日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的火山

2023年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:高木 朗充(気象庁気象研究所)、嶋野 岳人(常葉大学大学院環境防災研究科)

16:30 〜 16:45

[SVC31-21] 岩石学的にみた有珠火山1977年準プリニー式噴火のマグマ上昇過程

*東宮 昭彦1 (1.産業技術総合研究所地質調査総合センター)

キーワード:有珠火山、磁鉄鉱、噴火、累帯構造

1.はじめに
有珠火山は日本有数の活火山であり,しばしば大きな被害を与えてきた.直近2回の噴火である1977年噴火および2000年噴火は,マグマ組成がどちらもSiO2=69〜70 wt.%程度のデイサイトで類似している一方で,噴火様式は異なった.前者は準プリニー式噴火により多量の軽石・火山灰を放出したが,後者はマグマ水蒸気噴火であり噴出量も一桁以上小さかった (曽屋・他, 2007).2000年噴火が準プリニー式噴火に“なり損なった”理由について東宮 (2022) は,マグマの上昇中に冷却・脱ガスが進行したことで地表付近での地下水との相互作用を強く受けることになったためと考えた.それは,磁鉄鉱斑晶のzoning profileをFE-EPMAで詳細に分析したところ,リムから数十μmに渡ってMg/Mnが顕著に減少しており,元素拡散速度と分配係数を考慮すると数十時間のタイムスケールで温度が50-100℃程度低下したことが推定されたからである.そこで今回は,1977年準プリニー式噴火についても同様に磁鉄鉱斑晶のzoning profileを詳細に分析し,同噴火のマグマ上昇過程を推定し,2000年噴火との比較を行った.

2.1977年噴出物の分析結果
1977年噴火の磁鉄鉱については,type-I (低Ti・高Al・高Mg/Mn) とtype-II (高Ti・低Al・低Mg/Mn) のバイモーダルな組成分布を示し前者が高温であること,どちらのtypeもzoning profileがほぼフラットで顕著なzoningをしていないこと,などが既に分かっている (Tomiya and Takahashi, 2005).このことから,2種のマグマが噴火直前に混合し,再均質化する前に短時間で噴出したことが推定されている.今回の詳細分析により,リム直近でわずかにzoningが見られることが判明した.一部の斑晶ではMg/Mnがやや増加しており,これは2000年噴出物とは対照的に加熱を示唆する結果である.type-Iとtype-IIのどちらについてもMg/Mnの増加がみられることから,両者よりさらに高温のマグマが関与していた可能性があり,今後さらに詳細な分析が必要である.

3.1977年噴火と2000年噴火
1977年噴火では上昇中のマグマの冷却がほとんどないまま準プリニー式噴火に至ったのに対し,2000年噴火では上昇中の顕著な冷却があってマグマ水蒸気噴火に終わったようにみえる.また,噴火の前兆地震の期間が前者は30時間に対し後者は4日間と長かった.有珠火山では,マグマの上昇が速やかに行われるか否かによって噴火様式,ひいては噴火災害に大きな影響がありうることから,観測でマグマの上昇をリアルタイムに捉えることが重要であると考えられる.

本研究の一部に次世代火山研究・人材育成総合プロジェクト課題C予算を使用しました.