日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT40] 空中からの地球計測とモニタリング

2023年5月24日(水) 13:45 〜 15:00 202 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)、座長:小山 崇夫(東京大学地震研究所)、楠本 成寿(京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設)、光畑 裕司(独立行政法人 産業技術総合研究所)、大熊 茂雄(産業技術総合研究所地質情報研究部門)

13:45 〜 14:00

[STT40-01] 斜面災害リスク評価を目的とした阿蘇火山西麓地域の3次元浅部磁化構造解析

*大熊 茂雄1宮川 歩夢1米倉 光1、阪口 圭一1星住 英夫1阿部 朋弥1川畑 大作1宮地 良典1 (1.産業技術総合研究所地質調査総合センター)

キーワード:阿蘇火山、空中磁気探査、3次元イメージング、磁化構造、熱水変質、斜面災害

産業技術総合研究所(産総研)では,斜面災害リスク評価のために火山地域の斜面災害の原因の一つである熱水変質帯の調査のため,ドローンを使用した空中磁気探査に係わる研究を開始した.
 今回,まずは九州北部における既往のデータとして阿蘇火山において国交省が実施している有人ヘリコプター用いた空中物理探査(空中電磁・磁気探査)の際に取得された空中磁気データ(国土交通省,2014a, b)の再処理と解析を行ったので,その結果について報告する.
 阿蘇火山では,国土交通省九州地方整備局九州技術事務所が,当該地域で発生する大規模土砂移動対策の基礎資料とするため,文献調査や現地踏査に加え2013年12月と2014年3月の都合2回の空中物理探査による火山体内部構造調査を実施している(国土交通省,2014a, b).空中物理探査は断続的な噴火を行っている中岳や,往生岳,杵島岳,草千里ヶ浜等の火口上空および周辺とそれらの北方斜面地域等を避けて,有人のヘリコプター(AS 350B3)を用いて測線間隔100 m,対地飛行高度60 mで実施されている.当該の空中物理探査は6周波数(140 kHz,31 kHz,6,900 Hz,3,300 Hz,1,500 Hz,340 Hz)の周波数領域空中電磁探査システム(Fugro RESOLVE system;探査深度~地下150 m)を使用して行われ,測定された空中電磁データは処理され各周波数に対応する見掛比抵抗から地下の比抵抗分布が解析されている.
 一方,空中磁気データはScintrex社CS-3セシウム磁力計を用いて地磁気全磁力が測定され処理により極磁力異常も計算されているが,飛行高度の変化を考慮した磁気異常分布を求める曲面(磁気図作成面)が定義されていなかった.磁気異常分布を求める曲面を定義しないと定量的な解析に進めないため,今回新たに空中磁気測線データを産総研が開発・公開している空中磁気データの処理手法(Nakatsuka and Okuma, 2006; Nakatsuka and Okuma, 2018a, b)に従い処理を行った.飛行高度データを平滑化して作成した滑らかな曲面上(磁気図作成面)での値を等価異常を観測面の下方に仮定して計算した.編集された磁気異常図(全磁力)を参照すると,東部の中岳,高岳,丸山の南-南東斜面および西部の御竈門山,夜峰山等の南斜面を中心に高磁気異常が分布する.一方,阿蘇火山西麓地域では湯の谷,吉岡,地獄・垂玉地域を中心として低磁気異常や磁気異常の静穏部が卓越して分布する.
 次に,磁気異常図編集のため作成した高さの情報をもつ磁気異常のグリッドデータを使用して,阿蘇火山西麓地域(5.5 km×6 km)の3次元地下構造解析を実施した.地下構造解析のために,磁気異常の3次元イメージング解析手法(Nakatsuka and Okuma, 2014)を適用した.地下を地表と平行な等層厚の23の地層(各層の層厚:20~250 m)の累重で構成される構造を磁化構造モデルとして解析を行った.最も浅部の構造(地表~20 m深度)の磁化強度分布図を参照すると,当該地域は草千里ヶ浜火山などの火山噴出物で表層が覆われており(阿蘇火山地質図(小野・渡辺,1985)),これらに対応して高磁化強度域(~ 3 A/m)が分布する.一方,既往の変質帯分布(NEDO,1995)と比較すると,これらの高磁化強度域に隣接した湯の谷,吉岡,地獄・垂玉の温泉湧出地や噴気地帯において顕著な低磁化強度域(? 0 A/m)が分布し,スメクタイト帯やカオリナイト帯に分類される変質帯の分布域と良く対応することが分かった.スメクタイトは膨潤性が高く岩石はスメクタイト化により剪断強度が大きく低下することが知られており,表層に加えて地下の同様な変質帯を調査することは火山地域での斜面災害リスク評価にとって重要であると考えられる.ドローンを使用して有人機の調査に比べて低高度(~25 m)・狭測線間隔(~25 m)の超高分解能な空中磁気探査を実施することにより,より詳細な変質帯の構造が明らかにされることが期待される.

謝辞
国土交通省九州地方整備局九州技術事務所には,阿蘇火山地域における空中電磁・磁気探査データの使用に関し便宜を図っていただいた.ここに記して感謝申し上げます.