日本地球惑星科学連合2023年大会

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[J] 口頭発表

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[U-09] 持続可能な発展のための国際基礎科学年と地球惑星科学の貢献

2023年5月25日(木) 15:30 〜 16:45 展示場特設会場 (1) (幕張メッセ国際展示場)

コンビーナ:佐竹 健治(東京大学地震研究所)、田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、春山 成子(三重大学名誉教授)、座長:佐竹 健治(東京大学地震研究所)、田近 英一(東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻)、高橋 幸弘(北海道大学・大学院理学院・宇宙理学専攻)、春山 成子(三重大学名誉教授)

16:16 〜 16:39

[U09-06] 国際基礎科学年に向けた地質学分野の取り組み

★招待講演

*北里 洋1 (1.早稲田大学教育・総合科学学術院)

キーワード:国際基礎科学年、地質学、持続的発展

2022年7月から2023年6月にかけて、国連が定める国際基礎科学年(IYBSSD)である。基礎科学分野がそれぞれの科学をアピールし、地球の持続的な発展のために何ができるのかを考え、行動している。国際地質科学連合(IUGS)はIYBSSD発足時の公式パートナーのひとつとして、この活動に連携してきた。本講演では、まず、基礎科学としての地質学とは何かについて述べ、そのうえで、地球の持続可能な発展に向けて行っている国内外のさまざまなイベントについて紹介したい。
 基礎科学としての地質学とは何なのだろうか? 地質学、すなわちGeology とは、惑星地球を構成する岩石、地層、大気、水、生命などの起源と由来を明らかにし、地球の将来を予測する分野である。地質学の柱となる科学哲学は何かを改めて問うと、「時空間の科学的理解の基礎となる考え方」を提示していると理解する。地質学は、「地層累重則」という地層や岩石の重なりが物事の起こった順序、すなわち時の流れを地層・岩体の重なりや断層や貫入などによる変位といった時間を追って起こる現象を時の流れとして理解すること、そして同時代対比を通じて時空間の枠組みを与えているのである(北里、2022)。 17世紀にNicolai StenoisやLeonardo da Vinci などによって練られてきた層序学的考え方は、自明である故に看過されがちである。ただ、地質学が提示した「時空間の科学的理解に関する考え方」は、宇宙、惑星、地球における時の流れ、空間的な事象の前後関係を余すことなく示せるのである。地球の歴史を編纂する折の基本的な考え方になっているのみならず、惑星や深部宇宙で起こったことを読み解く際にも全く同じ考え方で、時空間を理解できる普遍性を持つ。
 こういった地質学的成果は地質図として表現される。地質図は地形図上に地層や岩体の分布を投影しているので、二次元図ではあるのだが三次元空間として読め、地層岩体の生成年代ごとに塗り分けられているので四次元図になるのだ。このことから、欧米の知識人の間では、地質図を居室に飾り、自然美として楽しむだけでなく、地域の地質学的事件を読み解くことを通じて、時空に遊ぶ知的なゲームが広がっている。
 国際地質科学連合は2021年に創立60周年を迎えた。その根底を支える地質学は200年以上の歴史をもち、その間、全球にわたる地層・岩石・鉱物・生命の記録を集積している。さまざまな地質情報を纏め、活用することを通じてわれわれ地球市民の持続的な発展につなげることができるのだ。2022年10月にはEarth Science Festival と称して、IUGS傘下の6委員会(CGI, COGE, ICS, INHIGEO, TecTask, Geoheritage, CGGB)と地質情報を統合するプロジェクトであるDDE が共同し、UNESCOをも巻き込むキャンペーンを行った。そこでは、地球規模課題の解決には地質学の知識と情報を活用することが必要であることを主張した。ただ、一方で地質学は国家間の資源争奪にも加担する矛盾を抱えている。「持続可能な発展」が耳障りの良いキャッチコピーではなく、「平和」、「貧困」、「差別」、「誰も取り残さない」という多様な言葉をも包含するためにはどうすればいいのか? 私たちは、そのために継続的な対話をしなければならないのだと思う。
 2022年5月、千葉県市原市田淵の養老川沿いの露頭に中期更新世基底を示すGSSP が設置され、中期更新世を「チバニアン」と呼ぶことになった。日本学術会議では「チバニアン」の意義を理解し、解説するシンポジウムが持たれた。それから1年。「チバニアン」の本質は国民のみなさまに伝わったのであろうか? 私たち、そして国民のインテリジェンスが問われている。