日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] オンラインポスター発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT39] 合成開口レーダーとその応用

2023年5月25日(木) 10:45 〜 12:15 オンラインポスターZoom会場 (17) (オンラインポスター)

コンビーナ:阿部 隆博(三重大学大学院生物資源学研究科)、木下 陽平(筑波大学)、姫松 裕志(国立研究開発法人 防災科学技術研究所)、朴 慧美(上智大学地球環境学研究科)


現地ポスター発表開催日時 (2023/5/24 17:15-18:45)

10:45 〜 12:15

[STT39-P02] Sentinel-1データの干渉SAR時系列解析による神奈川県川崎市における地盤変動の監視

*道家 涼介1、鳴海 智博2里村 幹夫3、植田 伸一3、原 天流4 (1.神奈川県温泉地学研究所、2.清水建設株式会社、3.株式会社日豊、4.川崎市)

キーワード:干渉SAR時系列解析、Sentinel-1、大規模盛土造成地、神奈川県川崎市

近年多発する豪雨により,地すべりなどの土砂災害が多く発生している.特に,2021年7月に静岡県熱海市で発生した盛土の崩壊により,死者・行方不明者が出たことは記憶に新しい.人工的に埋め立てられた盛土は山間地・平野を問わず存在するが,その地盤が軟弱であることから,都市部においては地震時等に滑動崩落による宅地被害の原因となることがある.盛土地区における地盤変位は,そこに暮らす人々の生命および財産を守る観点からも,十分に監視がなされるべきである.
大規模な盛土造成事業は,戦後の日本において多く行われており,例えば,神奈川県川崎市における大規模盛土造成地区は,1,000箇所以上にのぼる.したがって,その全てを地上における観測や測量により把握することは困難である.一方で,近年,地震・火山など多方面で活用がなされている人工衛星搭載の合成開口レーダー(Synthetic Aperture Radar: SAR)の干渉解析は,地上に観測点を設けることなくスキャンするように地表面の変位を把握することが可能であり,盛土地区のような局所的且つ無数に分布する対象の地盤変位の抽出に対し,活用が期待できる.そこで,本研究では,神奈川県川崎市をモデル地区とし,Sentinel-1による観測データを用いた干渉SAR時系列解析を実施し,大規模盛土造成地区における地盤変位の抽出に適用することを試みた.
2014年(観測開始)〜2021年末までにSentinel-1が観測したデータの内,大気遅延の影響を強く受けていると考えられるものを除き,北行軌道142シーン,南行軌道153シーンを使用し,川崎市全域を含む範囲を切り出し,PS法(Persistent Scatter法)による干渉SAR時系列解析を実施した.得られた変位速度分布(衛星視線方向)を合成し,準東西成分,準上下成分の変位速度分布を得た.なお,盛土地区が変位しているかどうかの評価は、広域的な変動を含む周辺地域に対し、どの程度変位しているかを見積もる必要がある.そこで,本研究では,準上下変位速度から,長波長成分を除去し,周囲よりも相対的に沈降している箇所を抽出した.以上の解析の結果と,川崎市が所有する大規模盛土造成地のshapeファイルを重ね合わせ,盛土地区と沈降箇所の比較を行った.
その結果,川崎市の内陸部に分布する大規模盛土造成地の一部において,周囲よりも相対的に沈降する結果が得られた.全1093箇所の大規模盛土造成地のうち2mm/yr以上の沈降速度を示す地域は74地区,3mm/yr以上の沈降速度を示す地域が16地区抽出された.滑動崩落の兆候をつかむためには盛土内において詳細な地盤の変動を3次元的に捉え,すべり移動の有無等を把握する必要があることから,今後は,顕著な地盤変動が認められた箇所を対象にGNSS観測などを実施し,それらとの統合解析を実施していく予定である.