日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] 合成開口レーダーとその応用

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)、座長:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)


14:00 〜 14:15

[STT39-07] SARを用いた2019年台風19号に伴う埼玉県都幾川周辺の洪水域の抽出

*木戸 洋斗1島田 政信1 (1.東京電機大学 大学院 理工学研究科 建築・都市環境学専攻)


キーワード:合成開口レーダー、洪水域

令和元年台風19号は静岡県や関東地方、甲信越地方、東北地方などで記録的な大雨となり、142箇所の河川堤防決壊と約3万5千 haの浸水を引き起こすなど、東日本における豪雨災害として過去最大規模の被害となった。また、近年は地球温暖化により大雨の発生確率が上昇し、それに伴う豪雨災害も多く発生している。今後さらに大雨や短時間強雨の、発生頻度や降水量の増加が予測されており、大規模水害の発災に対する懸念が高まっている。一方で水害の被災調査は多くの人員と多大な危険を要する。そこで本研究では、合成開口レーダー( SAR )の全天候性と広域かつ面的に観測できるという2つのメリットを災害対応に応用することを目的とし、まずは衛星画像に容易に映る水面の検出を主題として考え、台風19号の発災時に撮影されたSAR画像から浸水域される地点の後方散乱係数(σ0)と、非浸水域される地点の後方散乱係数(σ0)の分布関数を計測する。次にそれらの交点を閾値(σth)とする、閾値法による分類アルゴリズムの作成。分類アルゴリズムを基に、2021年度の欧州宇宙機関(ESA)のSentinel-1衛星(VH、VV偏波)と宇宙航空研究開発機構(JAXA)のALOS-2(HH偏波)が観測したSAR画像に適用し、水域検出の精度を精査することにより閾値法の手法の適正さ、閾値自体の適正さを検証する。作成した分類アルゴリズムを台風19号当時に当てはめ、精度の検討。を行なった。
 この結果、陸域と水域の総合精度についてNDWIを用いた検証より最も高い精度を示したのは、Sentinel-1衛星(VH偏波)では、閾値 -19.93 dBで総合精度97.70 %、Sentinel-1衛星(VV偏波)では、閾値 -14.04 dBで総合精度97.52 %、ALOS-2衛星(HH偏波)では、閾値 -8.92 dBで総合精度98.11 %を記録した。また、これらの閾値を用いて令和元年台風19号被災当時のSAR画像に当てはめて検証したところ、精度 66.79 %を記録した。この精度の数字の乖離は、真値として採用した国土地理院による浸水推定段彩図の調査日時と、SARによる観測日時におよそ34時間のタイムラグがあることにより生じた精度低下と考える。
 今回の研究より、閾値法を用いて開けた水面の検出が高い精度で検出可能であることがわかった。今後の発展としては海外特有の滑らかな地形での洪水量や洪水面積の変化、陸域と水域の二分類の精度向上に取り組み、水害による浸水域の検出精度向上に繋げたい。