日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] 気象学一般

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、久保田 尚之(北海道大学)、Sugimoto Shiori(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)、清水 慎吾(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:45

[AAS08-P08] 線状降水帯上流部における小型IoTセンサー網を用いた大気観測のインパクト評価

★招待講演

*梅宮 悠輔1、入江 凜1、飯塚 達哉1小阪 尚子1、久田 正樹1前島 康光2 (1.NTT 宇宙環境エネルギー研究所、2.理化学研究所 計算科学研究センター)

キーワード:観測システムシミュレーション実験、水蒸気観測、線状降水帯、Iot センサー

集中豪雨の6割以上の原因とされている線状降水帯は、年々増加傾向にあり [1]、線状降水帯による局所的かつ長期的な雨は、時として生活圏に甚大な被害をもたらす。被害を減らすためには、より早期により正確な予測情報を提供する必要があり、国をあげて様々な取り組みがなされている [2, 3]。特に、九州域についてはレーダーによる雨雲観測や電波の遅延を活用した水蒸気観測網が広く展開されており、雨雲の発生や、海域から陸域への水蒸気の流入を捉え、予測の早期化をめざす試みがある [4]。
しかしながら、海域の直接観測は、陸域に設置した機器や観測船による観測が主で、広域性や定常性に欠ける。そこで我々は、小型のIoTセンサによる海域の広域かつ定常的な観測インフラ(NTT観測)の構築を行い、その観測データによる線状降水帯予測への貢献をめざしている [5]。ただし、実際の構築には多大なコストがかかるため、構築前にNTT観測の線状降水帯予測に対するインパクトを評価するとともに、観測領域や点数、項目といったセンサの要件にフィードバックを行うことで、効率的に構築する必要がある。
そこで、本研究では、観測システムシミュレーション実験(OSSE)によって、シミュレーション上で、NTT観測の検証を行う。OSSEによって、九州全土を覆う仮想的なフェーズドアレイレーダーの観測網の線状降水帯予測に対するインパクト評価を行った先行研究 [6]を踏襲し、NTT観測の同線状降水帯事例に対するインパクト評価を行う。
本実験は、以下の通り実施する。OSSEにおける真値(Nature run)は、令和2年7月豪雨における線状降水帯を良く再現した、先行研究 [6]のNature runのデータを採用した。観測データはNature runから作成し、多数の小型IoTセンサが海域の大気中に配置されている状況を仮定して、領域は九州西沖の縦200 km、横100 km、高さ1000 m以下とし、項目は水蒸気と風向・風速に絞って、10分ごとに用意する。この観測データを先行研究 [6]におけるcontrol runに同化する。
本実験の結果は、降水帯の位置や降水量の平均二乗誤差を評価し、NTT観測が予測精度向上にどの程度寄与するかを議論する。さらに、先行研究 [6]との結果の比較も行い、雨雲を捉えるレーダー観測と水蒸気を捉える大気観測の差についても議論する。NTT観測による大気観測は、水蒸気の流入を捉えるため、線状降水帯の発生タイミングや維持についての予報精度が上がることが期待される。

[1] 加藤輝之, 「アメダス3時間積算降水量でみた集中豪雨事例発生頻度の過去45年間の経年変化」, 天気, 2022, 69 巻, 5 号, p. 247-252
[2] 気象庁, 「線状降水帯予測精度向上ワーキンググループ」, https://www.jma.go.jp/jma/kishou/shingikai/kondankai/senjoukousuitai_WG/senjoukousuitai_WG.html, 2023/02/07 閲覧
[3] 防災科学技術研究所, 「V. 線状降水帯観測・予測システム開発に関するお知らせ」, https://www.nied-sip2.bosai.go.jp/research-and-development/theme_5.html, 2023/02/07 閲覧
[4] 防災科学技術研究所, 「報道発表『線状降水帯の水蒸気観測網を展開 — 短時間雨量予測の精度向上への挑戦 —』」, https://www.bosai.go.jp/info/press/2022/20220629.html, 2023/02/07 閲覧
[5] NTT, 「超広域大気海洋観測技術」, https://www.rd.ntt/se/technology/iot_satellite.html, 2023/02/07 閲覧
[6] Maejima Y., and co-authors, “Observing System Simulation Experiments of a Rich Phased Array Weather Radar Network Covering Kyushu for the July 2020 Heavy Rainfall Event”, SOLA, 2022, Volume 18, Pages 25-32