日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] 合成開口レーダーとその応用

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:00 304 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)、座長:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)


14:15 〜 14:30

[STT39-08] 火山観測用可搬型レーダー干渉計(SCOPE)により検出された吾妻山の地殻変動

*小澤 拓1姫松 裕志1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:合成開口レーダー、火山観測用可搬型レーダー干渉計、吾妻山、地殻変動

衛星搭載型の合成開口レーダー(SAR)は、現地観測を実施することなく、面的に詳細な地殻変動情報が得られる利点から、アクセスが困難な火口周辺の地殻変動の調査などに有効なツールとして活用されている。しかし、衛星SARの時間分解能は衛星の回帰周期に制限されるため、数日で進行するような地殻変動の変遷を把握することは困難である。また、衛星SARによる地殻変動計測は、地殻変動の南北成分に感度が低いという不利や、急峻な地形においては精度良く地殻変動の計測が困難な場合があるという問題がある。これらの問題の解決のため、火山活動の活発化が観測された場合などに機動的に観測を実施し、地上からレーダー波を照射することによって地殻変動を計測することが可能な火山観測用可搬型レーダー干渉計(センサー名:SCOPE)の開発を進めている(Ozawa et al., JDR, 2019; Ozawa et al., JDR, 2022)。SCOPEの開発コンセプトの一つは、システムの再設置を繰り返して観測を行い、それらのデータにSAR干渉法を適用することにより、地殻変動を計測することである。このコンセプトを実現するためには、観測間で干渉性が持続する性能が重要である。日本の火山の多くは濃い植生に覆われており、植生による干渉性の劣化が著しい場合には、地殻変動計測は困難である。そこで、SCOPEは植生に対する透過性が高いL-bandのHH偏波のレーダー波を採用した。送信するレーダー波は、中心周波数が1.335GHz、帯域幅が70MHzの周波数変調連続波(FMCW)である。空中線電力は約80mWである。また、繰り返し観測を効率的に行うため、SCOPEは10mのレールを用いる地上設置方式、自動車や台車に搭載する車載・台車方式、簡易的なレールの上を手でアンテナを動かして計測する手動方式から、観測場所の条件に適した観測方式を選択する方式を採用している。
吾妻山の地殻変動計測を目的として、2021年10月28日、29日、2022年7月1日、2022年11月11日に、SCOPEの車載方式による観測を行った。吾妻山は東北地方の福島県北部に位置する火山群であり、一切経山(1949m)の南山腹の約1700mに位置する大穴火口では、現在でも活発な噴気活動が見られる。最近では、衛星SARの解析から、膨張・収縮変形が繰り返して発生していることが明らかになっており(姫松・小澤、日本火山学会2021年度秋季大会)、その地殻変動を検出対象とした。大穴火口の南方の標高1600mには、大穴火口を含む一切経山の南山麓を一望できる道路が設置されている。本実験においては、その道路を利用して観測を行った。観測地点から大穴火口までの距離は約1kmである。観測においては、SUV車の屋根に吸盤で固定するアンテナ治具を設置し、それにレーダー用アンテナ、位置決め用のGNSS/INSを搭載した。観測時には、道路を低速で走行しながら、レーダー波の送受信を行った。また、別の車を観測地点から約300m離れた場所に駐車し、その屋根にGNSSアンテナを固定して、レーダーアンテナの位置決めのための基準点とした。
SAR処理においてはアンテナ軌道を20mの直線と設定し、GNSSのキネマティック解析により得られた位置情報を用いて、設定した軌道からのずれを補正してSAR画像を作成した。これにより、干渉処理においては、画像マッチング処理を適用することなく、干渉画像が得られた。大穴火口周辺にはほとんど植生がなく、時間的な干渉性劣化が少なかったことが要因と考えられるが、約1年間隔の干渉ペアにおいても、地殻変動計測に十分なコヒーレンスが得られた。大気遅延誤差については、気象庁が公開している数値気象モデル(メソスケールモデル)の解析値から大気遅延量を推定する手法(小澤・清水, 測地学会誌, 2010; Ozawa et al., JDR, 2019)を適用して軽減した。これにより、短期間の干渉ペアにおいては、比較的平坦な位相差分布が求まった。一方、2021年10月29日から2022年11月11日の干渉ペアにおいては、大穴火口の南東側に最大でスラントレンジが約3cm短縮するような変化(南東向きの変位が卓越)が求まった。また、だいち2号の南行軌道(パス18)からPALSAR-2による右方向視で観測されたデータを解析したところ、2021年9月2日から2022年6月23日の期間においては、ノイズレベルを超える地殻変動は検出されなかったが、2021年10月29日から2022年9月1日の期間においては、大穴火口周辺で約3cm程度のスラントレンジ短縮が求まった。これが膨張変化と考えると、これらの結果はおおよそ整合的といえる。矩形の開口断層を仮定し、半無限弾性体ディスロケーションモデル(Okada, BSSA, 1985)によりこの地殻変動の説明を試みたところ、大穴火口の約400m直下において、南東にわずかに傾き下がる500m×600mの断層形状が求まった。開口量は15cmであった。この断層形状は姫松・小澤(日本火山学会2021年度秋季大会)が求めた過去の膨張に関する地殻変動源とおおよそ整合している。このモデルについては、今後も検討を進める予定である。