15:30 〜 17:00
[STT41-P01] 大深度観測井を使用した、高温環境下における位相シフト光干渉法による振動観測
フィールド決定の経緯
火山PJ課題B2-2では、2020年度に高温対応用センサ及び高圧対応用ボアホール筐体を作成した。翌2021年度にその適用先フィールドを探していたところ、2019年3月JNESより返還された新潟工科大の3000m級観測井が使用可能であることを知った。この観測井の温度分布は資料によると2000mで約105℃、3000mで約140℃であった(図1)。フィールドは火山ではないが、高温検証としては十分であることから、使用させていただくこととした。新潟工科大は新潟県柏崎市にある私立大学である。3000m観測井は、2007年新潟県中越沖地震を受けて、原子力施設での地震動の増幅要因として明らかとなった深部地盤のサイト特性の影響を評価する目的で作成されたものである(注1)。今回は観測井の形状から、深さ2000mにある段差を使用して筐体を固定する方法をとった(図1)。2000m以深には昔設置した筐体の固定具が残存しており、筐体を固定することが困難であること、深さ2000mでも100℃以上の温度であることが理由である。
事前準備
埋設前の坑井内の状態を見るため、温度プロファイルの測定と、本設地震計と同型のダミー筐体を挿入し、埋設目標地点に図面通り段差があり、その部分で固定できるかどうかを確認した。坑井内の温度構造は、新潟工科大からいただいたものとほぼ同じであり、坑井内の温度状態はほとんど変化していないことがわかった。また、ダミー筐体に段差で動作する固定治具を取り付け、線長計により埋設目標地点である段差部で地震計が固定できることを確認した。
設置
このシステムはセンサ部に電気が必要なく、通信線が光ファーバーのみであることから、深井戸に埋設するケーブルは直径6mm程度と、従来同程度の深さに埋設する場合とは格段に細くすることができ、そのために設置自体が非常に簡便になっている。今回行った方法としては、ケーブルを地面に伸ばしておいて、クレーンに吊るした滑車で地面のケーブルを地上に持ち上げ、ケーブル引き出し側を固定して滑車を下げて孔内へケーブルを降下させ、孔口でケーブルを固定、再度ケーブルを地面に伸ばすのを繰り返していく「尺取り虫」方式を採用した。この方法は埋設に必要な人数も機材も少なくさせることができる簡便な方法である。なお、従来型大深度地震計では地震計筐体やケーブルの重量が重いため、ケーブルを取り扱う際には専用の大型ウインチや、そのウインチを動作させるための大容量発電機も必要となる。更にウインチが浮き上がらないように地面には敷鉄板を敷き、溶接にて固定する等、地震計埋設に大がかりな作業が必要となる。設置後の状態について、光センサ地震計は孔口部にケーブルをクリップにてケーブルを固定するだけであるが、従来型大深度地震計は地上部でケーブルを固定するための大型の固定器が必要となる。
設置後の稼働状況
光送受信装置を設置した観測小屋のエアコンが不調で、夏場の室内気温が上昇し、光送受信装置の稼働温度範囲を超える場合が発生したため、2022年8月の1か月ほど電源を落として観測を中止し、エアコンの修理を待って再稼働させた。これ以外は計画停電を除き、2022年2月中旬以降、100℃を超える環境下で連続観測ができている。
センサのノイズレベル
光センサは比較のために、地下以外に地上の観測小屋の土間にも設置して観測を行っている。図2は2022年8月6日午前2時から1時間の記録を使った、地表3成分と地下3成分のノイズスペクトルである。地下の方が地表より20dBほどノイズレベルが低いことがわかる。
観測された地震
気象庁震源リストより、震央距離が観測点より700mの地震が観測されている。光センサでは取得できた記録を図3に示す。
まとめ
高温対応光センサは100℃を超える環境でも、長期間性能の良い観測ができていることが確認された。今後は、高温状態でのさらなる長期観測と、実際の火山観測への適用、展開などを行っていきたい。
謝辞
新潟工科大学には、観測井および観測小屋を使用させていただくなど、多大な協力をいただきました。ここに記して感謝いたします。
本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材総合プロジェクト」の資金等の提供を受けたものです。
参考資料:
(注1)JNES 原子力安全基盤機構の研究実績状況、第3回原子力耐震安全研究委員会 資料5-2、平成23年7月29日
火山PJ課題B2-2では、2020年度に高温対応用センサ及び高圧対応用ボアホール筐体を作成した。翌2021年度にその適用先フィールドを探していたところ、2019年3月JNESより返還された新潟工科大の3000m級観測井が使用可能であることを知った。この観測井の温度分布は資料によると2000mで約105℃、3000mで約140℃であった(図1)。フィールドは火山ではないが、高温検証としては十分であることから、使用させていただくこととした。新潟工科大は新潟県柏崎市にある私立大学である。3000m観測井は、2007年新潟県中越沖地震を受けて、原子力施設での地震動の増幅要因として明らかとなった深部地盤のサイト特性の影響を評価する目的で作成されたものである(注1)。今回は観測井の形状から、深さ2000mにある段差を使用して筐体を固定する方法をとった(図1)。2000m以深には昔設置した筐体の固定具が残存しており、筐体を固定することが困難であること、深さ2000mでも100℃以上の温度であることが理由である。
事前準備
埋設前の坑井内の状態を見るため、温度プロファイルの測定と、本設地震計と同型のダミー筐体を挿入し、埋設目標地点に図面通り段差があり、その部分で固定できるかどうかを確認した。坑井内の温度構造は、新潟工科大からいただいたものとほぼ同じであり、坑井内の温度状態はほとんど変化していないことがわかった。また、ダミー筐体に段差で動作する固定治具を取り付け、線長計により埋設目標地点である段差部で地震計が固定できることを確認した。
設置
このシステムはセンサ部に電気が必要なく、通信線が光ファーバーのみであることから、深井戸に埋設するケーブルは直径6mm程度と、従来同程度の深さに埋設する場合とは格段に細くすることができ、そのために設置自体が非常に簡便になっている。今回行った方法としては、ケーブルを地面に伸ばしておいて、クレーンに吊るした滑車で地面のケーブルを地上に持ち上げ、ケーブル引き出し側を固定して滑車を下げて孔内へケーブルを降下させ、孔口でケーブルを固定、再度ケーブルを地面に伸ばすのを繰り返していく「尺取り虫」方式を採用した。この方法は埋設に必要な人数も機材も少なくさせることができる簡便な方法である。なお、従来型大深度地震計では地震計筐体やケーブルの重量が重いため、ケーブルを取り扱う際には専用の大型ウインチや、そのウインチを動作させるための大容量発電機も必要となる。更にウインチが浮き上がらないように地面には敷鉄板を敷き、溶接にて固定する等、地震計埋設に大がかりな作業が必要となる。設置後の状態について、光センサ地震計は孔口部にケーブルをクリップにてケーブルを固定するだけであるが、従来型大深度地震計は地上部でケーブルを固定するための大型の固定器が必要となる。
設置後の稼働状況
光送受信装置を設置した観測小屋のエアコンが不調で、夏場の室内気温が上昇し、光送受信装置の稼働温度範囲を超える場合が発生したため、2022年8月の1か月ほど電源を落として観測を中止し、エアコンの修理を待って再稼働させた。これ以外は計画停電を除き、2022年2月中旬以降、100℃を超える環境下で連続観測ができている。
センサのノイズレベル
光センサは比較のために、地下以外に地上の観測小屋の土間にも設置して観測を行っている。図2は2022年8月6日午前2時から1時間の記録を使った、地表3成分と地下3成分のノイズスペクトルである。地下の方が地表より20dBほどノイズレベルが低いことがわかる。
観測された地震
気象庁震源リストより、震央距離が観測点より700mの地震が観測されている。光センサでは取得できた記録を図3に示す。
まとめ
高温対応光センサは100℃を超える環境でも、長期間性能の良い観測ができていることが確認された。今後は、高温状態でのさらなる長期観測と、実際の火山観測への適用、展開などを行っていきたい。
謝辞
新潟工科大学には、観測井および観測小屋を使用させていただくなど、多大な協力をいただきました。ここに記して感謝いたします。
本研究は文部科学省「次世代火山研究・人材総合プロジェクト」の資金等の提供を受けたものです。
参考資料:
(注1)JNES 原子力安全基盤機構の研究実績状況、第3回原子力耐震安全研究委員会 資料5-2、平成23年7月29日