活構造の連続性と活断層の活動性評価に関する基礎研究を行ってきた。このうち伊勢湾周辺の調査(沿岸域の地質・活断層調査)によって、この2つの問題解決について一定の知見が得られたので報告する。
2. 伊勢湾周辺の最終間氷期の堆積物の特徴
調査対象の伊勢湾周辺には、地殻変動に伴い沈降傾向しつつある内湾と隆起傾向をもつ段丘、および湾に流入する土砂供給量の大きな河川(木曽三川など)、が発達する。このような地質条件を反映して、調査地域には広範囲に最終間氷期の河口段丘と堆積物(熱田層とその相当層)が分布する。これらは、海成粘土層(熱田層下部)とそれを整合的に覆う三角州成の砂質層(熱田層上部)からなり、両者の境界層準(海成粘土層上面)は広範囲に追跡できる。濃尾平野地下から津市沖海底にかけての熱田層上部層の最下部には、約10万年前のMIS5cに降下した(町田・新井、2003)On-Pm-1が含まれる。このテフラと層準の関係から内陸~木曽三川河口付近では地盤調査ボーリングにより層準を確定することが可能である。
3. 熱田層下部層上面を基準とする活構造の評価
熱田層下部層上面は、内湾底に堆積したプロデルタの海成粘土層と、それを大きな堆積間隙なく覆ったデルタフロントの砂質層の境界面と見なされることから、初生的には一連でほぼ平坦な海底面をなしていたと考えられる。伊勢湾における現在の最大水深は40m、デルタ前面の水深は概ね5~25m)であり、少なくとも濃尾平野から津市沖までその直上にOn-Pm-1が産出することから、初生的に約20m(最大40m)の標高差と、最大2.5万年程度の時間幅をもって形成されたと推定される。当地域は建設事業に伴う地盤調査ボーリングデータが集積されているという条件もあって、海域の音波探査と陸域のボーリングデータの整理によって、この面を基準として、活構造の変位速度や連続性を議論することができる。
この面の標高分布から、①白子-野間断層の西端はほぼ伊勢湾の西端と一致していること(海域の音探で捉えられる白子-野間断層は陸上まで延長しないこと)、②四日市港断層は陸域の阿倉川背斜に連続し、その西端は桑名断層に接していること、③伊勢湾断層の海成泥層上面形成以降の変位量は70m(平均変位速度は0.5~0.7m/千年)に達し、これまで考えられていたよりかなり大きいこと、などが明らかになった。
4. 他地域への適用性と今後の課題
最終間氷期前期最盛期の海面高度は現海水面+5m程度に達すると考えられており(町田洋ほか編、2003)、日本各地で河口成の中位段丘下で海成粘土層上面が確認されている。このため、特に土砂供給量の多いい河川が流入する内湾の周辺では現在の海陸境界を越えて海成粘土層上面を連続的に追跡することができ、その高度分布から活構造の連続性や変位速度を評価できる可能性が高い。また、貝形虫などの底棲生物化石を指標として海成粘土層上面形成時の古水深を推定することによって、より正確に地殻変動量を求めることが可能となると考えられる。今後、古水深の推定に加え(クリプト)テフラや光ルミネッセンス年代などによる時間面を正確に把握することを通じて、堆積速度の速い内湾周辺の活構造の連続性と活動性が把握されることを期待する。
文献
・町田洋・新井房雄(2003)新編火山灰アトラス。東大出版会。
・町田洋ほか編著(2003)第四紀学。朝倉書店。