日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC30] 火山の熱水系

2023年5月21日(日) 15:30 〜 16:45 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、神田 径(東京工業大学科学技術創成研究院多元レジリエンス研究センター)、大場 武(東海大学理学部化学科)、座長:藤光 康宏(九州大学大学院工学研究院地球資源システム工学部門)、大場 武(東海大学理学部化学科)、神田 径(東京工業大学理学院火山流体研究センター)

16:27 〜 16:45

[SVC30-08] 八丁原地域における酸性熱水噴出坑井の緑泥石の化学組成

*光岡 健1堤 彩紀1、田中 誠2 (1.西日本技術開発株式会社、2.独立行政法人エネルギー・金属鉱物資源機構)

キーワード:緑泥石、酸性熱水、変質鉱物、EPMA、地熱

大分県八丁原地域は大分県玖珠郡九重町に位置する。八丁原地域では地熱流体はNW-SE系及びNE-SW系の断層に沿った破砕帯に貯留されている(Momita et al.、2000)。地熱井から噴出する流体の多くは中性を示すが、八丁原断層周辺ではpH=3~5程度の酸性を示す熱水の噴出が確認されている(島田ほか、1985)。八丁原の酸性熱水の組成は、中性熱水に比べてFe及びMgに富む傾向にある(NEDO、2000)。八丁原断層に向けて掘削された坑井から採取されたカッティングス試料のX線回折分析結果によると、フィードポイント深度において中性熱水環境下で安定な緑泥石及びイライトが認められる(堤ほか、2020)。従来、酸性熱水環境下でAl-緑泥石が出現することが報告されているが(川野・富田、1991)、ここでは特に緑泥石の化学組成と熱水のpHの関係について検討を行った結果を報告する。
分析対象とした坑井は、八丁原発電所構内で掘削された生産井のうち、酸性熱水の噴出が確認された坑井及び中性熱水の噴出が確認された坑井の計6坑井である。試料はフィードポイント深度のカッティングスであり、試料数はそれぞれの坑井から1試料ずつ、計6試料である。薄片観察で同定した緑泥石をEPMA(株式会社久留米リサーチ・パーク保有の島津製作所製EPMA-1720H)を用いて測定した。
分析した緑泥石は、その組成より全てFe-Mg緑泥石に分類される。八丁原断層周辺の酸性熱水噴出坑井に産出する緑泥石は、中性熱水噴出坑井の緑泥石に比べて、八面体層に含まれるAlに富む傾向を示す。酸性熱水噴出坑井のうち1坑井では、パイロフィライトがフィードポイント深度の上部50mに認められ、緑泥石はその形成時の影響を受けていることも考えられる。一方、中性熱水噴出坑井のうち1坑井では、フィードポイント深度で緑泥石、イライトの他に方解石が分布する。このように、緑泥石の化学組成と熱水のpH及び変質鉱物の分布には関係が認められ、酸性熱水噴出坑井のフィードポイント深度では酸性熱水の影響を受けて相対的にAl含有量が高い緑泥石が生成したと考えられる。従って、八丁原断層に向けて掘削された坑井において八面体層中のAlに富む緑泥石が認められる場合に、掘削段階で酸性熱水の噴出予想に応用できる可能性が示唆されるものの、八丁原断層以外の酸性熱水噴出坑井に産する緑泥石のAl含有量は中性熱水噴出坑井に産する緑泥石のAl含有量と同程度であり、他の地質構造や地域との比較、化学平衡シミュレーションとの比較等、更なるデータの蓄積が必要である。
謝辞:本研究は、JOGMECの事業「地熱発電技術研究開発事業」の中で行われたものである。また、九州電力㈱殿には蓄積された地熱井の流体及び地質データ及び分析試料の提供、データの公表など多大なご協力をいただいた。深く御礼申し上げます。