日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC31] 活動的火山

2023年5月22日(月) 15:30 〜 17:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:前田 裕太(名古屋大学)、三輪 学央(防災科学技術研究所)、松島 健(九州大学大学院理学研究院附属地震火山観測研究センター)、座長:高木 朗充(気象庁気象研究所)、嶋野 岳人(常葉大学大学院環境防災研究科)

16:45 〜 17:00

[SVC31-22] 分光測色計によるラピリサイズ火山噴出物試料の特徴記載のすすめ

*嶋野 岳人1安田 敦2 (1.常葉大学大学院環境防災研究科、2.東京大学地震研究所)

キーワード:分光測色、火山噴出物、ラピリ

火山堆積物・噴出物の野外における特徴として,噴出物の色は古くからその一つとして記載が行われてきた.これは噴出物の色がその組成や酸化還元状態を通して結晶度などの結晶組織を反映し,そうした噴出物の特徴が研究の主目的である火山噴火やマグマ供給系理解に何らかの情報を与えてくれると考えてきたからであろう.特に,噴火様式の変化に影響すると考えられる噴出物中のごく微細な結晶の有無やその組織は,マクロでは噴出物の色の変化として出現することが考えられ,噴火現象推移の要因を考察するうえでも噴出物の色の客観的・定量的記載が必要である.
一方,近年,多くの火山地域では,人為的な改変等により露頭が消滅しつつある.なかでも重要露頭では,これまでの研究により,試料や色記載が残されている場合が多いが,色表現が個々の研究者の経験に依拠し,必ずしも誰もが比較可能な客観基準に拠らないことも多い.さらに言えば,露頭での色観察は,天候,露頭状態,観察者の体調など,時々刻々と変化する条件にしばしば影響を受けると考えられる.現在,多くの重要露頭についてオリジナル記載をした研究者が一線を退いており,今後,先人の膨大な努力・功績を無駄にすることなく新たな露頭記載・正確な対比およびそれらの検証を行う上でも,客観データの蓄積が重要である.
著者らはすでに桜島をはじめとする多くの火山灰について,光源を内蔵した分光測色計を用いた一定条件下での測色を行っており,噴火様式によって系統的に火山灰色が変動することを示してきた(嶋野・安田,2023).一方,本研究では,この手法をラピリサイズの試料に適用し,分光測色により噴出物試料表面色の定量化を行ったので,その結果について報告・考察を行う.
測定を行った試料は,A浅間火山天明降下軽石(東大観測所脇),B富士火山湯船第二スコリア(太郎坊),C諏訪之瀬島火山文化降下スコリア(東山),D桜島火山大正軽石(有村),E福徳岡の場火山2021年漂着軽石(沖縄採取)である.粒径依存性を見るため,複数の粒径区分について測定した.ただし,Eについては黒色~白色,縞状など多様な粒子が存在し,かつ,それらの種類によって粒径差があるため,粒径は揃えずに分析を行った.
A~Dについては,数%の異質岩片等を除けば比較的均質であり,スコリア粒子の方がL*, a*, b*値のいずれも低く,軽石粒子が高い傾向があった(図1).各試料とも同程度のばらつき(L*で5-10程度,a*で2-3程度,b*で10程度)をもち,L*a*b*空間でトレンドを示した.スコリア粒子は比較的直線的(伸長した形状),軽石は平板状のトレンドを示すことから,スコリアは2成分,軽石は3成分を主端成分とする混合色をなすことが推察される.スコリア試料では黒色結晶質の石基からなる粒子と褐色ガラス質の石基からなる粒子が混在しており,これらの連続的な混合を示しているものと思われる.一方,軽石は淡白色石基,黒色~暗茶褐色から緑色の輝石斑晶,茶褐色風化変質部が混在しており,分光計の測定視野内にこれらが同時に含まれることで,上述の傾向を示していると考えられる.さらに,スコリアどうし,軽石どうしでも試料間で全く同じトレンドとはならず,それぞれ別個の色分布をしている.なお,各試料は気泡を多く含むが,気泡が大きい部位では,測色計の接触面は平板無色ガラスであり,試料の凹凸面では十分な後方散乱強度を得られず測色値のばらつきの原因のひとつとなっている可能性が考えられる.
一方,Eについては,すでに漂着軽石にさまざまなバリエーションが知られているが,これに整合的となる測色値分布が得られた.これまでの調査結果によれば,これらの多様な軽石~スコリアは噴出時期を異にする可能性が指摘されており,噴出物の識別を定量的に行うことで噴火推移復元に資する可能性がある.また,初めに指摘した通り,噴出物の色は噴火プロセスなどを反映して変化している可能性があるため,これらの色変化の要因を調べることで噴火メカニズムの解明につながるものと考えられる.
なお,今回分析を行った試料はいずれも比較的新しい(2200年前の湯船第二スコリアが最古)噴出物であった.それにもかかわらず,目視でもガラスの風化などによる黄色化が認められる.今回は分光測色法の予察的な適用ということで,このような経年色変化の影響についての評価は行っていないが,露頭周辺環境などにより同一噴火の噴出物でも異なる測色値を呈する可能性があり,今後,色による特徴記載・対比を行う上で検討が必要であろう.