日本地球惑星科学連合2024年大会

講演情報

[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS08] 気象学一般

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:那須野 智江(国立研究開発法人 海洋研究開発機構)、久保田 尚之(北海道大学)、Sugimoto Shiori(JAMSTEC Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology)、清水 慎吾(国立研究開発法人防災科学技術研究所)

17:15 〜 18:45

[AAS08-P09] アンサンブル予報値を入力した移流拡散モデルによる火山灰輸送の確率予測

*新堀 敏基1石井 憲介1古川 大誠2、林 洋介2 (1.気象研究所、2.気象庁)

キーワード:移流拡散モデル、アンサンブル予報システム、定量的火山灰情報

火山噴火に伴う噴煙から,風により輸送され落下する火山礫や火山灰などの火山噴出物による影響は,噴火の規模が大きくなるほど広域に及ぶ.火山噴出物による災害を未然に防ぐために,大気中の浮遊火山灰および降灰・降礫に関する予測情報として,気象庁から発表される航空路火山灰情報(VAA)と降灰予報がある.これらの情報作成においては,予報領域や予報時間に応じて,全球(GSM),メソ(MSM)および局地(LFM)の各数値予報モデルによる決定論的予報値(GPV)を入力したオフラインの移流拡散モデル(ATM, 気象研究所技術報告84 (2021))を実行している.ただし,降灰予報は2015年3月から予想降灰量を示す定量的な情報を発表しているが,VAAは火山灰拡散予測を付加し始めた1999年4月から予想拡散領域のみ示す定性的な情報に留まっており,いずれも予測の信頼度を表す確率情報は発表していない.
ATMによる火山噴出物の輸送予測に不確実性をもたらす要因には,初期値の噴煙供給源(ESP),入力値のGPVそしてATM自体の不完全性がある.大気場の数値予報GPVについては,その不確実性を定量化するためにアンサンブル予報(EPS, 気象研究ノート201 (2002))が実用化されており現在,全球(GEPS)およびメソ(MEPS)のアンサンブル予報システムが運用されている(数値予報解説資料56 (2024)).アンサンブル予報のメンバーは,摂動を加えていないコントロールランと特異ベクトル法で得られた初期摂動をバリアンスミニマム法で混ぜ合わせ(GEPSではさらに局所アンサンブル変換カルマンフィルタとも混合)された摂動ランから成っており(数値予報課報告・別冊52 (2006), 62 (2016)),誤差成長率は全摂動同等で予報結果は全摂動等価になっている.したがって,ATM予測における大気場の不確実性については,GEPSやMEPSのアンサンブルGPVから運用可能なメンバー数を任意に抽出して入力することにより,確率情報を付加することが可能になる.
気象研究所では,2024年度から始まる中期研究計画の一つ『火山活動の監視・評価及び予測技術に関する研究』の副課題3「衛星解析等による火山噴出物の濃度・確率予測技術」において,火山灰輸送の確率予測技術を開発することとした.濃度予測とともに確率予測技術が確立すれば,今後勧告化される予定の定量的火山灰情報(QVA,川口・他,連合大会 (2022);古川・他,今大会)に資することもできる.本発表では,大気場の不確実性に起因する火山灰輸送の確率予測に関して,ATMに高分解能な決定論的GPVとアンサンブルGPVを入力した場合の予測結果や予測時間の延長に伴う誤差成長率の違い,アンサンブル平均,スプレッド,予想最大降灰量や予想最大濃度を示した可能性マップのメンバー数を変えた感度実験などを報告する予定である.アンサンブルESPと組み合わせた確率予測は今後の課題である.