日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC30] 火山の熱水系

2023年5月21日(日) 13:45 〜 15:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学科学技術創成研究院多元レジリエンス研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、大場 武(東海大学理学部化学科)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)

14:04 〜 14:23

[SVC30-02] 火山熱水系の数値モデリングのための三次元浸透率構造作成支援ツールの開発

*松永 康生1,2神田 径1 (1.東京工業大学理学院、2.東京大学地震研究所)

キーワード:熱水系、数値シミュレーション、比抵抗構造

数値シミュレーションは火山熱水系の複雑な挙動を研究する上で有用な手法であるが、これまで実施されてきたモデリングでは比較的単純な浸透率構造を仮定したものがほとんどであり、実際の火山体の不均質を考慮したシミュレーションはいくつかの先駆的な研究を除いてほとんど行われていない。これは、多くの場合において地下の浸透率分布を推定することが現実的に困難であるためである。
一部の地熱地帯を除き、ボーリング調査のデータに乏しい多くの火山では、地下構造探査の結果から浸透率構造を推定することがこの問題に対する一つの現実的な解決策となりうる。とりわけ、電気比抵抗は浸透率同様に岩石中の流体の存在度およびそれらの結合性に強く依存している物理量であることから、将来的には電磁探査などで推定された比抵抗構造を直接浸透率構造へと変換し数値モデリングに利用する包括的なスキームの実現が期待される。そのためには、比抵抗構造から浸透率構造への変換をできるだけシステマチックに行った上、実際の観測データを制約条件とするような数値モデリングを多くの火山を対象に実施することで、両者の一般的な対応関係を明らかにしていく取り組みが求められる。
そこで、様々に条件を変えながら多数のシミュレーションを実施することができる数値計算環境の実現を目指し、本研究では、比抵抗構造を入力データとした浸透率構造作成、計算の実行、結果の整理および可視化といったシミュレーションに必要な一連の作業の効率化を支援する新たなGUI/コマンドラインツール(WEAK3)を開発した。このツールは、地熱開発分野で広く用いられている多成分多相系シミュレータのTOUGH2およびその改良版であるTOUGH3の使用を想定しており、作成した浸透率構造データだけでなく各種計算パラメータや境界条件の設定も合わせて、TOUGH専用の入力ファイルへと変換することができる。大きな特徴として、予め定義されたいくつかの岩石タイプを、メッシュの各要素の位置や比抵抗を変数として記述した条件式に基づいて計算メッシュに割り当てて浸透率構造を作成するという点が挙げられる。この方式の利点はメッシュを定義する上で必要となる設定が、岩石タイプの境界となる比抵抗値を始めとするいくつかのパラメータだけとなるため、容易に地下構造の情報を取り込んだ浸透率構造を作成できることである。
本ツールを用いたケーススタディとして、草津白根山を対象に広域的な熱水系の定常状態の数値モデリングを試みた。浸透率構造は先行研究で推定された比抵抗構造およびその解釈に基づいて作成しており、基盤岩や粘土層、シリカの析出に伴うシーリング層といった低浸透率領域が比抵抗値を基準にメッシュに割り当てられている。各種観測データに基づき決定された温度・組成を持つ火山性流体を、深部膨張源と山頂部をつなぐように設定した高浸透率の火道の底部から注入し、最新のマグマ活動期に相当する約2万年間の熱水流動をシミュレートしたところ、元の比抵抗構造と草津白根山周辺の実際の温泉分布の特徴を比較的よく再現する結果が得られた。構築された浸透率構造は比較的単純であったにも関わらずいくつかの観測データを再現する結果が得られたことは、比抵抗構造を利用することで熱水流動シミュレーションにおける浸透率構造作成の不確実性を大幅に低減できることを意味し、比抵抗構造探査と熱水流動シミュレーションを組み合わせた統合解析の実現可能性を示唆するものといえる。