日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-TT 計測技術・研究手法

[S-TT44] 最先端ベイズ統計学が拓く地震ビッグデータ解析

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:00 301B (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:長尾 大道(東京大学地震研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、椎名 高裕(産業技術総合研究所)、座長:長尾 大道(東京大学地震研究所)、矢野 恵佑(統計数理研究所)、加藤 愛太郎(東京大学地震研究所)、椎名 高裕(産業技術総合研究所)

11:00 〜 11:15

[STT44-02] 事前分布の導入による本震直後における最大振幅予測性能の改善

*澤崎 郁1 (1.防災科学技術研究所)

キーワード:極値統計、区間最大振幅、事前分布、最大振幅の予測、余震

大地震後には多くの余震が起こり地震計記録上で地震波が重なり合い、P波やS波の検知が困難となるため、震源カタログには質・量ともに劣化が生じる。そこで、重なり合いの影響が少ない地震計記録の一定時間ごとの最大振幅(区間最大振幅)を用いて、余震による最大振幅の予測を早期に行う手法が提案されている(Sawazaki, 2021)。この手法においては、区間最大振幅が非定常Frechet分布と呼ばれる極値分布の一種に従うことを利用して、この分布を支配するパラメータを最尤法により推定し、その推定値を用いて将来の最大振幅を予測する。しかし、本震直後においては使用できる区間最大振幅の数が少ないため、パラメータの推定結果が安定せず、予測も安定しないという問題がある。そこで本研究では、非定常Frechet分布を支配するパラメータのうち、大森・宇津式のp値とc値、そして石本・飯田式のm値について、過去事例に基づき事前分布を導入することにより予測の安定を図った。さらに、マルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法を用いて事後分布からのパラメータのランダムサンプリングを行い、大振幅の発生回数および本震時を超える振幅の発生確率を算出し、実際の観測値と比較して予測性能の評価を行った。
用いたデータは、2008年岩手・宮城内陸地震(MJ7.2)について4観測点、2016年熊本地震の本震(MJ7.3)と最大前震(MJ6.5)についてそれぞれ2観測点、2018年大阪府北部の地震(MJ6.1)について4観測点の、計12個のHi-net連続地震動記録である。それぞれの連続地震動記録の3成分ベクトル和について1分間ごとに区間最大振幅を計算した。振幅の飽和が見られるデータについては、可能な限り併設するKiK-net地中記録で置き換えた上で区間最大振幅を計算した。これらの区間最大振幅に対し、本震後からの1時間ごとに極値統計解析を施し、パラメータの推定と最大振幅の予測を行った。事前分布は、Omi et al. (2015)が気象庁一元化震源カタログを用いて38個の余震系列について求めたパラメータ値を参考に設定した。
解析の結果、事前分布の導入により、各々の本震の1時間後までにパラメータ推定と予測結果を安定させられることを確認できた。本震から1時間後までのデータを用いて、本震の1日後までに0.1cm/s以上の振幅が観測される回数を計算した結果、12点中10点において、実際に観測された回数は予測回数の中央値の倍半分の範囲に収まった。また、12点中11点において、観測回数は予測回数の5%から95%パーセンタイルの範囲に収まった。
また、本震から1時間後までのデータを用いて、本震の1日後までに本震(熊本地震の最大前震もその1日後時点では「本震」とみなす)を上回る最大振幅を観測する確率を計算した結果、熊本地震の最大前震以外ではいずれの地震・観測点でも33%以下であったのに対し、熊本地震の最大前震では2観測点で67%および83%と、他の地震・観測点よりも際立って高い値を示した。本震の6時間後になると、これらの確率は、熊本地震の最大前震以外では13%未満まで下がったのに対し、熊本地震の最大前震では依然として68%および86%と高い値を維持したままであった。この熊本地震の最大前震後の地震活動の特異性については、Hi-net自動カタログの解析からも指摘されている(Omi et al., 2019)。また、熊本地震の最大前震後の地震活動においては、石本・飯田式のm値が他の地震・観測点に比べて有意に低かった。m値はグーテンベルク・リヒター式のb値に比例するため、この結果は最大前震後の余震活動においてb値が低かったことに対応すると考えられる。

謝辞:本研究は科研費基盤C(課題番号21K03686)の支援を受けています。