日本地球惑星科学連合2024年大会

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[J] ポスター発表

セッション記号 A (大気水圏科学) » A-AS 大気科学・気象学・大気環境

[A-AS10] 成層圏・対流圏 (大気圏) 過程とその気候への影響

2024年5月28日(火) 17:15 〜 18:45 ポスター会場 (幕張メッセ国際展示場 6ホール)

コンビーナ:江口 菜穂(九州大学 応用力学研究所)、野口 峻佑(九州大学 理学研究院 地球惑星科学部門)、原田 やよい(気象研究所)、田口 正和(愛知教育大学)



17:15 〜 18:45

[AAS10-P04] 大気潮汐の長期変動について

*菅原 一貴1坂崎 貴俊1平原 翔二2吉田 康平2 (1.京都大学 大学院理学研究科、2.気象庁気象研究所)

キーワード:大気潮汐、長期変動、再解析、地球システムモデル

大気潮汐とは、大気の周期的な日変動現象を指し、一日潮、半日潮、といったような成分が存在する。その励起元は重力ではなく熱である。大気潮汐については古くから研究がなされており、1980年代頃には線形理論(古典潮汐論)も整備された古典的なテーマである。観測的には、長期的な平均値や季節変化の特性はわかってきた一方、より長期的な変動については準2年周期振動(QBO)に伴う変動が知られている程度で、さらに長期的なトレンドについては研究が少ない。特に、大気潮汐の議論が活発であった20世紀後半にはまだ再解析データやモデルデータが十分ではなく、数十年単位での解析は困難であったことが要因であろう。そのため本研究では、QBOに伴う変動に加えて、大気潮汐の純粋な長期変動についても調査を行った。
解析には、ERA5再解析データと気象研究所地球システムモデル(MRI-ESM v2.0)の長期積分データを使用した。後者については、現実の地球を再現した実験(以下Historicalとする)と、日射量だけを変動させ、二酸化炭素量などの人類が関わっている要素を産業革命以前から固定した実験(以下CO2fixedとする)の2種類のデータを使用した。
ERA5については1950年から2017年までの68年間の1時間ごと、Historicalについては1850年から2014年までの165年間の3時間ごと、CO2fixedについては1850年から2020年までの171年間の3時間ごとの地表面気圧データを用いて月平均の潮汐成分を取り出した。ただし本研究では、経度方向には太陽と共に動く太陽同期成分(一日潮の西進波数1、半日潮の西進波数2)に注目する。また、一日潮・半日潮いずれも熱帯で振幅が大きいため、以下では熱帯域(南緯10度から北緯10度)で平均した成分をもとに議論する。
まず長期トレンドについて調べたところ、半日潮、一日潮共にERA5の結果はモデルの結果と大きく異なっていた。再解析データに見られる各種トレンドは同化される観測データの質的・量的変化の影響を受けやすいことが知られており、今後純粋な観測データなどとも併せた更なる検証が必要である。一方、モデルの二つの実験(Historical、CO2fixed)間で比較したところ、半日潮の振幅については、HistoricalがCO2fixedに比べて1940年頃から上昇傾向を示すのに対し、一日潮についてはその傾向は見られないことが分かった。すなわち、半日潮の振幅は温室効果ガスの増加の影響を受けやすいことが示唆される。具体的には、気温上昇に伴う対流圏での日射の吸収量(水蒸気加熱)の増加と、大気の温度構造の変化の2つが考えられるが、もし前者が原因であれば、対流圏加熱が主要な励起元となる一日潮でも上昇傾向が見られるだろう。よって大気の温度構造の変化の方が効いていることが推測される。
一方、大気潮汐のQBOに伴う変動についても調べたところ、モデルの結果のみではあるが、これまで報告があった半日潮のみならず一日潮にもシグナルが検出された。
今後は、他の再解析データやモデルデータ、さらには実際の観測データを解析することで、上記の結果の信頼性を調査すると共に、古典潮汐論の枠組みで上記の結果の物理プロセスを明らかにしたい。