日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

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[U-08] CO環境の生命惑星化学

2023年5月21日(日) 10:45 〜 12:15 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:上野 雄一郎(東京工業大学大学院地球惑星科学専攻)、北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)、尾崎 和海(東京工業大学)、座長:北台 紀夫(海洋研究開発機構)、鈴木 志野(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)

10:45 〜 11:15

[U08-06] GADV 仮説から見た生命誕生への道

★招待講演

*池原 健二1 (1.G&L 共生研究所)

キーワード:生命の起源、GADV 仮説

多くの人が関心を持ち努力してきたにも関わらず生命起源の謎は今なお解明されていない。その生命起源の謎を解くためには、地球生命が生きる上で最低必要な生命の基本システムを構成する6つの構成メンバー(遺伝子、tRNA、遺伝暗号、タンパク質、代謝、細胞構造)の形成過程を明らかにすることが必要である。しかし、生命が誕生するまで、すなわち、遺伝子不在下の原始地球上ではランダムな反応しか起こらない。したがって、生命起源の謎を解くためには生命の基本システムを構成する6つの構成メンバーすべてについて、どのようにしてランダムな反応によって生み出されたのかを明らかにする必要がある。しかし、現存生物が使用する(成熟)遺伝子も(成熟)タンパク質もヌクレオチドやアミノ酸のランダムな重合によって作れそうもない。これがこれまで誰も生命起源の謎を解けなかった最大の理由だと考えられる。
 それに対して、私は約25年ほど前に「それまで存在したどの遺伝子の塩基配列と有意な相同性を持たない全く新しい遺伝子が今でも生まれているとしたらどこで生まれているのか」という問題を解明するために始めた研究の結果、[GADV]-アミノ酸をほぼ等量含むアミノ酸組成の中でなら [GADV]-アミノ酸をランダムに繋いでも水溶性で球状の柔軟な構造を持つ未熟な [GADV]-タンパク質を生み出し得る擬似複製の概念(タンパク質の0次構造)に出会った [1,2]。このことが生命起源の謎を解明できたかもしれない [GADV]-タンパク質ワールド仮説(GADV 仮説)提唱のきっかけとなった [3.4]。紙面の関係上、詳しいことは記載できないが GADV 仮説に基づく生命が誕生する過程を書くと次のようになる [5]。
(1) 原始地球上での前生物的手段を通じて [GADV]-アミノ酸が生成され蓄積した(化学進化)。(2)原始地球上の水溜まりで繰り返し [GADV]-アミノ酸が蒸発・乾涸される中で未熟な [GADV]-タンパク質が生み出された(タンパク質の起源)。(3)[GADV]-タンパク質の会合によって [GADV]-ミクロスフェアが形成された(細胞構造の起源)。(4)[GADV]-ミクロスフェアの中で未熟 [GADV]-タンパク質を触媒とするプロト代謝系が形成された(代謝の起源)。(5)プロト代謝系で生み出された4種のヌクレオチドがランダムな重合とその分解が繰り返される中でループ内に GNC を持つ 17 残基からなる最も小さく十分な安定性を持つヘアピンループ RNA が原初tRNA となった(tRNA の起源)。(6)GNC をアンチコドンとして持つ4種の原初ヘアピンループtRNA と4種の [GADV]-アミノ酸との間での偶然凍結によって GNC 原初遺伝暗号が確立された(遺伝暗号の起源)。(7)原初 tRNA の GNC アンチコドンをランダムに連結することで一本鎖の (GNC)n RNA が形成され、さらにその相補鎖合成によって二重鎖 (GNC)n RNA が形成された。続いて、二重鎖 (GNC)n RNA が発現する未熟 [GADV]-タンパク質の持つ弱い触媒活性をより高い触媒活性を持つものへと成熟させる過程で、成熟 [GADV]-タンパク質をコードした成熟遺伝子を獲得した(遺伝子の起源)。(8)こうして、最も原初的な生命の基本システムが確立され、生命活動に必要な数の遺伝子が生み出された時に最初の地球生命が誕生した。 これが GADV 仮説から見た生命誕生への道である。この仮説の特徴は、(1)生命の基本システムを構成する6つのメンバーすべての形成過程をランダム過程によって説明できること。(2)生命の基本システムを構成する6つのメンバーがタンパク質から細胞構造、代謝、tRNA、遺伝暗号の順に一つずつ積み上げるように形成されたと考えて説明できること。(3)この6つの構成メンバーの形成順序を入れ換えることができないこと。(4)遺伝子・自己複製先行説ではなく、タンパク質・代謝先行説を基礎とした考えであることなどが上げられる [5]。詳細については、以下の参考文献を参照していただきたい。

参考文献 Ikehara, K.; Pseudo-replication of [GADV]-proteins and origin of life. Int. J. Mol. Sci., 2009, 10, 1525–1537. Ikehara, K. Protein ordered sequences are formed by random joining of amino acids in protein 0th-order structure, followed by evolutionary process. Orig. Life Evol. Biosph., 2014, 44, 279–281. Ikehara, K. Origins of gene, genetic code, protein and life: Comprehensive view of life system from a GNC-SNS primitive genetic code hypothesis. J. Biosci. 2002, 27, 165–186. Ikehara, K.; Possible steps to the emergence of life: The [GADV]-protein world hypothesis. Chem. Rec., 2005, 107–118. Ikehara, K. Towards Revealing the Origin of life.—Presenting the GADV Hypothesis; Springer Nature, Gewerbestrasse: Cham, Switzerland, 2021.