13:45 〜 14:00
[U13-07] 2023年トルコ,カフラマンマラシュ地震における動的・静的応力伝播と断層の連動・連鎖
キーワード:トルコ地震、東アナトリア断層、クーロン応力変化
2023年2月6日に東アナトリア断層帯(以下,EAF)で発生したトルコ,カフラマンマラシュ地震(M7.8)では,EAFの南西半分の約300km区間が活動し,その後9時間後には,本震震央から約100km北の東西走向のSürgü - Çardak 断層約160km区間で左横ずれの断層変位が生じM7.5の地震(エルビスタン地震)が発生した.その後,2月20日には本震破壊域南端でM6.3地震が発生するなど余震活動も続いている.著者は,この一連の地震活動は,広域のひずみ蓄積が十分な状態での動的・静的応力伝播によるシーケンスとして説明できると考えている.
まず,M7.8の震央(破壊開始点)は約300kmの破壊区間のEAFから南約20kmの地点に位置する.EAFから南西に短く分岐した既知のNarlı断層南端での左横ずれ変位に端を発する.同じく,このような主要活断層脇の分岐断層を震源とし,近傍の主要活断層に破壊が乗り移った地震として,2002年M7.9アラスカデナリ断層地震,2016年M7.8ニュージーランドカイコウラ地震なども挙げられ,大地震の発生過程を考える上で興味深い.さらに遡って,M7.8前の周辺の地震活動を見ると,約7ヵ月前よりこのNarlı断層周辺でほぼ群発地震ともいえるような地震活動の活発化が認められる(トルコAFAD震源カタログ).震央25km以内の地震活動は,それ以前の約7倍もの地震発生レートとなっていた.つまり,群発地震活動の一部がNarlı断層の動きを誘発し,その後,EAFの約300kmにわたるbilateralな動きを誘発した(例えば,Melgar et al., 2023)とも解釈できる.
一方,今回の約300kmの破壊域となったEAFのAmanosセグメント,Pazarcıkセグメント,Erkenekセグメントは,歴史地震記録などから,それぞれの最新活動時期は西暦521年(Mw7.5),1513年(Ms7.4),1893年(Ms7.1)と解釈されていた(例えば,Duman & Emre, 2013).ただし,Amanosセグメントについては1822年のMs7.5地震を起こしたとする考察もあり,これに基づいた静的クーロン応力伝播モデルでは,隣接するPazarcıkセグメントにおいて1822年以降に平均15bar程度もの応力蓄積となり,EAFにおける最大ハザードの区間と評価されていた(Nalbant et al., 2002).2023年地震時の左横ずれ断層変位も同セグメントで大きく,応力伝播モデルによる予測と対応する.
本震9時間後に発生したSürgü - Çardak断層でのエルビスタン地震は先行するM7.8地震による影響によるのか.この可能性を検討するために,USGSのM7.8地震の断層モデルを用いてSürgü- Sürgü断層上の静的クーロン応力(ΔCFF)を計算した(Toda et al. 2023; Stein et al., 2023).その結果,同断層中央部の震源付近で約3barの応力増加が推定された. M7.8とM7.5地震間に同断層上での地震は検出されていないが(本震直後の高い検知限界Mの影響もある),3barは平均的な地震時応力降下の1/10であり,「最後の一押し」には十分な載荷だったと考えられる.また,Duman & Emre (2013) によると,同断層は左横ずれ変位速度が3mm/yrにもかかわらず過去少なくとも2000年間に大地震は発生していないと評価されていた.
今後の広域余震活動を評価するために,USGSによるM7.8, M7.5両断層モデルによる周辺断層へのΔCFFを計算した.その結果,Sürgü断層南西端付近,Amanosセグメント南端付近で顕著な応力増加が考えられ,実際に余震活動が集中する.後者では2月20日のM6.3なども発生した.一方で,本震破壊域の北東延長部のEAFでは,2020年1月24日M6.8地震震源域を飛び越えて,その北東側でやや地震活動が高まっている.興味深いことに,2020年震源域では顕著な正のΔCFFに対する地震活動の反応が認められない.
まず,M7.8の震央(破壊開始点)は約300kmの破壊区間のEAFから南約20kmの地点に位置する.EAFから南西に短く分岐した既知のNarlı断層南端での左横ずれ変位に端を発する.同じく,このような主要活断層脇の分岐断層を震源とし,近傍の主要活断層に破壊が乗り移った地震として,2002年M7.9アラスカデナリ断層地震,2016年M7.8ニュージーランドカイコウラ地震なども挙げられ,大地震の発生過程を考える上で興味深い.さらに遡って,M7.8前の周辺の地震活動を見ると,約7ヵ月前よりこのNarlı断層周辺でほぼ群発地震ともいえるような地震活動の活発化が認められる(トルコAFAD震源カタログ).震央25km以内の地震活動は,それ以前の約7倍もの地震発生レートとなっていた.つまり,群発地震活動の一部がNarlı断層の動きを誘発し,その後,EAFの約300kmにわたるbilateralな動きを誘発した(例えば,Melgar et al., 2023)とも解釈できる.
一方,今回の約300kmの破壊域となったEAFのAmanosセグメント,Pazarcıkセグメント,Erkenekセグメントは,歴史地震記録などから,それぞれの最新活動時期は西暦521年(Mw7.5),1513年(Ms7.4),1893年(Ms7.1)と解釈されていた(例えば,Duman & Emre, 2013).ただし,Amanosセグメントについては1822年のMs7.5地震を起こしたとする考察もあり,これに基づいた静的クーロン応力伝播モデルでは,隣接するPazarcıkセグメントにおいて1822年以降に平均15bar程度もの応力蓄積となり,EAFにおける最大ハザードの区間と評価されていた(Nalbant et al., 2002).2023年地震時の左横ずれ断層変位も同セグメントで大きく,応力伝播モデルによる予測と対応する.
本震9時間後に発生したSürgü - Çardak断層でのエルビスタン地震は先行するM7.8地震による影響によるのか.この可能性を検討するために,USGSのM7.8地震の断層モデルを用いてSürgü- Sürgü断層上の静的クーロン応力(ΔCFF)を計算した(Toda et al. 2023; Stein et al., 2023).その結果,同断層中央部の震源付近で約3barの応力増加が推定された. M7.8とM7.5地震間に同断層上での地震は検出されていないが(本震直後の高い検知限界Mの影響もある),3barは平均的な地震時応力降下の1/10であり,「最後の一押し」には十分な載荷だったと考えられる.また,Duman & Emre (2013) によると,同断層は左横ずれ変位速度が3mm/yrにもかかわらず過去少なくとも2000年間に大地震は発生していないと評価されていた.
今後の広域余震活動を評価するために,USGSによるM7.8, M7.5両断層モデルによる周辺断層へのΔCFFを計算した.その結果,Sürgü断層南西端付近,Amanosセグメント南端付近で顕著な応力増加が考えられ,実際に余震活動が集中する.後者では2月20日のM6.3なども発生した.一方で,本震破壊域の北東延長部のEAFでは,2020年1月24日M6.8地震震源域を飛び越えて,その北東側でやや地震活動が高まっている.興味深いことに,2020年震源域では顕著な正のΔCFFに対する地震活動の反応が認められない.