日本地球惑星科学連合2023年大会

講演情報

[J] 口頭発表

セッション記号 S (固体地球科学) » S-VC 火山学

[S-VC34] 海域火山

2023年5月24日(水) 10:45 〜 12:00 303 (幕張メッセ国際会議場)

コンビーナ:田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)、藤田 英輔(防災科学技術研究所 火山防災研究部門)、前野 深(東京大学地震研究所)、小野 重明(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、座長:小野 重明(国立研究開発法人海洋研究開発機構)、田村 芳彦(海洋研究開発機構 海域地震火山部門)

10:45 〜 11:00

[SVC34-06] 海域火山観測の重要性

★招待講演

*大湊 隆雄1 (1.東京大学地震研究所)

キーワード:海域火山、火山噴火、津波

日本は火山国であり111の活火山があるとされているが、そのうちの約30火山は海域の火山である。海域の火山の多くは人口密集地から離れているため、噴火発生時の影響は内陸の火山噴火に比べて小さいと思われがちである。しかし、噴火が有人島で発生した場合は島民の避難場所が限られることから深刻な被害が起こり得る。1785年の青ヶ島噴火や1902年の伊豆鳥島噴火がその例として挙げられる。また、噴火の規模や発生様式によっては大量の火山噴出物の放出や津波発生を伴い、島外の広域にわたって大きな社会的影響を及ぼす場合もある。例えば1741年の渡島大島噴火では山体崩壊により大規模な津波が発生し、大きな被害が出た。最近の例を挙げると、2021年8月15日に発生した福徳岡ノ場の噴火では、周囲に有人の島が無いため当初は世間の関心も薄かったが、大規模なマグマ水蒸気爆発に伴い発生した大量の軽石が海流に乗って西進し、沖縄など各地に漂着して漁業や観光に大きな影響を与えた。海外の事例では、2022年1月15日に発生したトンガのフンガ・トンガ-フンガ・ハアパイ噴火が記憶に新しい。水蒸気爆発に伴う大規模な大気波動が津波を励起し、その津波は日本にも到達し漁船転覆などの被害が発生した。防災的観点からは大気波動による津波の励起は想定されておらず、津波到達時間や規模は従来の手法で予測することはできなかった。このように、海域火山活動は、その規模や噴火様式に因っては、人口密集地とは離れていても様々な被害を及ぼし得る。
 火山活動を把握するためには対象となる火山において多項目観測を実施することが効果的であるが、海域火山の場合は陸域火山に比較して観測が困難な場合が多い。対象となる火山が活発に活動している場合は、火山への接近・上陸は危険であり観測の実施自体が困難である。噴火前に火山の地下で進行しているマグマ蓄積・移動・上昇を把握するためには地震や地殻変動観測が有効だが、海域火山の場合は広いスパンを持つ観測網を展開することは容易ではなく、深部の情報を得ることは陸域火山に比べて難しい。海底地震計や海底磁力計による海域観測も行われているが、大規模に実施することは容易ではなく、また、リアルタイム性にも難がある。現状では人工衛星からの観測で得られる可視・赤外画像データ、火山ガスデータ、SARに代表される地殻変動データが、海域火山の観測・監視手段として有力であるが、衛星からの観測では観測頻度を高くすることが難しく、やはり時間分解能に難点がある。
 以上のように、海域火山の観測は極めて重要であるにもかかわらず、その実施は容易ではない。しかし近年、海域火山の観測がかかえる問題の解決につながる技術的進展が見られる。具体的には、光ケーブルを利用し地面の歪・振動を検出するDistributed Acoustic Sensing (DAS)という手法の登場である。この手法は既存の光ケーブルを利用して実施できるため、陸域火山のみならず海域火山に対しても適用できるものであり、通信用の海底ケーブルを利用した海域火山の観測事例も出始めている。この手法は、従来の海底地震観測の問題点であったリアルタイム性や多チャンネル性の限界に縛られない観測を可能とするものであり、今後の海域火山観測において重要な役割を果たす可能性を秘めている。
 本講演では、海域火山観測の現状をレビューするとともに今後の海域火山観測の方向性を述べる予定である。