日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-SS 地震学

[S-SS13] 活断層と古地震

2023年5月23日(火) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (15) (オンラインポスター)

コンビーナ:小荒井 衛(茨城大学理学部理学科地球環境科学コース)、佐藤 善輝(産業技術総合研究所 地質情報研究部門 平野地質研究グループ)、白濱 吉起(国立研究開発法人産業技術総合研究所地質調査総合センター活断層火山研究部門活断層評価研究グループ)、安江 健一(富山大学)

現地ポスター発表開催日時 (2023/5/22 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[SSS13-P15] 岐阜県本巣市根尾長嶺・根尾谷断層ボーリングコアの帯磁率分布からみた最新すべり面の特徴

*青木 駿典1 (1.岐阜大学大学院自然科学技術研究科)

キーワード:断層、帯磁率

活断層の活動履歴を評価する方法として,一般的にはトレンチ調査が用いられる.しかし,第四紀に堆積した若い地層が残されていなければ,この方法を用いて活動履歴を知ることはできない.そのため,第四紀の地層がない地点にて断層破砕帯より活動履歴を評価する方法が求められる.
根尾谷断層破砕帯ではこれまでの研究にて,地表露頭の剥ぎ取り標本から最新すべり面と古いすべり面の断層破砕帯の特徴をそれぞれ観察し,最新すべり面の特徴を理解する試みが行われた(青木・大谷,2022).2021年度に,先述の剥ぎ取り露頭標本採取地点の近くにおいてボーリング掘削が原子力規制庁により行われ,そのコア試料を用いることにより,地下における破砕帯の特徴を評価できる状態にある.そこで本研究では,断層活動時の摩擦発熱による断層ガウジ内の物質の変質(特に磁性鉱物の形成)に着目し,帯磁率測定と粉末X線回折分析(XRD)によって帯磁率と含有鉱物との関係を明らかにすることにより,最新すべり面形成時に断層活動が周囲の断層ガウジに及ぼす影響を考察し,地下における最新すべり面評価の可能性を検討することを目的とする.
本研究で対象とするのは,1891年に濃尾地震を引き起こした根尾谷断層である.根尾谷断層は,岐阜・福井県境である能郷白山付近から岐阜県本巣市根尾長嶺,本巣市日当を経て,岐阜市北西部付近へ至る長さ約35 kmの活断層である.今回の研究では,本巣市根尾長嶺で2021年度に掘削されたR3NDFD-1とR3NDFP-1の2本のボーリングコアを使用する.R3NDFD-1は水平から82.0 °傾斜して,N61Eの方向に80.00 m掘削され,最新すべり面は深度64.73~65.96 mにかけて確認できる.R3NDFP-1は水平から60.0 °傾斜して,N60Eの方向に30.00 m掘削され,最新すべり面は深度15.93~16.07 mにかけて確認できる.
半割されたボーリングコアにおいて最新すべり面を含む断層岩類の観察を行い,岩相の特徴を確認する.次に,携帯帯磁率計を用いた帯磁率測定を行い岩相ごとに帯磁率の特徴を調べる.そして,地表露頭で採取された試料を用いてXRDを行うことで,磁性鉱物の同定を行う.XRDでは,不定方位法と定方位法を実施する.
R3NDFD-1における最新すべり面近傍の半割コア(深度63.70~66.48 m)の岩相をみると,色調の濃淡によって分類できる断層岩類が確認できる.最新すべり面沿いには暗灰色断層ガウジと優黒色断層ガウジが不連続に分布している.
帯磁率分布をみると,最新すべり面では帯磁率が約0.5であり,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジでは一部で1.0~2.0と周囲より高い値を示す.一方で,最新すべり面とこれらの断層ガウジを除けば,最新すべり面の近傍であっても帯磁率は約0.3である.また,最新すべり面から離れた弱破砕の玄武岩では15~20とかなり高い値であるのに対して,弱破砕の砂岩・泥岩,チャートでは0.01~0.2の値を示す.
XRD分析では,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジと玄武岩において磁鉄鉱が検出された.また,一部の断層ガウジからスメクタイトが検出された.
Yang et al.(2019)によると,スメクタイトは250 ℃以上に加熱されることで細粒な磁鉄鉱が形成する.このため,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジに含まれる磁鉄鉱は,断層活動時に発生する摩擦発熱によって,スメクタイトが変質し,形成されたものであると考えられる.ボーリングコアの最新すべり面が地下60 m程度の深部にあり摩擦発熱はそれほど大きくないと考えられるため,スメクタイトが変質を受け磁鉄鉱が形成されたのは,最新すべり面活動時ではなく,この断層ガウジがより深度の大きい地点に位置していた時代の断層活動時であると考えられる.なお,暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジに玄武岩が混入しても帯磁率は高くなるものの,鉱物の組み合わせが大きく異なることから,その可能性は低いと考えられる.最新すべり面でも周囲と比べてやや高い値を示しており,これは最新すべり面の近傍にある暗灰色断層ガウジ・優黒色断層ガウジが破砕され,それが最新すべり面内に混入した可能性が示唆される.
参考文献
青木・大谷 (2022) JpGU2022 講演要旨集.
Yang et al.(2019) Review of Geophysics.